東京編

#1 東京

50年ほど前・・・。後に厄災と呼ばれた災害によって人類は衰退し、各地の美しい文明の象徴である都市は崩壊していった。地球上の総人口は100分の1にまで減ったとされ、それは日本でも同じであった。

 そして今現在、人々は各地で厄災以前へ復興を目指し、日々努力を続けていた。


 少年ユラとロボットのコロは、そんな中、ある目的の為に、旧日本の中心地であった東京を目指していた。










#1     













目の前に広がる崩れ落ちた建造物の数々。瓦礫は砂塵と交じり合い廃墟と化した建物が群れを成していた。



「ここが東京・・・」



 東京・・・かつてこの国が栄えていた頃は、ここは経済や商業の中心地であった。だがしかし、今やその勢いは見る影もなく、崩壊した建物だけが後に残っていた。美しい木々や山々に囲まれていたこの国は、今やその半分が砂漠と化し、隆盛の象徴として立ち誇っていた建物は半壊し、そこも砂漠に呑まれようとしていた。


 その【東京】なる所にたどり着いたのが今から10分前。いや、正直もっと前からたどり着いていたかもしれないが、どこがその境なのかは、砂漠の影響でわかるはずもなかった。




「たどり着いたはいいけど、こうも広いと【目的の場所】がどこかわからないな」



吹き舞う砂を纏った風が目に入るのを防ぐためにゴーグルを付けたユラが、またもや溜め息交じりにそう呟く。



『ここからさらに東に行ったところですね』


 

 コロには厄災が起こる前の地形や地域情報のデータがインプットされている。【目的の場所】の情報もコロが持っている為、その都度場所を聞くことができるのは便利だ。



『それより、さっきの統制軍が近くにいるかもしれません。移動の際は十分に注意してくださいよ?』


 

 統制軍、奴らの目的が何なのかはわからない。だけど鉢合わせないに越したことはない。



「ああ、出来るだけ開けた場所は避けて行こう」



 瓦礫の陰を移動すれば少しは見つかる可能性も低くなる。ユラ達は散乱するコンクリートの山をかき分ける様に進んでいく。そうしているうちに徐々に風景に変化が生じる。砂と瓦礫しかなかった景色から徐々に、葉をしっかりと生やしている木々が姿を表すようになってきた。

 数日間とはいえ、ずっと砂しか見ていなかった為に妙に懐かしく感じる。

 

 途中にある【浄水機】で水分を補給する。これは、町の各地に点在する雨水や、川や海水などから水を引っ張ってきて、浄水加工し、同時に貯水することができるものだ。



「それにしても、こんな無人の都市なのに、浄水機が稼働してるなんてな」



 水筒に水を補給しながらそう呟く。ユラにとって水分の補給経路の確保は最優先事項であり、正直この浄水機が稼働しているとは思っていなかった。その場合違った方法で水分を確保する他無かったが、浄水機が稼働していたのは幸運と言える。



『浄水機は太陽光発電の為、長期間外部から損傷を与えない限りは動き続けますからね』



 コロはそう言うが、それにしたって何十年も人が住み着いていない、誰も使う人がいないのに稼働し続けるのはある意味残酷だな・・・とユラは考える。人々に新鮮な水を飲んでもらう為だけに造られた存在。その存在意義は人々の消失によって失われてしまった。




「せめて俺たちみたいに、たまに来る来訪者の為に役に立ってくれればいいけどな」



 コップに注いだ水を美味しくいただいて水筒をリュックに入れ直す。



「さて、目的地まであと少し。先を進もう・・・」


 




『ユラ!!!』





 コロが突然大きな声を発した。途端、背後から1発の銃声が、周囲を響かせた。

 急いで振り返る。そこには、全身を強固な装備で武装した、統制軍の兵士が1人立っていた。手には自動小銃を持ち銃口を空に向けている。おそらく威嚇と警告が混じった意図で撃ったのだろう。



「貴様!、こんなところで何をしている」



 それはこっちのセリフだ。そう言い放ちたい気持ちを抑え、どうするべきかを考える。もしここでおとなしく捕まってしまっては、強制労働所へ送られてしまうだろう。かと言って抵抗してもこっちが勝てる可能性は限りなくゼロに近い。



「見たところまだ若いな、お前のような子供がこんなところで何をしているんだ。おっと動くなよ、一歩でも動いたら射殺する」



 兵士との距離はおよそ15メートル。兵士は徐々に距離を縮める為に歩を進めている。常に銃口をこちらに向けながら・・・。おそらく次に放つ銃弾は威嚇ではなく確実に殺意を持ったものだろう。迷ってる暇はない・・・。



「コロ・・・5秒後にやれ」



 コロにだけに聞こえる程の大きさで呟く。コロも何をすべきかわかっている。ユラは静かに目を閉じた。


 そしてその瞬間、コロから強烈な光が放たれた






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