第30話 助け
ポタッポタッ。苛つく水滴の落下音にあたしは目を覚ました。
「目を覚ましたか」
あたしが見上げる先、怪士が天井に座っていた。
いや違う。
あたしは裸にされて天井から吊り下げられていたのだ。
全ての衣服を尊厳を剥ぐように取り除かれ、秘部も胸も晒し脇すら晒した万歳の格好をしている。そして垂れ下がったあたしの左手の先にはデキャンタが置かれ、そこに浅く切られた手首から滴り落ちる血がぽたぽたと溜まっていっていた。
あたしあたしの血が!
あたしは恐怖で暴れようとしたが体は一切反応しなかった。
木に実ったたわわな果実のように、天井から吊り下がったまま白い肢体を晒しているだけ。
体をくねらせて秘部を隠すことすら出来ない。
「無駄だ。君の体は一時的に麻痺させて貰った。そう恐怖するな。ディナー用に血を少し貰うだけだ。
ふむ、このくらいでいいか」
怪士は垂れ下がったあたしの腕の手首に触れた。
ひいいいい、恐怖全身が強張る中どんな魔法なのかその瞬間手首の傷が塞がった。
「あとは」
続いて怪士はあたしの喉元を軽く突いた。
「! こっ声が出る」
「会話の相手でもして貰おうと思ってね。それにしてもいい匂いだ」
怪士はデキャンタからワイングラスに血を注ぎ、その香りを楽しんでいる。
「実に濃厚な香りがする。その若さでこの香りを出せるとは、君は波瀾万丈な人生を送っているようだ。
それにしてもこの強烈な香りの元はなんだ。炎いやそれより苛烈、烈火、嚇灼。
そうかこれは怒りだ。君は何か強烈な怒りに捕らわれているらしい。うむ」
一流のソムリエがワインを詩的に評価するように怪士はあたしの血を詩的に表すとぐいっと飲み干した。
「くはっ、体が熱くなり血が滾る。
素晴らしい。これは君を食する時が楽しみになってきたよ」
空になったワイングラスを怪士はくるくる回して余韻を楽しんでいる。
「化け物」
「くっく。それは牛が人間に感じる感情だろうな。すなわち優越種に対する畏怖だよ」
「何が優越種だ。お前は人間じゃないか」
「私は人間を超えたと言った」
自惚れじゃ無い、人が人であることを自惚れて誇らないように、ごく自然にこの男はそう信じている。
コンコン、ノックが響いた。
そういえば怪士に気を取られていたけど、ここはどこなんだ?
あたしが吊されている部屋は広く。美しい絨毯の上にテーブルクロスがされたテーブルが置かれ食堂のような感じがする。
「入れ」
ドアが開き、燕尾服に身を固めた男が料理が置かれたトレイを持って入ってくる。色取り取りの肉料理がテーブルに並べられていく。
「そっそれは」
嫌な予感がするけど聞かずにはいられない。
「もちろん君が想像したとおりだ。
これは先日潰した少女の肉だよ。彼女は奔放でね。乱交パーティー、ドラッグ、万引き快楽を得られるなら躊躇なくなんでもした。
そんな彼女の肉はどんな味がするんだろうね?」
一旦口を止めた怪士はハムのようにスライスされていた肉を一摘みすると、ぐっと飲み込んだ。
「何とも楽しい気分になる」
「今潰したと言ったのか」
「そうだよ。彼女は豚や牛と同じ。それも松阪牛とかとのブランド肉と同じくらい手間を掛けたね。
例えば彼女の場合、彼女の特性を熟知した上で彼女の魂が解放されていくように、Sex、ドラッグ等の惜しみない支援を行ったからね。そして彼女の魂が爛熟した頃を見計らって豚のように潰した。
それが何か? 人間がしていることを人間相手にしただけだよ」
「特性を熟知?」
「ああ私が巷に流行らせているナナシ、あれは原罪を呼び覚ます効果があるのだよ。おかげで見間違うことなく育成できる。人間が他の動物と違う最大の特性、それは原罪、ならばその原罪を最大限に味わうことこそ、優越種としての義務であり楽しみ」
「貴様っ」
「くっく、いいなその目。先程より更に濃厚な香りが漂ってくるぞ。君には怒りを爆発させればさせるほどいいらしい。
どうすればその怒り最大に燃える?
浮浪者に一晩中犯させてみるか、それとも君が嫌う私自ら犯してやろうか」
怪士はあたしの乳房を揉み拉きながら言う。
そのおぞましさに全身の鳥肌が立ち吐き気が催す。
「何が優越者だ、お前はただの変態だっ」
「いい目だ。それでもは君の怒りを頂点にはもってこれない。
君みたいなタイプは」
「そうか、そうだな。明日にも君の友人を攫ってきて目の前で食してやろう。確か天道といったかな」
「貴様っーーーーーーーーーーーーーーー」
あたしは喉が潰れるほど叫んでいた。
「いいぞいいぞ。益々濃密な匂いが立ち込める」
「お前なんかに」
「おっと、舌を噛もうなんて甘いな」
「あががが」
あたしが口を閉じるより早く口の中に指を突っ込まれた。
「悪い子だ。お仕置きだ」
指がぐいぐい喉まで侵入してきてぐりぐりとあたしの喉奥を犯していく。
「顎の骨を外しておくか。死のうとするとは全く・・・」
「期待はずれです」
「「!」」
麝侯がいた。
声のした方を見ればさも当然の如く麝侯がいたのであった。
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