第49話 玉かずら
気がつくと、
朔は、白い霧のなかでひとり佇んでいた。
——小萩は。みんなは。
朔は辺りを見回す。
今まで牛車に乗っていたはずなのに、誰の姿も見えない。
霞みがかった空間の拡がりが、どこまでも続いていた。
たったひとりきりなのが分かると、朔は静寂のなかで両手を固く握った。
——私は、こうなることを初めから知っていた。予想通りのことが起きただけだ。
そう思ってはみても、実際に何もない空間に放りだされると、心許なさが胸に湧き起こった。
その気持ちを制して一歩踏み出すと、何もないと思った先——淡く清らかに光るものがある。
その光を見つけて、朔はやるべきことを思いだした。
ただそのために、この地に来なければいけなかったのだ。
「やっと来たね。朔姫」
白い蛇は、嬉しそうにそう語りかけた。
こうやって会うのは、何日ぶりだろう。
朔も、話し相手を見つけた安堵から言った。
「あなたは、この
「ご明察の通り。京へ行ってしまった時は、一体どうなるかと思ったけど」
——では、やはりこの場所に来るのは正しかったのだ。
そう思えることが、朔にはとても大切なことだった。
まわりの者がどれだけ反対しても、朔はそれをしなければいけなかったのだ。
たとえ『月読』を率いる大后に背くことになっても。
以前は封印の解き方が分からなかった朔も、今は普通と違う場所に身を置いているためか、おのずとどうすればいいか見えてくるようだった。
朔は目をつむる——と、身のまわりに、白い蛇が発しているのと同じ光が集まるようだった。
それは蝶のように、最初朔のまわりを舞っていたが、そのうち連なって、ひとつの形を成した。
白い珠を、いくつも連ねたような。
玉かずらは、
鮮烈な
朔の手元にいきなり現れた。
否、今までもそこに存在していたのに、たった今見えるようになったのかもしれない。
あまりにも自然にそれは現れて、
まるでずっと持っていたように思えるほどだった。
と同時に、
言いようのない懐かしさが、朔の胸を満たした。
——私は、これを前にも見たことがある。
それなのに、忘れていた。
あの時、母さまが、私に
そこまで考えて、朔は笑いたくなった。
今までも、きっと思いだそうとすれば思いだせたのだ。
その記憶に蓋をしていたのは、他でもない朔自身だった。
ずっと自分を
朔は、輝きを放つ玉かずらを捧げ持つと、
白い蛇にそっとくわえさせた。
ふたつに溶け合った光は四方に伸びて、大きくなってゆく。
そのなかに呑まれつつあると知ったのは、次に呼び掛けられた時だった。
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