科学に即した地球誕生神話

注:微妙に性表現(?)があります。


1.

その昔、我々矮小な人類が観測できないほど昔、時間や空間は存在しなかった。

無のみがそこにあった。

主は、時空あれ、と唱えられた。

その言葉は無の均衡を崩壊させ、大きな爆発と共に我々の宇宙を誕生させた。


2.

あるとき、とある恒星が誕生した。

主は、その恒星を観測した。

恒星がかたちづくられた後に、主はその恒星に問うた。

「なにゆえ、貴方は独りなのだ。寂しくはないか。」

恒星は答えた。

「わたしには、きっと娘ができます。それまで待つのみです。」

主はその恒星の言葉に健気なものを感じられ、分子雲をその恒星に与え給うた。

そして主は言葉を与えた。

「かの娘にとって、最もふとあかりたれ。」

恒星はいたく感動し、名を太陽と名乗った。


3.

主の与え給うた分子雲は、やがて原始惑星となり、太陽の周りを動き始めた。

その太陽の娘である原始惑星の一人に、名もなき、夢見る少女があった。

あるとき、他の娘が通りがかったとき、彼女に夢を問うた。

彼女は答えた。

「わたしは、いつの日か母なる大地ガイアとして、生命を育みたいのです。ですが、わたしは力不足で、そのための物質も、空気を引き止めておくための重力も、わたしにはありません。だから、これは夢にすぎません。」

すると問うた娘は言った。

「ああ、なんという偶然!わたしも同じ夢を見ていたの。」

かくして二人は親友となった。


4.

ある日、少女は言った。

「わたしもあなたも、同じ夢を見ています。ですが、力不足で叶わないのですよね?」

「ええ。それがどうかしたの?」

少女は答えた。

「ずっと思ってたのです。わたしたちは、二人なら夢を叶えられるのではないでしょうか?」

「それは、つまり…?」

「わたしと、夢を叶えてくださいませんか?」

彼女らは惹かれ合い、近づいた。

そして重力に引かれ、赤く染まった肌を重ねた。

そうして一つになった彼女らから子が生まれた。

母は地球、子は月と、後に呼ばれる。


5.

一つになった彼女らは、自らを大地ガイアと称した。

いくつかの惑星が安定して太陽を回り始めると、彼女らに他の星が寄ることはなくなった。やがて彼女らは、ありとあらゆる生命のもとになった。

しかし彼女らは、一つになってもあの月を産んだ衝撃を忘れることはなかった。

感覚が思い出されるたび、彼女は自らを慰めるようになった。

その動きは、地を揺らし、海を波立てた。

そうして、我々はそれを地震と名付けた。


fin.

かくして、世界は主と夢見る少女によって構成されたのである。

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