習作

「やばいって、マジでやばいって」


 俺は全力疾走を続けながらぼやいた。


「そんなこと、言う暇あったら、走れって」


 相棒の彼女も悪態をつく。


「待ちやがれーーー!!!!!!泥棒どもーーーー!!!!!!」


 警察車両が数十台も迫ってくる。いくらなんでも二人に対して多すぎないか?

 高機能行動アシストスーツがあるとはいえ相当キツイぞ?

 …やっぱ国の重要機密を盗むなんて任務、上の命令とはいえ受けるんじゃなかった!


「車は来ないの!?!?」

「今呼んでる!!!」

「そこ、路地裏行こう!」


 俺たちは地面を滑りながら狭い路地裏に駆け込んでいく。

 車両からは逃れられるものの、スピードも落とさざるを得ない。


「そこの壁出っ張り多いから登れる!」

「おっけ、いくよ!」


 俺たちは出っ張りを一つ一つ認識しながら、壁を駆け上がっていく。


「…うっげぇ」

「おいおいカワイイ女の子がそんな声…うっげぇ」


 そうして目にしたものは、俺たちを追いかけてくるヘリコプターの大群だった。

 両手両足の指じゃカウントしようもない。てか近すぎて接触事故起こしそう。


「しかもあいつらマシンガン装備してるじゃん」

「ないわーマジないわー、街中でぶっ放す気かよ」

「とりあえず逃げよ、早く」


 一足早く彼女が駆け出す。


「あ、ちょ、待てって」


 俺もそれに倣って屋根の上を飛び跳ねながら走っていった。


『マヌケなこそ泥どもめ!そっちは大通りだ!!』


 ヘリコプターから嘲笑が飛ぶ。


「さぁ〜、果たしてどうかな?」


 彼女がニヤリと笑みを浮かべる。

 俺はゴーグルに浮かぶ地図を注視していた。


 そうして走り続けて、建物の角にたどり着いた。


『さぁ追い詰めたぞ!そこから落ちて死ぬか、我が国のマシンガンに風穴だらけにされて死ぬか、どっちか好きな方を選んでいいぞ!!』


 自信満々といった様子で、ヘリコプターから声が飛ぶ。


『さあどうする?10秒待ってやろう』

「5秒も要らんさ」


 俺は彼女と手を繋ぐと、二人で思い切り後ろに飛んだ。

 そうして、俺たちは地面に叩きつけられ――ることはなく、柔らかいものに背中を受け止められた。


「タイミングピッタリだな。賭けだったけど、俺たちの勝ちだ」

「賭けだったの!?じゃあ失敗してたら…」

「骨何本か折ったまま動けず、そのまま蜂の巣にされて二人仲良く天国行き」

「嘘でしょぉぉぉぉぉぉ!?」

「ま、まって、脳が」


 彼女は俺の肩をがくがくと揺さぶった。

 俺たちが落ちた所は、軽トラの荷台に敷かれたクッションの上だった。


『なん…だと…!?貴様ら以外に仲間はいなかっただろう!?』

「お前らは自動運転も知らんのか?」


 その軽トラの運転席には誰もいない。


「んじゃあばよ!目的のもんはしっかりいただいたぜ!!」


 その声に反応したかのように、軽トラが急発進する。


「うわああああちょっとまって!!!落ちる!!!!!」


 彼女が素っ頓狂な叫びを上げながら、軽トラはスピードを上げていった。


『待てぇぇぇ!!!!!!!』


 ヘリコプターから間抜けな声が飛び、市街地に反響した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る