エピソード6《ガーディアン、追跡》


 午前11時40分、チートプレイヤーを追跡していたパルクールガーディアンがプレイヤーを荒川付近へと追い詰める。

プレイヤーの方はガーディアンに向かってハンドガンを撃ち続けるのだが、ガーディアンには全く効いていない。

その銃弾はガーディアンのガジェットを素通りしていた。バグでも何でもなく、これは単純な事を言えば仕様である。

 つまり、プレイヤーの持っているハンドガンの銃弾では目の前にいるガーディアンのガジェットにダメージは与えられない――。

しばらくしてハンドガンは弾切れとなるのだが、ガーディアンの恐怖で弾数を把握していない様子が見て取れた。

どう考えても、向こうの判断ミスであるのは明白である。

「バカな!? ガーディアンのガジェットはチートだと言うのか?」

「こちらのガジェットがチートだとしたら、今頃あなたは消し炭……それ位の戦力差も分からない訳ではないよね?」

 プレイヤーの方はガーディアンのガジェットがチートだと疑うのだが、ガーディアンの方はそれを否定している。

それに加えて、戦力差についても呆れている様子――。

「それ以上抵抗しても無駄よ。あなたはパルクール・サバイバルトーナメントのルールに違反した。それは揺るぎない真実――」

 ガーディアンの方はビームライフルを構え、チートプレイヤーを追い詰めていく。

ガーディアンの方は威嚇と言う事でビームライフルを構えているのみで、実際に撃つような事はしない。

しかし、相手の方が簡単に降伏をすると思ったら……実際には違っていたのである。

「ルールだと? 超有名アイドルファンを一斉排除するのがルールだと言うのか? それは魔女狩りと大して変わらないじゃないか!」

 ようやくハンドガンが弾切れだと気付き、即座に弾薬を補充――再び連射を始めた。

しかし、やはりというかガーディアンに効果はない。やはり、無駄な努力と言うべきか?

火力的には向こうの防御力を超えているはずなのに、ノーダメージなのは異常としか彼には表現できなかった。

「超有名アイドル勢がやっている事、それはチート行為以外の何物でもないわ。チートによってランキングを制圧する事、それは営業妨害以外に他ならない。オンラインゲームのチートが問題視されているのは、こういう事なのよ」

 ガーディアンがプレイヤーに近づく様子はなく、その場でビームライフルを構えているだけだ。

しかし、超有名アイドルファンは抵抗を続けている。どうやら、彼は降伏するような状態ではない。

それに加えて、興奮状態という訳ではないが聞き入れてもらえる状況でもないのが大きかった。

「チートの何が悪いというのだ! 超有名アイドルが日本経済を救った事は知っているだろう。その彼女達の人気もチートになると言うのか!?」

「芸能事務所の賄賂で買収された政治家が認めた教科書に踊らされているのね。それこそ、ネットデマに踊らされている勢力となんら変わりはない」

「買収だと? そんな事実はない! その事実は運営側が歪めた事実だと、超有名アイドルファンがつぶやきで拡散しているのを見たぞ!」

「そのつぶやきもライバルグループが推しアイドル以外のライバルを陥れる為のデマ……ブラック情報だと言うのが分からないの?」

「我々がチートでないとしたら、夢小説勢は――ヴィジュアルバンドや歌い手の夢小説勢はどうなる? 夢小説こそが超有名アイドルよりもコンテンツ業界に障害となるのはネット上を見ても明らかだろう」

