エピソード7《バトルの幕開け》


 午前12時、近場のファストフードで再び昼食を取ろうと考えたのだが、蒼空(あおぞら)かなではラーメンを食べる事にした。

ガジェット装備のままで商店街を通るのだが、特に通行人が指をさすような事はない。この光景にも慣れてしまった、というべきだろうか?

「近場でラーメン店は――?」

 蒼空が立ち寄ろうとしたラーメン店の入り口には『臨時休業』の看板が掛けられていた。

珍しいラーメンが存在するとネット上では話題だったが休業では仕方がない――のかもしれない。

今回はラーメンを諦めて、別のファミレスへ立ち寄ってパスタでも食べる事にした。

ガジェット装備のままでは店内に入る事は出来ないという事情がある為、仕方なく北千住駅まで引き返す事に。

若干面倒ではあるのだが、そこにあるアンテナショップでガジェットを返却するのを優先する。

ガジェット装備と言っても、パルクール・サバイバーで使用しているのは大型タイプなので、一般的なARジャケットとサイズがケタ違いという事情もあるが――。

アンテナショップへ足を踏み入れた蒼空、書類の方もタブレット端末で項目にチェックを入れ、そのデータを提出した。



 その際、店員はある事に気が付いた。厳密には本来ならば見逃すはずがない箇所に。

その店員は即座に気が付かなかったのだが、別のスタッフが項目を見て不審に思った個所があるらしい。

一体、何に気付いたというのだろうか。偽物のカードであれば認識の段階でエラーが出る為、認識出来た事に違和感を持ったようだ。

「お客様、パルクールプレートはお持ちでしょうか?」

 一般で聞かないような単語で説明されてもさっぱりだったので、改めて分かるように蒼空は店員に対して説明を求める。

すると、別の意味でも予想外の話になった――。

「パルクール・サバイバルトーナメントでは、自動車で言う普通免許を習得することが義務化しております」

 アンテナショップであっさりとガジェットを借りられたのに、ここにきて予想外の展開である。

一部のエリアではARガジェット用のライセンス関係を簡略化していたり――ライセンス取得その物をなしでプレイできる場所もあるのだが――。

「免許? そうなると、今回のガジェットを使った一連の行動は、無免許運転と同じ扱いに――」

 無免許運転が発覚した場合、警察だと逮捕されてもおかしくない。

サバイバーでどうなっているのかは不明だが――一種のペナルティは避けられないだろう。

「ご心配なく。これはARガジェット未所持のユーザーに対してのみで、他にARガジェットを所有しているというプレイヤーには免許取得の講習に出ていただければ、一応の問題にはなりません」

 ARガジェットに関しては、別ゲームのIDカードがあったはず。

蒼空はそれをスタッフに見せるのだが、それで事態が好転するかどうかは分からない。

「どちらにしてもパルクール・サバイバルトーナメントのエントリー前じゃないですか?」

 考えてみると、レンタルガジェットを借りた段階でエントリーはしていないはず。

そこも確認していれば、このような展開にはならなかった……と後悔しても遅いかもしれないが。

「ガジェットの使用前に提示義務が発生するはずですが……」

 表示義務はアンテナショップでも確認する事が必須となっており、そうなると……。

あの時には何も言われなかったような記憶もある。向こうの伝え忘れなのか――?

「提示、義務?」

 蒼空の頭の中も混乱している。

自分はARガジェットのプレートは持っていたが、パルクール・サバイバルトーナメントの物は未所持だ。

このままでは無免許運転として逮捕されてしまう可能性もある。

「――すみません。少し、待っていただけますか?」

 先ほど見せたIDカードの影響かどうかは不明だが、誰かに呼ばれた男性スタッフが一時的に席を離れる。

どうやら、別のスタッフから呼び出しがあったらしい。

その間、自分は何もやる事がない為か私物のARガジェットで他のARゲーム情報を検索し始める。

「どちらにしても、無免許の場合はペナルティがカウントされる。それはマニュアルを見た時に確認済。そうなると、エントリー可能タイミングがずれる可能性もあるのか」

 悩んでも仕方がないのだが、やむ得ない理由があっても無免許でランニングガジェットを運用した事実だけは覆らない。

蒼空は神にも祈るような気持ちで結果を待つ。ネット上で調べた情報を確認する限りでは、即逮捕などはないらしいが……。



 5分後、先ほどのスタッフがこちらに戻ってきた。

手元には何かのパンフレットとタブレット端末の様な物の箱を持っている。一体、これはどういう事だろうか?

