第21話 上手
翌日、蚯蚓腫れになった肌がずきずきするが幸い服を着れば隠せるのであたしは平静を装い登校した。
そして、当然というか池さんの席は空いていた。
「おはよう、セウ」
あたしが池さんの席に視線を走らせている内にマリが側に寄ってきていた。
「おっおはよう、マリ」
「未緒どうしたんだろう、何の連絡もないの」
マリは心配そうな顔で自分のスマホを見るが、そこに池さんからのメールなりの連絡の跡はないのだろう、ますますマリの顔が曇っていく。
「心配しすぎじゃないの。マリはお母さんじゃないんだから、いちいち連絡もしてられないでしょ」
「何よそれ」
マリは怒った河豚のように頬を膨らます。
「はいはい、怒らない怒らない。きっとその内連絡が来るよ」
いいタイミングで阿部先生が来たのであたし達は席に戻った。だが、阿部先生にも池さんが休むという連絡はなかったようで、まじめな池がな~と首を傾げている始末。
どういうことだろう? あの後池さんは救助されたはず。それなら何らかの連絡は学校に来ていないとおかしい。でも、あんな事件だ真相は誤魔化すだろう。だとしたら、この知らないという態度自体が偽装なのかもしれない。今日時間が空いたら池さんがどうなったか調べてみよう。
連絡のない池さんを心配するマリに真実を言うわけにもいかず重苦しい空気の午前中の授業が終わった時、廊下から呼ぶ声がしたので見ると飆だった。
女子達の好奇の視線に晒されならが廊下に出る。
「どうしたの?」
「ちょっと来てくれ」
呼び出しておいて素っ気ない返事だが。周りには聞き耳を立てている生徒が数人、まあ詳しいことは言えないか。
「分かったわ」
「セウ」
マリが側に来ていて心配そうにこちらを見ている。マリは鋭い、きっとただならぬ雰囲気を感じ取ったんだろう。
「ああ心配しないで、天影さんに生徒会の仕事を少し手伝って貰うだけだから」
飆が好青年モードの爽やかな笑顔で言う。
「そうなの」
「うん、そうなのよ~。優秀な人材は放って置かれなくて。ご免ね、お昼一緒に食べられなくて」
「もう、しょってるな。でもセウが言うと納得しちゃうな。この埋め合わせはしてよね」
「うん、きっとするから」
マリと別れて飆に着いていくと本当に生徒会室に来た。
「入ってくれ」
飆に施され中に入ると生徒会長の燦さんが待ち構えていた。
「生徒会長! あなたがあたしを呼んだんですか」
「そうだ。まあそこに掛けろ」
飆に施されあたしは椅子に座る。
「感謝の言葉は?」
「はあ?」
燦さんのいきなりの言葉にあたしは戸惑う。
「感謝の言葉は? 昨日あなた達を尾行して、あなたが地下室に連れ去れたあとに策に嵌ってまんまんとあなたを見失っていた飆をあなたの所まで案内したのは私ですよ」
チラッと見ると飆はバツの悪そうな顔をしている。本当なんだ。
「助けて頂いてありがとうございました」
「いえいえ、生徒会長として生徒を助けるのは当たり前ですから」
だったら御礼を強制するな。
「さて、副会長の分際で生徒会長の私に隠し事をした飆から事情は聞きました。我が校の関係者が麻薬に関わっているなんて由々しきことです」
「いえまだ関わっているかどうかを調べている段階でして」
葦内にしても怪しいだけで、結局「ナナシ」を持っていたのかどうかは確認出来ていない。
「そうなの」
「そうです」
「・・・まあいいわ。兎に角今後は私の指示に従って貰うわ」
「なんで」
「あら恩人に向かってそんな態度を取っていいのかしら。それにこれはあなた達にとってもいいことなのよ。これからは私の的確な指示を受けられる上に、学園内では色々と便宜を測ってあげるわ。ねっ決して悪い話じゃないでしょ」
よく言うわ。それって理事長の娘であること生徒会長であること、その両方の特権を恥ずかしげもなく利用すると言うこと。でも、ここまで潔く堂々としていると惚れ惚れするわ。
「分かりました、協力はしましょう。でも立場は対等です。決してあなたの部下になった訳じゃありませんから」
「ええ、分かってますわ。それで早速ですけど」
早速人を部下みたいに扱いだしてるし。
「いやだから」
「葦内のマンションに行ってきてくれないかしら」
「葦内のマンション?」
「ええ、彼のこと調べたけど、実家を出て一人暮らしをしているらしいの。うまくいけばマンションに隠れている彼を押さえられるし、最低でも彼の部屋を調べれば何か分かるかも知れない」
「でも授業が」
「特別授業ということで午後の授業を休むことを許可します」
うわっ何処まで権限もっているんだこのお嬢様。
「仮に彼のマンションに行ったとして、どうやって中に入るんですか?」
「そこはあなた達の臨機応変才覚に任せますわ」
どうにも口惜しいけど彼女の方が上手みたいだ。断れない。
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