さよならだけが人生よ
「今日は奮発してファミレスで夕飯にしようよ」
かおるの提案にさつきも同意する。
いよいよ投票日を明日に控えた土曜の夜。
結果はともかく、異世界の出来事のようなこれまでの戦いに18歳のふたりは充実感を持っていた。
交差点の向こうのファミレス。
歩行者信号が青に変わった瞬間、渡ろうとするかおるの袖をさつきはぎゅっと引っ張った。
「え」
ふっと2人が右を見ると、どう見てもブレーキを踏む気配のないダンプカーが赤信号を無視して交差点に突っ込んでくる所だった。
危険を回避できたと安堵したふたりだったが、次の瞬間、戦慄した。
ふたりの脇を歩行者信号の青だけをまっすぐ見て手を挙げ、ととと、と渡り始める小さな男の子。
絶叫するその子の母親。
ああ・・・・
心の中で呻くさつきの眼前で、かおるはダンプカーに跳ね飛ばされた。
本当に、宙を舞い、アスファルトの上に落ちた。
かおるを跳ねた後、ふたりが向かおうとしていたファミレスの植え込みに突っ込むダンプカー。
かおるに押されて命を救われた男の子の泣き叫ぶ声。
さつきはかおるの落下点に走った。
即死だった。
目は開けているが出血はほとんどないきれいな顔だった。
「かおるくん・・・」
さつきは手のひらでかおるの目をそっと閉じさせた。その時初めてかおるのまつ毛がとても長いことに気付く。
きらきらと光るかおるのまつ毛。
涙なのだろうか。
さつきはかおるの瞼に口づけをした。
・・・・・・・
かおるの訃報を聞いた坂田は深夜、灯明を灯し、ひとり神前に
「どうぞ、この国に再び正義を取り戻させ給え。何卒、何卒っ・・・・」
一睡もせずに明けの明星を仰ぎ、配達されたばかりの新聞を坂田が見るや、彼はわなわなと手を震わせた。
『さつき候補、パートナーを見殺し』
衆院選の投票日を告げる一面の見出しと同じ大きさであり得ないタイトルが並んでいた。『やつら』は事実を捻じ曲げることにすら自責の念はないらしい。
「外道どもが・・・!」
坂田は奥歯が割れるほどに噛み締めた。
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