第22話 嫌な予感

 10階建て、3LDK、サラリーマンがローンを組んでやっと買えるか買えないかくらいのマンションに葦内は学生の身で一人住んでいる。幸いなことにオートロックにはなっていないようなので、彼の部屋の前までは苦もなく来ることが出来た。

「普通にしてろよ」

「分かったわよ。でもどうするの?」

「普通にドアを開けるのさ」

 飆はポケットから複雑な形状をした鍵を取り出すと鍵穴に差し込んだ。ガチャ、二三回左右に回した後ドアは開いた。

「何をしたの?」

「企業秘密。今日日魔術よりこういった技術の方が重宝される時もあるのさ」

 飆はウィンクを返してくるが、可愛くない。

 部屋の中に堂々と入っていくあたしと飆。部屋の中は意外なことに片付いていた。彼奴が自分で掃除をするとは思えないから、ハウスキーパーでも雇っているのだろうか。だとしたら、この部屋に人に見られて困るようなものは置いてないだろう。

「ねえ、無造作に入ったけど中に葦内がいたらどうするの?」

「その方が話が早くて助かる。まあ、あいつが部屋に隠れて怯えているような奴なら苦労しないよ」

 一通り部屋を回ったが予想通り誰もいなかった。飆の実力を知った葦内はどこか別の場所に隠れて反撃の準備を整えているのだろう。

「おっパソコンがあるな。ここで作業するのは手間だし、HDDを抜いていくか。セウは他に怪しい物がないか捜してくれ」

「分かったわ」

 多分葦内が帰ってくることはないと思うが、不法侵入をしているんだ、早めに目的を果たして退散するにこしたことはあるまい。

 あたしと飆が部屋の捜索を始めてから30分くらいが経っただろうか、あたしの携帯が震えた。ディスプレイを見るとマリからになっていた。

「はい」

『セウ。どうしよう未緒が何処にもいないの』

「どうしたの落ち着いて」

『未緒が心配になって何度も電話したんだけど出なくて。それで放課後未緒の部屋に行ったんだけどいないの、どこにもいないの』

 時計を見ればいつの間に授業は終わっている時間になっていた。

「たまたまじゃないの、きっと実家に帰ったとか」

『そんなことない。嫌な予感がしてしょうがないの。ねえ麝侯さんに捜索を頼めないかな?』

「そっそれは」

 池は多分警察に保護されているはず。わざわざ悪魔と関わるリスクを犯す必要はないんだ。

「ちょっと待ってあたしも心当たりに電話してみる。また掛け直すから待ってて」

『分かった』

 切って直ぐ生徒会長に電話する。口惜しいけど彼女の権力に頼らせて貰う。

「燦さんですか」

『どうしたの慌てて、何か収穫はあったのかしら』

「それは置いておいて」

『私の仕事を置いておいてとは随分ね』

「小言は後で受けますから。昨日葦内達のたまり場に消防や警察が踏み込んだのは知っていますよね」

『ええ、通報したのは私ですもの』

「へ~、そうだったんだ。それでですね。警察が踏み込んだ時に少女が保護されたと思うですが、その少女がその後どうなったか分かりませんか?」

『事情は後で聞かせて貰うとして。ちょっと待って』

 普通だったら出来ないことなのに生徒会長は何でも無いように出来ると応える。この人は警察や消防にもコネを持っているということだろう。

 かちゃかちゃとキーボードを打つ音が響いてくる。

 僅か数分、それでも一時間にも感じる。

『少女? へんねえ~昨日保護されたのは少年達のみよ』

 どういうこと? 背筋が冷える。

「それは本当ですか」

『ええ、通報したものの義務として後のこともちゃんと追跡しているわよ。消防も警察も少女を保護してないわ。ねえどういうこと、その少女が何か今回の件と関係あるの』

「後で説明します。兎に角ありがとうございました」

 携帯を切って飆の方に向く。

「ねえ、昨日池さんいたわよね」

「ああ、確かにいたな。あの様子なら保護されないわけがないと思うが」

 あの火事での死亡者はいないことは分かっている。いったいどうなっているの? 兎に角マリに掛け直さないと。しかし今後は何度コールしても繋がらない。マリはスマホを切っている。凄い嫌な予感がする。

「ご免あたし今すぐ帰る」

「分かった。探索は俺がやっておくから、お前は直ぐに帰った方がいい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る