「先ほど、ガジェットの返却に来たというショップ関係者の方がこちらにいらしまして、今回の一件に関して事情説明がされました――」

 どうやら、自分にガジェットを貸してくれた人物が回収の為に姿を見せたらしい。

そこで事情説明があり、その際にタブレットを受け取ったようだ。

「あなたへのライセンス発行は数日の間、受理されない事になりました。あくまでも、それがパルクール・サバイバルトーナメントの規則ですので」

 やっぱりという表情で蒼空が落ち込む。

しかし、発行停止だけで他には何も言う事はなかった。本来であれば罰金も10万円前後で発生する。

最悪のケースであればライセンス発行が1年停止というケースもあるのだが、そこまでのペナルティを受けた人物はいない。

ARゲームを使った犯罪は増加傾向だが、一部のARゲームで厳格なルールを設定している事で、最悪の展開を回避しているのだろう。

「しかし、向こうもガジェットプレートの確認は行った事は言及していたようですが、パルクールプレートに関しては完全に手違いと認めています。これに関してはアンテナショップ側のミスですので、罰金はアンテナショップが負担する方向で話をしました」

 罰金に関してはアンテナショップ側のチェックミスという事になり、ショップ側が全額負担で対処するようだ。

その部分に関しての話を含めて事情説明に手間取ったらしい。

「このパンフレットに書かれているセンターならば、何処でも受験できます。インターネットやARガジェットからの予約も可能ですので、ご都合の良い日に講習を受けて下さい。それと、このタブレットはアンテナショップ側のお詫びの品と言う事で―」

 手渡されたパンフレットには、講習センターの場所が書かれている。

西新井、竹ノ塚、北千住、梅島、花畑、保木間等にセンターがあるらしい。

何処のセンターで受けても問題はないようなので、西新井のセンターで受ける事を蒼空はスタッフに伝える。

「では、こちらの書類データに予約のスケジュールを……」

 その後、予約に関しての手続きをスタッフと一緒に行い、4月6日に受ける事も決まった。

ライセンスの発行可能となる日が、丁度4月6日だったというのもあるが。

「このタブレット端末は、パルクール・サバイバルトーナメントで使用するルールやガイドラインをまとめたマニュアルになります。これを当日、講習センターへ持って行けば予約の確認もスムーズになる事でしょう」

 こうして、長いようで短いパルクール・サバイバーの初体験は終わった。

改めて思うのは、これだけハイテクなスポーツが実際はARゲームから派生し、それが大ブレイクしたという現実である。

これに関しては、自分でも未だに実感が湧かない。



 パルクール・サバイバルトーナメント、それは『東京都足立区と一部区域をレース場に見立てた障害物競走』とネット上に広まった異色のエクストリームスポーツである。

ネット上ではフルネームで呼ばれる事は少なく『パルクール・サバイバー』と省略された名称で呼ばれる事が多い。

競技人口は開始当初こそ1万人弱だったのだが、現在は10万人に迫るような勢いで競技人口が増えつつあった。

パルクールの競技人口を考えると双璧をなすまでには至らないが、ネット上ではさまざまな動画がアップされる程のコミュニティ力を持っている。

一昔前のソーシャルゲームと同じように二次創作がフリーになっている事もあって、爆発的な広がりに貢献したと言える。

余談になるが、超有名アイドルの方はファンクラブが出す公式本以外は二次創作が波及せず、裏サイトでBL夢小説等がアップされているという噂も存在している。

しかし、これに関して芸能事務所側は否定している。中にはBL作品ではない作品をBL化しようと言う様な勢力も存在するのだが――。

 その一方で、パルクール・サバイバーには問題もあった。

映画やゲームの題材でもパルクールが取り上げられる事もあるが、そこではビルとビルの間を飛び移る等のようなアクロバットに近い動きや演出がピックアップされているケースも存在する。

その結果として実際に試そうとして大怪我をするような事故がピックアップされ、それがパルクール・サバイバーでも起こるのでは――とネット上で拡散していき、それが不安をあおるような結果になっている。

このままではパルクールへの風評被害も避けられないと判断した運営は、事故防止を目的としたシステムの変更を検討、その過程で別のゲームに使われていた技術であるARガジェットとパワードスーツを融合、パルクールをより安全に進行する為のランニングガジェットを開発する事に成功した。

ランニングガジェットは、ナビゲーションシステムを標準装備、それ以外にも特殊合金で出来たアーマー等の驚異的とも言えるような機能を多数搭載している。

しかし、その全貌は未だに明らかになっていない部分が多く、それらが公表されていない理由に軍事転用が懸念されている話が存在しているのだが、運営が公式見解を出していない為に真相は不明である。

軍事転用と言えばランニングガジェットに限った話ではないのだが、同じような武器モチーフとしたARガジェットの傾向というよりも宿命に近い。

 1月に行われたという謎のロケテストと思われるようなイベント――それとパルクール・サバイバーを紐付けしようと言う動きもある。

しかし、こちらに関しては一部のネット炎上を狙った人物による犯行という事が有力となっており、関連性は薄いと見るべきだろうか。

 ARゲーム自体が手探りで運営されている為、様々な部分で課題は存在する。

ARガジェットを使用した犯罪も増加傾向にあり、テレビ局によっては芸能人の薬物による逮捕等の事件よりも大きく取り上げるだろう。

これに関しては視聴率稼ぎとネット上で炎上する事になったのだが――実際は何か別の目的がある可能性もあるだろうか。

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