#2 逃走クライシス
コロはただの宙に浮いている毒舌を吐くロボットではない。様々な機能がその小さな球体の身体に備えられている。地理情報システムや、ジャミング機能。そしてこの閃光手榴弾のような強烈な光を放つことも・・・。
「くっ!なんだ!?」
強烈な光を直視してしまった統制軍兵士は手で目を抑えたじろいでいる。その隙を狙ってユラとコロは路地へと走って逃げる。いくら屈強な兵隊でも、油断した所にあの閃光を直視すれば少なくとも十数秒は身動きが取れないだろう。
その隙にユラとコロは咄嗟に走り出す。
『だからあれほど気をつけろって言ったんです!』
「あとだあと!今はとにかく逃げるぞ!」
ユラがそう叫び、一目散に走って逃げていく。
#2
東京 統制軍キャンプ地
周囲を木々で囲まれた公園跡地にできたこの場所は、数十人の統制軍の兵隊の活動拠点として存在している。半径数十メートルに仮眠用や救護用のテントが張られ、その周りに補給物資などが入った小コンテナが乱立している。
その中で、若いながらも指揮官としてその手腕を発揮している者がいた。その名はアツギ、階級は少佐だ。
そんなアツギが部下と2人で話し合っている。そこに慌てた様子で走ってきた別の部下が声を掛ける。
「隊長!」
その慌てぶりは声にも表れ、一目見て何か異変が起きたことがわかる程だ。
「なんだ」
「B-23地区で不審な者を発見、制止を促しましたが抵抗して逃走しました」
「不審な者だと?もっと具体的に詳細を伝えろ」
鋭い目つきで兵士を睨む。その冷徹さと冷静さが彼の秀たるものであった。
「はっ・・・!不審者は約17~20歳くらいの少年一人と、小型の浮遊型ロボット1体です」
「たったそれだけの者に逃げられただと?」
より一層険しい目つきを見せ、声色にも怒気を纏う。
「も、申し訳ありません!し、しかし少年についているロボットが我々の妨害をしていて・・・」
萎縮する兵士を見て、深いため息をつく。たった一人の子供をロボットがついているとは言え捕らえられない現状に怒りを感じる。
「それ以上の言い訳は聞かん、一人の少年に翻弄されるようでは統制軍の名が廃れる。貴様らで手が余るというなら私が向かおう」
アツギはそういうと、数人の部下を連れ車両に乗り込む。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
『次の大通りに生体反応、大通りに出る前の路地を左に曲がってください』
統制軍から逃げているユラ達。コロに内蔵されている様々な小型のセンサーによって半径数十メートルに何かが居ることは察知できる。コロの支持通り路地を左に曲がると、建物に挟まれた狭い道が続いている。
「それにしても、これほどの人数の統制軍が居るなんて・・・。コロはこの状況どう思う?」
『あくまで推論ですが・・・何かを目的に東京一帯に部隊を配置していると思われます。その目的が何なのかはわかりませんが』
「道理で人が寄り付かないわけだ。猛獣なんかよりも恐ろしい奴等がいたんじゃな」
統制軍が沢山いる。その事実だけで頭が痛くなりそうだ。ユラ達の【目的】を達成するのに統制軍の存在は邪魔でしかない。
目的・・・―――
「もしかして、奴らの目的が俺たちの目的と一緒なんてこと・・・」
ふいに思いついた突拍子もない可能性。だがありえないことではない。
どんどん積み重なる課題にユラは嫌気がさすように頭を掻く。
『とにかく、今は見つからないように目的の場所に向かうしかありませんね』
ユラの思っていた事を先にコロが言い出す。そう、とにかく進むしかない。そのために東京に来たのだ。
『・・・!マスター止まって!」
コロが限りなく小さく、且つ緊迫した声を発する。
『前方の曲がり角の先に生体反応・・・おそらく2人います』
おおよそ20メートル先に右に道が曲がっている角があり、その先に統制軍兵士2名が居るとコロは言う。
「くそっ、こっちの道はダメか。引き返すしか・・・」
『待ってください!後方からも2人ほどの生体反応・・・』
とてもまずい状況だ。狭い路地で前後から挟み込まれる。手が届く範囲に建物に入るようなドアや窓はなく建物の中に逃げ込むことはできない。強行突破で前方の角から飛び出る瞬間にコロの閃光を浴びせる策もあるが、さっきそれを食らった兵士が他の兵士に報告して対応してくることも十分に考えられた。
全思考が状況の打開策を考える。だがそれでも有効な手段は思い浮かばない。
『・・・仕方ありません。とっておきを出すしかないようですね』
ユラが神経を尖らせて打開案を考えている横で、コロがその丸い身体の側面を開かせ、中から筒状の物体が出てくる。
『わたしの身体を掴みながらついてきてください』
コロがそう言い残すと、筒状の物体から大量の煙が噴出し始めた。つまるところこれはスモークグレネード。それも尋常じゃないほどの煙を噴出している。狭い路地なことも相まってすぐさま視界を奪っていった。
コロが様々な機能を持っていることはわかっていたが、こんな機能がある事は聞いていない。なんで教えてくれないのか。
『マスターこっちです』
ユラの目の前にコロの丸い身体が現れる。煙を縫うように現れたため少し驚いたが、それでもさっき言われたようにコロの身体を掴むように持ち、引っ張られながらその場を離れていく。
「なんだこの煙は!」
困惑したような声で統制軍の兵士は叫んでいる。
「周囲を警戒しろ!近くにいるぞ!」
1メートル先も見えない程の煙の濃さと量で兵士は全く何もできないでその場で立ち尽くしている。その兵士の合間をコロに引っ張られたユラが駆け抜ける。通り抜けた後ろで兵士たちがまだ困惑した声で慌てふためいている。
その隙にユラ達は兵士たちが居ない方向へと逃げて行った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
統制軍の追っ手から逃れていたユラとコロは、先程いた場所よりも、建物があまり崩壊して居らず、災厄以前の状態がはっきりとわかる場所にたどり着いていた。
「あんな隠し玉があるなら最初から使ってくれよな、絶体絶命だと思っちまったじゃないか」
先ほどのスモークグレネードだ。大量の煙は敵の視界を奪えるのに非常に有効だった。少なくとも何らかの赤外線スコープのようなものを使われない限りは。
『私の身体に内蔵されているスモークグレネードはあの一つっきりですよ。何回も使える発光と違って。だからここぞという時までとっておいたんです。また同じ状況に陥ってしまったら今度こそ絶体絶命ですね』
なるほどたった一回きりの秘技だったのか。コロの言う通りこれで同じ手は使えない。またあんな状況にならないようにより慎重に行動しなければ
『目的の場所からだいぶ離れた所まで来てしまいましたね・・・』
「しょうがないだろ、奴らの追っ手から逃げてるうちにこっちまで来てしまったんだから」
むしろ無事に逃げ延びている事に満足すべきだろう。大体がコロのおかげなのが少しむず痒いが・・・。
「貴方たち・・・誰?」
静かな、風の音しか聞こえない空間で、透き通った少女の声が頭上から聞こえてきた。ユラが見上げるとそこには長い銀髪を靡かせて、歩道橋の手すりの部分に座り込んでいた。
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