荒廃のアルマ
オスカ
プロローグ
今にも崩れそうな建物の瓦礫が転がっている。地面にはガラスのやコンクリートの破片が散らばり、裸足で歩けばたちまち怪我をしてしまう程だ。かつての盛況など信じがたい程の、大都会の面影は今や見るも無残な形で残っている。
空へと伸びていたビル群も、今はその大半が崩壊し、その砕片に草花が根を張りつけている。
「今日も、誰もいないな」
わかりきっていることを、それでも心の奥底にある期待の念が声を発する。少女は崩れたビルの穴が開いた壁の部分に座り込んでいた。
#0 『プロローグ』
砂漠の道をゆっくりと歩いている一人の少年と、宙に浮く球体のロボット。ロボットの方はどういう原理なのか、空中を浮いている為の浮力も、前に進む推進力もその身体から出ている気配はない。それでも目に見えない何かの力でゆらゆらと浮いていた。
「コロ、本当にこっちで合ってるのか?」
深くフードを被り、砂漠越えの為に、多くの荷物が入ったリュックを背負った少年【ユラ】が水分を失い擦れがかった、苦しそうな声を出す。砂漠の横断によって徐々に体力を奪われ、すでに限界状態になっていた。
『ええ、方向はこっちで間違ってませんよマスター。あと数時間もすれば目的地に着くはずです』
ロボットにしては嫌に鮮明な音声で返答する。この球体のロボ
「あの岩陰で少し休憩だ、これ以上歩き続けたら本当に死んじまう」
少年の目線の先にある大きな岩。ちょうどいい陰ができており、そこならこの太陽の光を遮るものが何もない空間よりは少しはマシだろうと考えた。
荷物を下ろし、影になっている岩場に座り込む。流石に日向の部分よりは少しばかりひんやりした温度の岩でさえも安らぎになっていた。
『まったくマスターはもうバテたんですか?やっぱりニンゲンは不甲斐ないですね、労いの言葉でも掛けてあげましょうか?頑張れー頑張れーマスター』
もはやそれは労いではなく煽り言葉になっていた。勿論悪気があって。
「物理的にシャットダウンされたくなかったら少し黙っててくれ」
『あら、通常時ならまだしも、今のヘロヘロクタクタなマスターに負ける確率は0コンマの後に0を746個つけた後に1がつくほどの確立なのでそれでも良ければお相手します』
全くもって主人に対する礼儀というものが存在しない。出会った当初からそれは変わらないが・・・。
「とにかく、少し休ませてくれよ。無限ともいえるエネルギーを持つお前とは違って、出来そこないの【人間】には休息が必要だからな」
多少の皮肉を交える元気はあれども、体力的に相当消耗していることには変わりない。目的地に少しでも早く近づくために、休息をとる。
少年は、傍に置いたリュックの中からアルミ製の水筒を取り出した。そして水筒の口を開け、水分を補給する。砂漠に入る前の街で満タンまで詰め込んだ水筒3本も今や2本は飲み干し、最後の1本もほとんどなくなりかけていた。
「こりゃどこかでオアシスを見つけないとまずいな・・・。コロ、近くに水辺なんかないのか?」
『ありませんね、目的地までは我慢しないと』
「我慢と言ってもなぁ、目的地に水があるとも限らないし」
再び水筒をリュックに入れる。残り2口程度しかないこの水は今や高級品だ。大事にしなければいけない。
『・・・ユラ、私が周囲から水のあるところを探してきましょうか?』
コロが【マスター】ではなく名前で呼んでくる。本気で心配してくれている時の特徴だ。機械に本気も冗談もあるのかはわからないが。
「心配ないよ、数時間で着くなら力尽きる前にたどり着ける」
一息つき、再び荷物を背負おうとした時、複数のエンジン音が聞こえてきた。ユラは岩場に身を隠したままその音のする方を覗いてみる。
「あれは・・・サンドビーグル・・・統制軍のマークだ」
サンドビーグルと呼ばれる、砂漠の移動に特化された、ホバー移動式のトラックだ。そしてその車両に描かれている八つの方向に伸びた鉤のマークは、統制軍のマークだった。
統制軍・・・文明の崩壊後、人類の再統制を目指した者達が設立した軍隊。しかしその実情は従わない者を殺し、搾取し、理想とは程遠い無法者のような者達だった。
その統制軍のサンドビーグルが、およそ10台ほど連なって、自分達が目的地としている場所へ向かっている。目的はわからないが、向かう場所が同じだということが厄介なのは変わりない。
もちろん武装した兵もいるはずだ。こっちが武器として使えそうなものは護身用に腰のガジェットに付けたサバイバルナイフ1つだけ。ライフルを装備した兵と正面切って戦えるものではない。
「苦労して砂漠をもう少しで超えれると思えば、また別の問題かよ・・・まいったな」
溜め息交じりの声が出てしまう。もし奴らに見つかれば、良くて労働所送り、最悪即射殺されることもあるだろう。危険を伴うとわかっていても、目的地に向かうことを止めようとは思わない。
「仕方ない・・・。コロ、周囲を警戒しながら進もう」
『はい、マスター。でも、私は壊れたくないので危険だと判断したら一目散に逃げますんで』
本当にそうしそうで怖い。いや、コロが戦力的に役に立たないのはわかっているが・・・。
兎にも角にも、岩場から離れ、再び目的地へ向けて歩き出した。
人類が衰退する前は、大都市であった、【東京】へ・・・―――
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