第25話 自重

 翌日学校に登校すると同時に飆の所に行って昨日の捜索の結果を尋ねたかったが自重した。クラスが違うあたしが不用意に飆のクラスに行ったりして無用な注目を浴びたくなかったからだ。

 あんまり目立つのは無用な嫉妬を買い捜査に支障が出る。この世界は悪意の網が張り巡らせられている。事を為そうとするならそれに引っ掛からないように慎重になる必要がある。

 だからあたしは気になって仕方なかったが放課後に生徒会室に行くまで我慢することにした。

 でもマリの方はそうではないようである。

「ねえセウ、未緒のこと麝侯さんから何か聞いてない?」

「ご免何も」

 池さんは確かにあの場にいた。そして警察が踏み込んだのなら確実に保護されたはず。現にあの場で気絶していた葦内のグループのメンバーは警察に補導されたと聞いている。なのに池さんのことが噂にならないのは、警察が被害者の人権を守るために徹底的に秘密にしているとか。それなら学校が側が騒ぎ出さないのも納得出来る。そしてそうならあたしが大神さんを出し抜くことも不可能じゃ無くなる。

「未緒今日も学校に来てないし連絡も取れないの」

 マリには無駄な心配を掛けてしまうが、知らない方が池さんとマリのためだと思う。池さんはもうどうしょうも無いが、何としても麝侯を出し抜いてマリだけは守る。

「大丈夫よ。本当に何かあったんなら学校だって動くだろうし、一応探偵だって動いているんだから」

 もう何かあったことをあたしは知っている。それでも笑顔で嘘を言う。

 マリを守るため、あたしは幾らでも墜ちていける。

「そうよね」

「そうそう。さあ頑張って勉学に励みましょ」

 あたしはマリだけで無く自分を騙すように明るく言い切った。


 焦る気持ちを抑え授業を受けていく。とてもじゃないが放課後までは耐えれそうに無い、昼休みに生徒会室に行ってみよう。もし生徒会長がいたら生徒会長に豹を呼び出して貰おう。

 生徒会長いるといいな。

「どうした天影、心配事でもあるのか」

 理科室で授業で使用した教材の片付けをしていると倉石先生に心配そうに言われた。

「いえ大丈夫です」

 無理に気持を抑えているのが顔に出てしまったようだ。それにしても無骨そうに見えて倉石先生はよく見てる。

「何か悩みでもあるなら遠慮無く言えよ」

「大丈夫ですって」

 とてもこの悩みは一介の教師に打ち明けられるものじゃない。

「そうか。

 そうだちょっと理科準備室に寄ってかないか」

 あたしの奥歯にものが挟まった反応に少し眉を顰めた倉石は提案してきた。

「はい」

 なんだろう。心配をさせた身としては断れない。

 あたしは倉石先生に誘われ理科室の隣にある理科準備室に入った。

 ここは理科を担当している先生方が資料を作ったりする部屋で中に入ると、ごちゃごちゃと色々な資料や標本が並んでいた。

「ほれこれでも食べて元気出せ。食こそ人生おける神髄だ」

「大げさですね」

 倉石先生からあたしは月餅を貰った。

「他のみんなには見つからないようにここで食べていけよ。茶でもだそうか」

 悪戯っ子のように言う。

 まあ確かに見つかったらちょっとまずいかも。

「いえ、次の授業が始まってしまうので」

 あたしは倉石先生の好意に甘えて月餅を一口食べた。

「!」

 おいしいと思った次の瞬間には、グラッときた。

 心がざわめきだし、やもやする。

 何かが込み上げてくる。

 鼓動が早くなる。

 これは麝候に打ち込まれた魂達が一斉にざわめきだしたんだ。最近は落ち着いていたのに、何でこんな時に・・・。あたしの意識が持ったのはここまでだった。


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