真相 ※クオリア視点

『心技 蜘蛛の糸!!』

私は、あらかじめ精神世界からの小さな出口を作っておいた。

そして、心の槍のうちの一本を伸縮自在な糸に変えると、その出口に突き刺した。

『グサッ!』


「この糸を頼りにすれば、まだ可能性はあるはず!

きっとお姉ちゃんの心を助けにいけるはず!」


私はお姉ちゃんの心を探しに急いだ。


くもの糸を使ったとしても、タイムリミットはある。

だから、精神世界が完全に崩壊してしまう前までにお姉ちゃんの心を助け出さなくちゃいけないんだ!


私は薄々気が付いていた。

ヘルティック・マチは姉ちゃんの悪の心で

消えていい存在なんかじゃないってことを。


むしろ、無責任でワガママで世間知らずでお調子者で往生際が悪くてドジでそそっかしくていつも無駄に元気な……、そんな、私が大好きなお姉ちゃんを形作っている大切な心なんだってことを。


私はロボットのように差し障りが全く無くて完璧な性格のお姉ちゃんなんていらない!

私は、いつも迷惑かけられてばっかりだけど、

人間味のある大好きなお姉ちゃんの心を取り戻しに行くんだ!


「お姉ちゃん!!」

あの先でしゃがんで下を向きじっとしているは間違いない、お姉ちゃんだ!

私はとうとうお姉ちゃんの心を探し出した。


私はお姉ちゃんのすぐ手間まで近づくと口を開いた。

「ねえ!」


◆クオリアじゃない!?

どうして逃げないの!?

早くここから脱出しないと間に合わなくなるよ!◆


「わかってる。

あなたを助けに来たのよ!

さあ、一緒に来て!」


◆ごめんクオリア、アタシは行けないよ◆


「どうして?」


◆アタシの心は歪んだネガティブな感情の塊だからさ、

アタシがいるとみんなを不幸にしちゃうから。

だから、ごめん。

アタシは大丈夫だから、あんたは帰って◆


「まだそのこと気にしてるのね。

ねえ、じゃああなた知ってる?

あなたの妹さんの事故の真実。

あなたが信じてきた事実とは違うはずよ」


◆どういうこと!?◆

お姉ちゃんの目の色が変わった。


「これはあなたの妹さんから伝え聞いた話。

妹さんが海で溺れた。しかし、あなたは海の家で働く友人の手伝いをしている間は妹さんの面倒をみておくように両親に言われていたにも関わらず妹そっちのけで友達との砂遊びに夢中になった。

その結果、妹さんが海で溺れたことに気がつくのが遅れた。

気がついた時には妹さんはかなり沖まで流されていて、焦った。

両親に叱られるのが怖かったから自分一人で泳いで助けに行った。

ここまではあなたも覚えてるわよね?」


◆覚えてるよ!

間違いない◆


「でも、そこからが本当は違うの。

あなたが覚えているのは改変された事実だから」


◆改変された事実!?

ねえ、どういうこと!?◆



「話を続けるわ。

あなたは一人で妹さんを助けに泳いだの。

だけど、それは妹さんを助ける目前だった。

突然の高波に足をとられ一気に姿勢を崩して海中に引きずり込まれたの。

そして、あなたは死んだの」


◆そんなこと、

アタシにはそんな記憶は無いよ!◆


「話を続けるわ。

誰か!

誰かお願いします!!

お姉ちゃんを、

私のお姉ちゃんを助けてください!!

妹さんは何度も何度も一生懸命に強く願ったの」


◆やっぱり、そんな出来事は知らない……◆


「そうしたらね、アスーという大人の男の人の声がしたらしいの。

そして、その人は妹さんに条件を出し、その条件と引き換えにあなたの死の運命を変えると約束した」



◆条件って?◆



「話を続けるわ。

妹さんは条件をのんだの。

そして、アスーという人の力を借りて※過去に行き、あなたの死の運命を変えようとしたの。

そうしたらね……」


◆そうしたら?◆


「結論から先に言うと失敗したわ」


◆どういうこと!?◆


「海水浴に行くという計画自体に妹さんが反対することで、あなたが海で溺れる事実は無くなったの。

だけど、運命はそう簡単には変えられなかったの」


◆どうして?◆


「両親が仕事で、家にあなたと妹さんしかいない時を狙って強盗が入ったの。

そしてね、妹さんとあなたは口封じの為にと犯人に口を塞がれ両手両足の自由も奪われ、近くの納屋に監禁されたのよ。

そして、誰かに気がついてもらおうと暴れまわり物音を立てる妹さんに犯人は暴力を振るおうとする。

犯人から妹を守ろうとあなたは犯人の片手を激しく噛み抵抗するんだけど……、犯人に反射的にナイフで刺され死んでしまったの。

犯人は納屋にあなたの死体を隠していたらしいわ。

そして、犯人に捕まっている間に妹さんは隙を見てもう一度アスーを呼びあなたのことを相談したの。

あなたが死ぬ因果を変えるのは本当に難しいらしいんだけど、2つの条件を呑めるのであれば可能らしい。

もちろん、妹さんはその方法を聞いたわ。

だけど……、

1つは妹さんの方が代わりに死んだことにするということ。

そしてもう一つは、

運命を書き換えた宇宙は短命だということ。

とても厳しい条件だったの」


◆シクシクシクシク◆


「あなた、泣いてるの!?」


◆だって、可織が、可織がそんなにまでしてあたしのことを、シクシク、シクシク◆


私は、私の為に涙を流し悲しんでくれる目の前のお姉ちゃん、つまりヘルティック・マチにどうしても伝えたかった。

私がお姉ちゃんの妹だよって!

お姉ちゃんの妹、加織は元気にしているよって!


「実は……ね、あと一つだけ!

あなたに伝えておきたいことがあるの」


◆あと一つって?◆



「聞いて!

私は、私はね……お」

『グラグラグラグラ』


「え?」

「グラグラグラグラグラグラ!!」


◆精神世界が完全に消えようとしてる!?

クオリア!?

あんたは今すぐに!

今すぐよ!

ここから逃げなさい!◆


「何を言ってるの!?

一緒にこの精神世界を出ましょう!」


お姉ちゃんはゆっくりと首を二回横に振る。

「え?」

それがお姉ちゃんが選んだ応えだった。



◆ありがとう◆


お姉ちゃんはきっと今が最期の瞬間だってことを悟ったからかもしれない。

表情は落ち着いていて、最期に私に笑顔でそう言ってくれた。

そして、お姉ちゃんの心はキラキラと輝きながら光の中に溶けていった。


—————————————————※可織は元々、私達が体感として認識している四次元ミンコフスキー時空の時間軸を一つから2つに拡張する能力を持っているが、本人は覚えていない。

アスーは可織が何者かに強制的に忘れさせられていたそのリミッターを一時的に覚醒させることによって、多世界解釈としての他の可能性の分岐世界へと潜入を可能にした。

しかし、他の可能性の分岐世界でも

真智の死の運命を書き換えることは容易では無かった。


【登場人物】

•クオリア

•ヘルティック•マチ

真智まち

•可織

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