第30話 報せ


早めに照臣のもとを辞退して表に出ると、

すでに夕星ゆうずつが西の空に淡く光っている。

物思いをしていて足取りも自然と遅くなったのか、自邸にたどり着くと、

門の前で邦光が、焦れたように待ち構えていた。



真雪を見つけると、

今や遅しと待ちくたびれたように駆け寄ってきて言った。



「以前、歌を送った方から文が届いています。すけさまが全然帰ってこないので、少将さまの家まで届けに行こうかと思ったくらいです」



真雪が歌を送った相手といえば、朝霧しかいない。

そんな急ぎの用でもないだろうと、邦光を見て真雪はあきれたが、邦光は邦光で、朝霧を真雪の想い人と、あらぬ誤解をしたままかもしれない。



真雪がその場で文を広げると、

そこには素っ気なく、しかし急いで書いたのか、少し乱れた文字で、今夜屋敷に来ていただければ、という主旨のことが簡潔に書いてあった。



用件を書いていないところを見ると、邦光の言う通り、もしかしたら急ぎの事が何かあるのかもしれない。




「今夜また出かけようと思うが、供をたのめるか」



いつもはひとりで行くのだが、なんとなく命婦を訪れた時のこともあって、真雪はそう言った。


初めてそう言われたのが嬉しかったのか、邦光は大仰に、ひとつ頷いた。



「もちろん、お供をさせていただきます」

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