排他選択的心身傷害症候群 Route:Bad
彼女は数日で無事退院したが、結局ナイフどころか他の刃物さえ自分を傷つけようとすると持てないようだったので、彼女の自傷行為の代わりは俺がやることになった。
毎晩毎晩だ。
いい加減手慣れてきたのか、俺はその行為に罪悪感を感じなくなり、逆に傷だらけの腹が美しいとさえ感じるようになってきた。
そしてそれは短時間で彼女に苦痛を与えることなく行える作業になっていた。
「すごい、本当に痛くないね」
彼女がそう言ってくれる度、達成感を感じる。
いつしかそれは二人の習慣になり、違和感や罪悪感などは遠い昔に消えていた。
俺は気づくべきだった。
彼女が痛みに対して耐性をつけていたことに。
俺は気づかなかった。
無意識にその傷が深くなっていたことに。
その夜、彼女が苦しむ声が聞こえた。
だがそれは心が苦しめられる声ではない。
「いたい…いたいよ…」
部屋を明るくすると、彼女のパジャマは血に染まっていた。
「なっ…」
急いでパジャマを脱がせると、体中の、今までの傷から、血が滲んでいた。
そして。
「…酷い熱だ」
手に負えない。
俺は救急車を呼んだ。
『ねえ…いたいよ…たすけて…』
彼女の声が暗い空間に木霊する。
『待ってろ…今、助けてやる…』
俺は必死で手を伸ばす。
この暗い空間のどこにいるかもわからない彼女に向かって。
次の瞬間、光が差し込み―
『彼女は、大学で迷っていた私を助けてくれました…』
親友代表の女の子の、泣きながらの別れのスピーチ。
周りの席からもすすり泣く声が聞こえてくる。
俺はその席の真ん中に座って前を眺めていた。
前には長い箱があり、その上には箱と、黒い枠に入った彼女の眩しい笑顔が―
「うわあっ!!!!」
俺は飛び起きた。
デジタル時計が午前3時を指し示している。
「またこの夢か…許してくれ…許してくれ…」
俺は助けられなかった彼女に必死で許しを請う。
「敗血症性ショックです」
医者が淡々と言ったのは覚えているが、それ以降は何も覚えていない。
横で目を閉じている彼女が妙に清々した顔に見えたというのは覚えている。
もしかしたらこれで良かったのかもしれない。
一時はそう思おうと努めたが、無理だった。
どうしても頭にこびりついて離れないのは、一つの事実だった。
俺が彼女を殺したという事実だ。
-end-
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