異世界だって限度がある!
「やりました!!!召喚成功です!!!」
召喚陣が召喚成功を示す緑色に光ったのを見て、国一番の魔術師であるアリーは歓びの声を上げた。
「ご苦労さまだ、アリー・エルヴィ。貴殿には十分な褒美、そして生活保障を約束しよう」
王の示す褒美も嬉しかったが、アリーにとっては召喚が成功したのが一番うれしかった。
異世界から勇者を召喚する、勇者召喚は成功確率が1/2147483647なんて言われている。どんなに優秀な魔術師であっても、一生のうちに成功することはほぼない。
だからこそ召喚される勇者は最強である。
「これで魔王にようやく対抗できる…長い苦しみが終わるのだ…!」
王は感慨深そうにつぶやき、かと思えば涙を一滴垂らした。
そうして、陣の上に男が現れた。
「ようこそいらっしゃった、勇者殿。突然のことで混乱しているだろうが、まずは落ち着いて聞いてほしい」
王が言う。
男はゆっくりと回りを見回し、
「またかよおおおおおおおおおおおおお!?」
地面に突っ伏して叫んだ。
「我々がここに貴方を召喚したのは…」
「あーはいはい。皆まで言わずとも知ってます、どうせまた魔王を倒すんでしょ?知ってますよ」
「…その口ぶりだと、以前にも魔王を倒したように聞こえる」
「お察しのとおりですよ。俺は今までに255回異世界に勇者としてお呼ばれしてるんですよ、こういう世界と似た別世界にね。これで256回め。まさか元の世界に帰れないなんてことはないんでしょ?」
「…本当に何もかも知っているようだな」
「最初のうちはパーティとか組んでたし、今まで行った世界にはいつでも行けるからたまに魔王倒した仲間とつるんでるけど、最近は一人でやったほうが効率よくなってきてな。どこの魔王も同じようなパターンで行動しやがるからパーティは必要なくなっててな。で、今回の魔王討伐理由はなに?」
「近年人間側の領域に魔物が大量に来るようになってな…」
「はいそれ超典型的パターン。もう決まり。適当に武器庫漁らせてよ、見繕うから」
王は武器庫を言われるままに開いた。
「ちょっとちょっとちょっとちょっとおおおおお!!!!あなたいくらなんでも王様に対して不敬すぎませんか!?!?!?」
「あ?誰だお前」
俺が武器庫を漁っていると、なんか杖を持った少女が絡んできた。
俺が一睨みしてやると、彼女は震え上がった。
不憫だが、今はどっかに行ってもらおう。
「俺は今魔王をぶっ倒すのに最適な武器を選んでんだ、邪魔すんな。どっかいけ、しっしっ」
「なんですかその態度はーーー!!!」
俺は無視して武器を漁り続ける。
「いいですよ、いいですよ。わかりました。わたしは怒りました!!!!え、えーと、男!!!わたし、アリー・エルヴィはお前に決闘を申し込む!!!!」
「…はぁ?何いってんだお前。あと俺には親からもらった
「じゃああらためて、ノブハル!あんたに決闘を申し込む!!!」
「お断りさせていただこう、めんどくさい」
「へー、逃げるんですね?勇者として召喚された人間が、この国最高の魔術師であるわたしから逃げるんですね?」
「なんとでも言いやがれ、勇者を召喚するってことはつまり召喚しないとやってけない状態になってんだ。つまりこの世界で魔王に対抗できるのは俺だけ。それでお前が負けて無残な姿を晒さないようにしてやってる俺の最後の優しさがどうしても受け取れないってんなら決闘とやらを受けて立っても良い」
「構いませんよ、わたしが負けるなんてありえないもの」
仕方なく、俺は決闘を受けることにした。
「わたしは本気よ?常に本気を出すのがわたしのモットーだから。で、その本気にあんたは武器庫にあった木の棒で挑むと。防具もなしに。正気?」
「話のわからねえガキを躾けるにゃ、圧倒的不利な状況で制圧するしかないんでね」
「ずいぶん余裕ね。でも会場の予想じゃ、100%わたしが勝つってなってるけど?」
「そうか、この国の人間は皆バカなんだな」
「わたしが勝ったらその言葉撤回してもらうから」
「万が一仮に本当にそうなったら、な」
俺は棒を構えた。
未だに困惑した状態の王の御前で、レフェリーは始めの合図を出す。
「ハアッ!」
同時にアリーは猛スピードで突っ込んできた。
なるほどアリーは優秀な魔術師であると同時に優秀な魔法使いでもあるようだ。
魔法による加速を見つつ俺は考えた。
余裕をもって避ける。
「そんなんお見通し!!」
アリーは俺から一瞬で距離を取ると、杖から魔法を乱射し始めた。
それは正確無比に俺を狙撃してくるもので、避けても追いかけてくる。厄介なやつだ。
わたしは勝利を確信していた。
1秒間に2600発の攻撃。それを成せるのはひとえにわたしの魔力量によるものだ。
その攻撃を2分間続け、そして唐突に突進する。
あれを避けることはできないが、万が一出来たとしてもこの突進のときの杖による首筋の殴打で確実に鎮めることができる。
ノブハルは流石というべきか、わたしの攻撃を食らっても未だ立っていた。
「そこまで持ちこたえたら天晴ね。でもこれで終いよ!」
わたしは杖を振りかぶり、
首筋を殴る前に止められた。
魔法攻撃の煙が晴れる。
弾幕に包まれていたノブハルにはかすり傷ひとつない。
「なっ」
驚愕する隙もなく、わたしは体術のようなもので投げ飛ばされ、仰向けに地面に叩きつけられた。
そしてわたしの上に馬乗りになったノブハルは、手に持った棒をわたしの顔に向かって突き刺すように振り下ろしてきた。
わたしは思わず目を瞑ってしまった。
しかし予想された衝撃は来なかった。
わたしがおそるおそる目を開けると、棒はわたしの目の前で止まっていた。
「ここでお前が降参しなければ、顔面が変形するまで殴るぞ」
「ここでお前が降参しなければ、顔面が変形するまで殴るぞ」
俺は警告も含めて脅すように言葉を発した。
アリーの瞳はずっとこちらを見ていたが、やがて涙が流れ出して、
「うえぇぇぇぇぇん」
泣き出してしまった。
流石にやりすぎてしまったか…。
「そ、そこまで…」
静まり返る会場に、レフェリーの声が響いた。
「勝者、
俺は知っている、これはドン引きというやつだ。
このあと、どうしようか。
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