エピソード21《ガーディアンの暗躍と――》


 バトルが開始され、上条の遠距離ライフルメインに対し、蒼空はチェーンソーブレードとも言えるような装備を両腕で構えている。

二刀流ではなく大型の物であり、人間の体力で振り回せるか疑問のある大きさだ。

上条の方は遠距離狙撃で蒼空を狙い撃つという作戦を考えていた。

大型剣、それも両手がふさがっている状態では、片手銃をオプション武装で持っていたとしても、それを構えるにはタイムラグがある。

それを踏まえれば、向こうの近距離で戦う必要性は全くない。鉄壁の攻略法だが、これが確実だと上条は思っていた。

しかし、その攻略法は元上級ランカーである蒼空の前には無意味に等しかったのである。

「あのブレードは……中距離ではなく、遠距離にも!?」

 上条が驚くのも無理はない。

蒼空の持っているチェーンソーブレード、それは中距離だけではなく、刃部分が伸びると言う武器でもあったのだ。

「蛇腹剣とは違う、どういった原理で――」

 上条が原理を見極める時間を与えることなく、全ての行動を見きっていたかのように蒼空はブレードを分離、刃は遠隔操作されたビームダガーとなって上条にピンポイントでダメージを与える。

「マジかよ」

「30秒経過していないと言うのに」

「これが、ランカーの力なのか?」

 周囲も驚くのは無理がない。上条は他のARゲームでもランカーと言われており、実力は申し分がない。

しかし、それ以上に蒼空の方が強すぎたのだ。圧倒的なレベル差、それが上条の敗因である。

決着後、上条には斬られたという実感がない。

ARゲームだから実感がないという訳ではなく、そのままの意味である。

何をされたのか気づかない……それが蒼空かなでのトップランカーに近い能力でもあった。

「気が済んだか?」

 蒼空は若干呆れている。上条が違いを教えるはずが、まさかの展開に発展したからだ。

そして、しばらくして上条は口を開く。

「そう言う事ね。あなたがパルクール・サバイバーで即座に適応出来た理由が…」

 上条の言う『即座に適応』とは、ライセンスを発行していない時の非公式記録の事だ。

現在は諸事情があっての非公式記録と言う事で、無免許起動という扱いではなくなっている。

しかし、一部のネット住民等からは運営が情報操作をしていると指摘される等、未だに火種が消える事はない。

一歩間違えれば、再び炎上してもおかしくはない案件なだけに、慎重な取り扱いが求められている事案でもあった。

「その感覚で動かす事は、パルクール・サバイバーでは予想外の落とし穴に落ちる事になる」

 次に口を開いた上条からは、予想外の言葉が飛び出した。落とし穴とはどういう事なのか?

蒼空が考える時間もないまま、上条は自分の思いを彼にぶつける。

「他のARゲームとシステムが酷似している事を理由にして、パルクール・サバイバーへ他ARゲームのガジェットを持ち込むプレイヤーがいる。しかし、その行為は一歩間違えれば自分が……」

 上条は話が若干長くなる為、一度離脱をする事にした。

そして、蒼空がプレイを終えるまで待つ事にするのだが、次々と相手を倒していく内に昼の時間になっていたのである。



 午前12時15分、2人はゲーセンを一時離脱してファストフード店へと足を運ぶ。

その後、ドリンクとハンバーガーを購入して適当な席へと付く。

適当と言っても、パルクール・サバイバー用のモニターがある所を選んだのだが……。

「あなた、格闘ゲームはやった事ある?」

 上条の唐突な質問に対し、蒼空は少しと答えた。

そして、上条は自分のタブレット端末を取り出して、それを蒼空に見せる。

「格闘ゲームの場合、一部の例外を除いてシステムが似通った物を使用している。実際、Aというタイトルの格闘ゲームをプレイした人間が、今度はシステムが酷似したBというタイトルのゲームをプレイすれば……どうなると思う?」

 上条は話を続け、格闘ゲームの例えをベースにして説明を行った。

簡単に言えば、Aという格闘ゲームをプレイした人間が、Bという格闘ゲームをプレイすれば、若干のアドバンテージがあると言う。

2Dと3Dではシステムの違いはあるのだが、ある程度慣れてくれば差異は減ってくるのだと言う。

「一方で音楽ゲーム、こちらは格闘ゲームとは話が違ってくる。大型筺体の形状も違うから、格闘ゲームの様にデバイスが似たり寄ったりと言う話ではなくなる。しかし、システムは同じ…」

 続いて、音楽ゲームの例えで説明を続けた。

その中で、大型筺体の形状とシステムが似ているという部分から、ある結論に辿り着いた。

「もしかして、ARゲームのシステムは音楽ゲームから来ている?」

「厳密には違うけど、大体あっている。音楽ゲームの入力デバイスとARゲームのガジェットは関係が似ている。太鼓を使うゲームでドラムの入力装置を持ちだすのは不可能。それと同じ事が、パルクール・サバイバーでも起きている」

「つまり、違法ガジェット以外にも非対応のガジェットを持ちこむ案件が起きている、と」

「そう言う事よ。確かに一部のARゲームでは対応している物もあるのは事実。しかし、パルクール・サバイバーのシステムはアカシックレコードの―」

 話を続けていく途中で、上条は何かの単語を口に出した。

彼女も口が滑ったような表情で、今の話を忘れて欲しいと謝っていた。

「本来話そうとしていたのは、もうひとつあるの。超有名アイドルの芸能事務所が、違法ガジェットを横流ししてARゲーム業界を混乱させようとしている。これが実現すれば、コンテンツ業界は超有名アイドル一強時代に突入するのは避けられない」

