エピソード5《SNSテロの始まりか? それとも――》
数分後、この様子はネット上に動画でもアップされるようになり、ニュースサイト等でも取り上げられた。
見出し的にはあからさまに炎上狙いを思わせる煽りが使われているが――?
【謎の女性ランナーがパルクールコースを走る!】
【非公認の装備? マラソンランナーの様な格好のパルクールプレイヤーを発見】
【違法ガジェットの可能性? 女性ランナーの無謀な挑戦】
どの一行ニュースでも、同じような事を書いているように見える。
彼女は強化ゴムのスーツは着用していたが、パルクール・サバイバーで使用するような装備は使用していない。
これに対し、ネット上では炎上を誘うような発言を含めて、さまざまな意見が相次いだ。
【ガジェット未使用でパルクールのコースを走ってもいいのか?】
つぶやきサイトでも、このようなつぶやきが目立ち始める。
パルクール・サバイバーで本場のパルクールに近い装備でコースを走る事は問題ないのか、という内容が大半だった。
【練習コースならば問題ないだろう】
【しかし、彼女は公式のコースで走っていた。ネット上の動画でもコースの特定がされている】
【これは違法行為を助長させる可能性があるだろうな】
【一昔に問題視されていたアクロバットか】
【違法ガジェットを使っていないだけ、若干の特例が認められそうだが―超有名アイドル勢が黙っているとは思えない】
【今回は特例として運営が認めたという現地の話もある。おそらく、ガジェットのテストも兼ねていた可能性は否定できないだろうな】
その他にも、彼女が超有名アイドル勢に狙われる――。
運営もチートだけではなくアクロバットにも厳重なペナルティを入れてくる可能性がある等が言及された。
【あの人物、見覚えがある。確か、陸上競技でもトップランナーと言われていた可能性がある人物だ】
ある人物が流したつぶやき、それはコースを走った人物を知っているような素振りを見せる物だった。
この書き込みがフェイクかどうかを確認するのは難しいが、仮にフェイクだとすれば――。
午前11時30分頃、ランニングガジェットなしの生身サバイバーもネット上で話題になっている中、蒼空(あおぞら)かなでは最短ルート等を利用して北千住駅近辺に到着した。
ARバイザーの時計は午前11時30分辺りを表示している。
周囲が蒼空の姿を見て驚くような気配はなく、これが日常なのかと思わせる位にはパルクール・サバイバーに慣れてしまっている可能性も高い。
ARゲームは非日常とも言える光景であり、WEB小説で言う所の『新日常系』と類似する程の世界観の違いがあった。
(ネット炎上と隣り合わせの――日常。それに――)
蒼空は目的地へ向かう途中でも周囲がスルーをしているのではないか――そんな錯覚に陥っている。
一体、この世界はどうなってしまったのか?
【実際にSNSテロを考えている芸能事務所があるらしいな】
【芸能事務所が? 一体、何処だ――】
【それが分かれば苦労はしない】
【特定勢力が動きだすのか?】
【どうせ、別の芸能事務所が有名所の事務所を潰そうとしているだけだろう】
あの場所から15分で到着した事に蒼空は驚くが、それだけレンタルしたガジェットの性能が凄い事の証拠なのかもしれない。
このガジェットに関してはレンタルでも一般的なものではなく、特定人物用のカスタマイズがされていた事も短時間で到着できた可能性の一つ……なのだろうか。
その間にも様々なつぶやきやニュースがバイザーに表示されるのだが――それらには全く見向きもしていない。
「この辺りで間違いはないが、それらしい姿は全く見えないが――」
周囲の様子を見ていた蒼空だったが、バイザーには別のアラートが点灯している。
彼自身が放置していた訳ではなく、マニュアルのチェックし忘れが有力だった。
そして、バイザーに表示されたメッセージを見て蒼空は別の意味で――。
表示されていたのはこの瞬間ではなく、数分前からの表示と言う可能性もあったからだ。
《エネルギー残量低下中―アンテナショップ等で補給をして下さい》
「エネルギー切れ? このタイミングで」
蒼空が周囲にアンテナショップがあるか、慌ててナビで調べ始める。
しかし、ナビを使用するにもエネルギーを消費する為、確実に残量が減っているのが現状だ。
サイトの情報ではARガジェットで使う電力は、基本的に太陽光を利用して補助電源に使用するエネルギーを常時充電していると書かれていたが、太陽光システムの故障だろうか?
(あの看板か?)