 プレイヤーは遂に開き直り、チートが正義であるとまで断言する。

それに対し、ガーディアンはあまりにもテンプレの発言の連続に呆れており、反論する気すら起きない。

話の方も言葉のドッヂボールになってきている様子だ。それでも2人の対話が続くが――お互いに譲るような気配は全くない。



 周囲の観客は話を聞いていても内容を理解していないが、途中で駆けつけた蒼空(あおぞら)かなでは内容を一部に限ってだが分かっている。

【超有名アイドルのチート疑惑は今に始まった事じゃない】

【それを今更持ち出して、何を伝えたいのか?】

【超有名アイドルが税金で優遇され、更には発言力もある。わずか10万人にも満たないような規模のコミュニティが日本を操っているなんて―】

【10万人ではなく、下手したら1万人と言う説もある。それだけの人間が、CDを株式と例えて先物取引のような感覚でCDチャートの水増しなんて当たり前の世界に】

【今のコンテンツ業界は超有名アイドル商法のテンプレが多いように思える。それを打ち破ろうと言う勢力も、超有名アイドルファンが偽装した偽ファンによって潰される】

【そんなに超有名アイドルは偉いのか? 彼女達は日本の神にでもなったつもりなのか?】

【国会も超有名アイドルに対しては逆らえないらしい。ここまで来ると、超有名アイドルが世界征服をするのも時間の問題かもしれない】

【アカシックレコードには、超有名アイドルファン以外に対して――】

 2人のやり取りに対して、ネット上の議論も過熱していく中、ある書き込みだけは途中で途切れたのである。

アカウントが削除された訳でも、途中で誤送信したという訳でもない。間違っても検閲ではない。

【結局、炎上マーケティングは繰り返される。何でもないような事を超有名アイドルの知名度を上げる為に煽り、炎上させる事で――】

【全ての世界のコンテンツは超有名アイドルの芸能事務所1社が完全独占する――それによって戦争をなくそうと言う極論も浮上している】

【あの芸能事務所は、自分達が全銀河は自分達が生み出したと創造神を自称している】

【そうした極論こそ、芸能事務所側の思うつぼじゃないのか?】

 その2人が遂に動き出したのは、それから5分後の午前11時45分。

対話は平行線で終わり、ガーディアンの方も動き出した。つぶやきサイトのやり取りなども平行線であり、会話が成立しているような事はない。

後に、こうしたやりとりが切り取られ、コンテンツ炎上目的のまとめサイト等に転載され――超有名アイドルの人気上昇に利用される。

まるで、超有名アイドルと言う株式の価格を上げる為に不正なインサイダー取引などを推奨しているような――異常と言えるような気配さえ感じさせる光景だ。

「超有名アイドルは根絶する! 日本経済の未来の為にも―コンテンツ業界の明日の為にも!」

 ガーディアンが背中にマウントされたビームエッジ型のグレートソードを構える。

そして、グリップ部分を握る事でエネルギーが伝達し、ビーム刃が展開された。

これにはギャラリーの方も驚くのだが、驚いたのはARガジェットの原理を知らない通行人や一般人程度だろう。

 次の瞬間、彼女が振り下ろした一閃はチートプレイヤーのガジェットを一発で機能停止させる。

機能停止と言っても、斬った部分が光り出して対象の人物が二分割される訳でもない。

単純にガジェットの機能停止だけであり装着者には影響が全くなかった。



 その後は降伏したチートプレイヤーを逮捕し、途中で駆けつけた他のガーディアンが連行していく。

彼らは別組織の紋章と思われる物がアーマーにプリントされていたので、違う組織か部署という見方があった。

【たった一撃か】

【これがパルクールガーディアンの圧倒的な力】

【まるで主人公補正、あるいはそれに類する位の力じゃないのか?】

【あるいは、彼女達がデウス・エクス・マキナと言う可能性もある】

【さすがにデウスとは違うだろう。あそこまでご都合主義な力を振り回したら、チートと疑われてもおかしくない】

【チートにはチートで対抗と言う事か。確かに、それでは矛盾が生じる】

【チートを上回る圧倒的な力、それがパルクールガーディアンの実力だからな】

 ネット上では、改めてパルクールガーディアンの圧倒的な力を目撃した事で、彼女達を敵に回す事の愚かさを再認識したプレイヤー等も多かった。

「あれがパルクールガーディアンのトップランカー、夕立ですか」

 改めて黒マントを装着し、ギャラリーとは別の場所から様子を見ていたのは小野伯爵である。

本来の目的は別にあったのだが、そのより道としては収穫のある物を発見出来た……と考えているに違いないだろう。



 ネット上のやり取りが展開されている頃、蒼空は連行されていくチートプレイヤーを相手が悪かった――と思いつつも何か疑問を感じる部分があった。

彼の言う事も一理あるだろう。しかし、それは本当に正しいと思って行動したのだろうか?

一方で、ガーディアンの彼女はオーバーキルを思わせる方法だったのは間違いない。

「一体何を目的に動いている?」

 蒼空の質問に対し、彼女が答えるような事なく素通り――と思われたが、彼女は一言だけつぶやく。

「パルクール・サバイバルトーナメントのビジネススタイルを確立させるためよ」

 彼女がPVに出ていたアーマーの人物と同一人物であると分かったのは、このやり取りから数時間後の話である。

彼女の言うビジネススタイルが、今の様なチートプレイヤー狩りをするような物なのか――疑わしい部分があったのは事実だ。



 その後、ガジェット返却の為に北千住へ戻る途中、蒼空は小野伯爵に遭遇した。

偶然の遭遇と言うべきなのかは不明だが……向こうも目的を達成したような感じだった為、引き上げる際に遭遇したという事か。

「ガーディアンのやり方に不満を抱くと言うのであれば、サバイバーで勝ち続けることだ」

 その一言だけを残し、気づいた頃には小野伯爵の姿も消えていた。

一体、彼は何を伝えようとしていたのか?

「まずは、北千住へ戻る方が先と言うべきか……」

 そして、小野伯爵の行動が気になりつつも蒼空は北千住駅方面へと向かった。

これらの事件はネット上で後に起こるであろう事件の前触れ――と言う風にはとらえていなかったという。

【全ては――ここから幕開けなのか】

 このつぶやきが、全てを物語っているかもしれない。

一連のARゲームを巡る炎上マーケティングや便乗宣伝等を行おうとする超有名アイドルファンとの衝突は――。

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