 聞かれていないと上条は思いつつ、本来の話題を切り出した。

それは、一部週刊誌でも報道している違法ガジェットバイヤーの一件でもある。

数日前には、スナイパーが狙撃をしていた事でも有名だが、その話をしても彼女は何も答えないだろう。

「超有名アイドルの目的って、やはり一強時代を作り上げる事……ですか?」

 蒼空は覚悟を決めて質問をした。そして、上条から返って来た答えは予想外の物だった。

「一強時代は……少し前だったら正解だったかもしれないけど、今は違うかもしれない。全ては時代と共に変わっていく物。唯一神思想は過去の物になって行くと思う」

 唯一神思想、それは一昔前の超有名アイドルグループが掲げた思想であり、他のコンテンツは超有名アイドル勢が一番人気である事を引き立てるだけに存在するとネット上で炎上した思想でもある。

しかし、そうした事はネット上に置かれている考察記事等のみで、テレビで取り上げられた事は一度もない。

おそらくは芸能事務所側が、唯一神思想の様な事を発信したくないという意向があった可能性が高いだろう。

しかし、こうした思想はマスコミの想定外とも言える流れで拡散していく事になった。

その中心に存在している人物、それが阿賀野菜月(あがの・なつき)なのである。

彼女は超有名アイドルの唯一神思想だけではなく、更には利益至上主義、拝金主義を超有名アイドルが続けた結果、日本のコンテンツ力は海外勢よりも弱体化しているとまで言い出した。

「阿賀野がそう言った思考に至った理由、それが――」

「アカシックレコードですか」

「さっきは口を滑らせてしまったけど、この単語自体がパルクール・サバイバーの運営からも非常に警戒されているから」

「そこまで警戒する理由はあるのですか?」

「警戒するのは当たり前よ。ランニングガジェットのベースは、アカシックレコード内にあったとされる設計図。それもARゲームとは違う物をベースにしていると言われている」

「ARゲームとは違う物って、もしかして軍事用ですか?」

 話を続けていく内に、とんでもない単語を蒼空が口にした事について、上条はさらりと流していた。

ここは流しておかないと、運営に聞かれた際に大変な事になる。

「どうやったら、ゲームで使う物を軍事兵器に転用するの? ロボットアニメに出てくるような機体、美少女ミリタリー物で出てくるユニットも実物が出ていないような、この世界で―」

 上条も若干白熱してしまい、色々と爆弾発言に近い事を口に出す。

蒼空もこれには若干ドン引きしているようだ。

そんな話をしていたら、時計は既に午前12時45分である。

追加注文で春雨サンドイッチ、フライドポテト、おにぎりセット等も注文したが、さすがに雑談するにも限界が近いだろう。

「私は、そろそろゲーセンに戻らないと。音楽ゲームの方もプレイしないといけないし」

 そう言い残して、上条は店を出て行った。

お昼に関しては彼女のおごりと言う事で何とかなったが、これからどうするか蒼空は悩んでいた。

「あの店舗へ行ってみるか」

 その一言と共に蒼空が向かった場所、それは梅島駅近くのアンテナショップである。

ここはラーメン店とのコラボを行っており、優秀プレイヤーにはラーメンの無料券がプレゼントされる。

数には限りがあり、1名に付き1日1回という限定プレゼントだが。

蒼空が到着したのは午前12時55分、徒歩でも5分弱で行ける距離なのだが今回はランニングガジェットを装備して、目的地へと向かった為に若干の時間がかかった。

「噂のプレイヤー様が、わざわざここまで――」

 店員の男性は蒼空の顔を見るなり、珍しい客がやってきたというような表情を浮かべる。周囲のギャラリーの中には、蒼空を知っている人物もいた。

「こいつは確か、デビュー戦20位だった奴か。あのアクシデントでリタイヤしなかったのは褒めてやるが、お前にはパルクールは――」

 口の悪い男性が蒼空の方へ近寄ってきたが、話の途中に割り込んできたのは黄色のランニングガジェットを装着した女性だった。

「そこまでよ。初心者プレイヤーに対しての精神攻撃、放置できるような物じゃないわ」

 彼女は軽装のインナースーツとカスタム化されたランニングガジェットを既に装着している。

バイザーも装着しており、素顔を確認する事は出来ない。しかし、彼女の身長や体格を見て蒼空は誰かが即座に判断出来た。

「もしかして――」

 蒼空の一言を聞き、彼女がメットを外すと、衝撃的な人物だった事に周囲は動揺をしていた。

「そんな馬鹿な――」

「奴が本格的にパルクール・サバイバーをはじめたのか?」

「あの時は確か、更に軽装な装備だったのに」

 ある意味でもハプニング、アクシデント、サプライズと判断する者もいる。

その人物の正体、それは秋月彩(あきづき・さい)だった。これには、蒼空も改めて驚く。

「ここはあくまでもパルクール・サバイバー。陸上競技やパルクールとは違ったフィールド……ランニングガジェット装備のどこがいけないの?」

 秋月の言う事も正論だが、周囲の選手やギャラリーには納得していない人物もいる。

これでは反則負けにならないという風に思っている人物も少数いた。

「そうだ……ここは、あくまでもパルクール・サバイバー。パルクールでもなければ、他のARゲームとも違うフィールドだ」

 蒼空の方も何かの決意を持ってレースへと挑む。

ガジェットの調整はアンテナショップで事前に済ませており、今度は自分にフィットしたチューニングなのは間違いない。

「このレースが、新たなスタートになる――」

 蒼空はレースにエントリー後、パチンコ店の前に用意されたスタートラインに立つ。


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