ギリギリのタイミングでアンテナショップを発見した蒼空は、早速ショップへ駈け込んでエネルギーの補給をしようと店員に話しかけようとする。
しかし、大型ガジェットを装着していると言う事もある為、ガジェットをパージしてから店内へ入る。
さすがに駆け込みは店内の混雑具合から、出来そうにないが――待ち時間が発生しているとも店内の掲示板には表示されていた。
パージしたガジェットは車で言う駐車場スペースに配置――盗難防止と言う部分は、ARガジェット的な部分でも問題はないのだろう。
仮に道路へ放置していると、放置ガジェットと判定されてレッカー移動される可能性もあったからだ。
実際にはレッカー移動はされる事はないようだが、放置ガジェットに関してはショップから警告が来る事もあるらしい。
「すみません。ガジェットの充電をお願いしたいのですが――」
蒼空の一言を聞いた男性店員からは意外な答えが返ってきた。
「基本的には晴天であればエラー表示が出る事は――ないと思いますけど」
雨天であってもわずかな光で電力を生み出せる事もあって、その辺りは問題がないらしい。
「そう言う物ですか――」
しかし、問題は別の所――レンタルガジェットと言う事だ。
「ランニングガジェットを含めたARガジェットのエネルギー補給は、太陽光システムによって自動的に行われます。このエラー表示はレンタルガジェット特有の物ですね」
「レンタル特有ですか?」
「レンタルの場合、自動補給はされるのですが消費量が高い場合、補給が追いつかずにエネルギー切れを起こす事が稀にあります。こちらでガジェットの調整をしておきますので、別のガジェットをご使用ください」
店員の説明を聞き、使用していた残りのアーマー類を分離、その後にガジェットを含めた一式を店員に渡し、用意してくれた別の汎用型ブースターとガジェットを装着する。
大型ガジェットに関しては、汎用のパワードスーツを使って店員が充電専用のスペースへと持ち運ぶようだ。
まるで、レッカー移動を思わせる光景だが――あまり野次馬が発生するような物ではない。
「延長料金は特に発生しませんので、その辺りの問題はありません。このガジェット自体、ショップカスタマイズによる物なので――」
店員も延長料金は発生しないと言っているので、用意してくれたガジェットの方は遠慮なく使用する事が出来る。
しかし、前のガジェットと比べると機能的な部分では数段劣る可能性は否定できない。
実際、先ほどまでのガジェットがワンオフ系に対し、こちらは市販タイプとも言える量産型だ。
量産型ガジェットは致命的な不具合が発生しないという利点もある一方、ハンドメイドやワンオフと言ったガジェットには機能的な部分や出力等で難点が多い。
ワンオフガジェットが強いのは、どのゲームも一緒だが……廃課金が全てというゲームバランスが組まれている作品は、ごく一部にすぎないだろう。
それを踏まえると、パルクール・サバイバーは課金という点でバランスは取れている。
課金と言っても、アーケードゲームで言う所のクレジットを消費するタイプなので――アイテム課金の様なタイプとは違うかもしれない。
アーマー装着後、先ほどのナビがリセットされているか心配だったので、現在のナビを立ち上げなおす。
メモリーに関しては別扱いで受け取ったプレートの方に保存されているので問題はないらしく、再び設定すると言う事はないようだ。
(引き続き追跡を――?)
蒼空がナビを再チェックしようとした際、画面にはニュース速報が表示されていた。
そこには有名ランカーの速報も出てくるのだが、その中でも注目度が大きいニュースは全く別の物である。
《あの有名プレイヤーがパルクール・サバイバルトーナメントへ参戦か?》
ニュースの閲覧数が多かったのは、あるプレイヤーがパルクール・サバイバルトーナメントへ参戦したニュース。
その関連付けがされている記事には予想外とも言える物もあった。
「この人物は、あの時の―」
蒼空が驚いたのは、別の記事に載っている写真の女性が先ほど遭遇した人物とそっくりだった事だった。
《パルクールプレイヤーか? 謎の女性ランナー出現》
それとは別に話題だったのは、パルクール・サバイバー用のコースに現れた謎の女性ランナーの記事である。
「この装備で、パルクール・サバイバーに挑むと言うのか?」
蒼空も自分の装備と比較して、彼女が写真で装備しているガジェットは尋常ではないと驚く。
全裸で走れば警察に逮捕されるが、それとは別の意味でも危険であるのは間違いない。
おそらく、この装備はパルクールであれば相当な事がない限りは協会でも大きく取り上げないのだろう。
しかし、サバイバーであれば話は別となるが――ARゲームで軽装備プレイが懸念されている時期なだけに、反応は賛否両論だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます