第27話 狡猾に

 放課後になってもまだ魂のざわつきは収まりきってなかった。でも帰るわけにはいかない。あたしは昨日の結果を飆から聞かないと。

 生徒会室に行くと既に飆と燦が来ていた。

「これで揃ったわね。早速昨日の報告をして貰えるかしら」

「これを見てくれ」

 飆は抱えていたノートパソコンを開く。

「これは」

「葦内の部屋にあったパソコンのHDDの中身を此奴に移した」

 う~ん、飆って決して暴力的な魔術の力だけに頼ってないんだな。あたしも見習って色々と技を身につけないと。

 鍵開けに、パソコンのクラック、今のところ犯罪者スキルばっかりだけど。

「まずは、このデータを見てくれ」

 ダブルクリックしデータを開いた。開いたファイルには万引きをする少女、縄で縛られた少女、下半身を露出させられた少年 数人掛かりで犯される少女 etc本人にすれば人に見られたくない瞬間を取られた写真が詰まっていた。

「コレクションと脅迫材料を兼ねたってところかしら。想像以上のクズね」

 燦は呆れ果てたように言う。

「この写真の数だけ彼奴は罪を重ねたということだ。必ず償わせる」

 飆から放たれる怒りで肌がヒリヒリするのを感じる。

「でもこれでは彼奴を追い詰める材料にはならないわよ」

 どの写真もそうだが、葦内自身は映っていない。流石にその点は用心深い。

 子の写真を印籠の如く見せ付けても、観念しないでネットから落としただけど言い張られたらそこで追求は終わってしまう。

 そして葦内は間違いなくその程度で墜ちる男じゃ無い。

「分かっている。ただ彼奴がどんな男なのか分かって欲しかっただけだ」

 そう言いつつ飆は燦を見詰める。

「分かっているわよ。例え彼奴の親がどうあれ明確な証拠が挙がれば彼奴には罪を償って貰う。隠蔽はしないわ」

 学園にしてみれば有力者の子供がいることは何かと都合が良いはず。そして燦は理事長の娘、それでも不正は正すと言い切っている。

 燦は信じてもいいと思うが、その両親が娘に賛同するかは分からない。燦に頼り切るような作戦は危ない、次善の策を用意する必要があるだろう。

 ふっ、あたしもすっかりこういう思考をするようになってしまったわね。

 狡猾になってきたということで、以前のあたしが如何に両親に守られていたか身に染みて実感する。

「それを聞いて安心した」

 爽やかな笑顔を燦に向ける飆だが内心はあたしより酷いことを考えているかも知れない。

 あたしより先にこの世界に出生きる彼、フォビアさんの元で修行をする彼があたしより甘いなんて事は無い。

「では、本命だ。葦内のパソコンの中にナナシの取引スケジュールがあった。それによると今夜ナナシの引き渡しがあるようだ」

「本当!」

「ああ。スケジュールにはそうある。それが本当かどうかの確認には俺が行こう。セウと会長は大人しく家にいてくれ」

「私に大人しく引っ込んでいろというの?」

 燦は冗談じゃないとばかりに食らいついてくる。

「夜中の00:00にどうやって外出するつもりだ? お嬢様」

「ぐっ」

 燦はお嬢様の割りに結構自由にさせて貰っているみたいだけど、流石にそんな時間に家を抜け出すなんてこと許されないだろう。いや普通の家ならそうで、それがいいと今のあたしなら思う。

「いいわ部下を信じて私は待つわ」

 流石傍若無人のようでいて道理は弁える燦だ。そうで無くては頼れない。

「セウも家で大人しくしているんだ。あいつに気付かれたくない」

 ぐっ飆はよくよくあたし達の急所を知っている。しかし、警察が保護していないなら葦内が池さんの行方を知っている可能性が高い。今夜出てくるのなら何としても葦内を捕まえたいが、麝侯に知られるのも確かにまずい。

 どうする? あたしの相手は狡猾な悪魔、知恵を絞って搾り切らなければ魂だけを取られる。

「分かったわ。でも連絡だけは頂戴。あたしはお嬢様と違って夜中に電話しても怒られはしないから」

 隣で燦が顔を顰めているが取り敢えずは何も言ってこない。

 ここであたしが無理に付いていくと言えば一度は引っ込んだ燦も騒ぎ出す。

 そして何より出し抜くべき麝候に知られるのはまずい。今のあたしではどうやっても麝候に知られずに家を出ることは出来ない。

 ならば、ここは考えを変えよう。

 もっと狡猾に。

 昔のあたしなら嫌ったけど、他人を働かせて他人の手柄を横取りするような形を取る。

 つまり飆に働かせて飆に池さんを見つけ出される。そしてそれをあたしの手柄として麝候に見せ付ける。

 汚かろうが、汚れなければマリを守れないなら幾らでも狡猾になる。

「了解だ」

 飆は連れて行けとごねられるくらいならとあっさりと承諾した。

 電話してきたときに池さんのことを聞く気だが、後で燦がいないときに事前にも頼んでおこう。

 話は決まり解散となり、あたしは帰宅した。


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