異世界だって限度がある!さぁど!
「被告人、メリス・モネット。職業、第26代魔王。自身の主張を供述せよ」
俺は剣を魔王――メリスに向け、話を促した。
剣を向けられたメリスは一瞬ビクッと震え、それから喋りだした。
「わ、わらわは別に人間界と敵対するつもりはないのじゃ」
「異議ありィ!」
アリーが反駁する。まるで異議ありって言うためだけに生まれてきたような通る声だな。一応褒めてる。
「ならばなぜあれだけの魔獣をよこしたァ?」
「被告人は自身の答弁を述べよ」
「せ、先日我が国の政権が変わったばかりだったのじゃ」
「続けたまえ」
「我が国、エーレンテ魔道王国は魔界連盟の中でも有数の大国家で、実に3244年間ずっと連盟長国を務めてきたのじゃが、ここ130年間国を治め連盟の長、即ち「魔王」として君臨してきたのはわらわの父上なのじゃ。…下々の間では『歴史上最も人間嫌いの魔王』と噂されておったし、それは本当じゃ。結局親人間派が革命を起こして同じく親人間派であったわらわを王にしたのじゃが、わらわからしてみればいきなりすぎるし、事実魔界は混乱してしまった…というわけなのじゃ。魔獣が人間界に行ってしまったのはその余波じゃが、魔獣は人間に近付こうとしないから、死傷者が出るなんてありえないのじゃ」
「ありえないだと!?事実けが人が多数出ているではないか!死者が出てもおかしくはないだろう!」
死者、出てないのか。よかったな。
言おうとしたが、さすがに心に留めた。
「それは本当に襲われてけがをしたのか?」
「なに?」
「魔獣が襲ってきたのが原因でけがをした人は本当にいるのか?」
「それは、どういう意味だ?」
「どうもこうも、遠くにいる魔獣を見た人間が勝手に慌てて自爆しただけではないのかと訊いているのじゃ。昔も同じことがあったとじいさまから聞いておるからの」
「人間をバカにするのか!?」
「原告、言葉を慎め」
俺はアリーに剣を向けて黙らせた。
「感情論は今この場で出すべきでない、必要なのはエビデンスだぞ。各国まわって一人でも魔獣に襲われた人間連れてこりゃお前の勝ちだ」
「ぬぅぅ、こうなりゃ意地でも連れてきてやるわよ!!!!!!!!!」
アリーがそう言って法廷を飛び出して6日。
アリーは敗北者の表情を携えて帰ってきた。
「いなかったわ…いなかったわよ…みんな混乱の中でずっこけてたわ…」
「それみたことじゃろ」
「うう、認めるわよ!それでどうすればいいのよこのチビ魔王!!!!」
「なんじゃ貴様最後までわらわをコケにしおってぇぇぇ!?…ぬぅ、まぁよい…よくないけどよい…わらわの要求はエーレンテとこの国…マーロックが和平合意してくれればいいのだ…不可侵条約がほしいのだ…あわよくば友好条約をだな…」
「なんだこいつ結構要求してきやがった」
俺はやじを飛ばした。
「つか、そんな簡単なことなら普通に来ればよかったんじゃないの」
「わらわだって騒ぎが落ち着いたらマーロックまで出向くつもりだったのだが…まあ、ポジティブに考えるならわざわざ来る手間が省けたというか…」
「ほら、このポジティブさ見習っとけよ、アリー」
「なんでわたしなのよ!?」
こうして、紆余曲折はあったものの、エーレンテ魔道王国とマーロック王政人民共和国は友好条約を結んだ。いずれ通商条約も結ぶんだろうな、と俺は思った。
ようやく日本に帰れる。
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