第25話 予感
牛車の進みは遅く、いつまでも揺られ続けているように思えたが、人通りが多くなるにつれ、都に近づいているような予感がした。
物見窓から細く、外を眺めると、同じような車が大通りを渡っていくのも見える。
アヤメは出発してから
小萩は昨夜あまり眠れなかったため、眠るまいとしながらも牛車の振動に合わせて、眠気に耐えきれずに、うたた寝をしている。
かくいう朔も眠れなかったのだが、目は冴えていた。
昨夜、几帳の内側で見た光の影が、まぶたに焼きついてずっと離れなかった。
もっと話を聞きたかったのに、すぐに消えてしまった。
懐かしい口調だった。
記憶にはない蛇の姿を、自分は前に見たことがあるのだろう。
恐れよりも親しみを感じる時点で、自分は人とは違うのかもしれない。
——そうだ。美袮も、私を恐れていた。
朔は久しぶりに、
ずっと世話をしてくれた乳母代わりの女性を思いだして、薄く唇を噛む。
考えたくないことだったが、美袮は朔が『月読』に引き取られることを、少しも惜しくは思っていなかった。
厄介払いできる。
本当に、そう思っていたのかもしれない。
だからこそ、朔も屋敷に残りたいと最後まで言い張ることができなかった。
それは、言ってはいけない言葉だった。
胸がはりさけそうなくらい不安でも、それを呑み込んでついていくしかなかった。
今も、——
朔は、物見窓の外の風景を、ぼんやり眺めながら考える。
不安であることには変わりない。
でも、何も分からないで過ごすのは、もう嫌だった。
昨日の夜、
突如現れた蛇の使いなら、きっとすべてを知っているのだろう。
——明日、牛車には乗らない方がいい。
その言葉を聞いた時、
なぜか都へ行くことになる予感がした。
大炊君も、もとは宮人に仕える立場なのだ。
その人の指示を受けているのなら、そう考えるのが自然だと朔にも分かった。
人々の行き交う大通りが朔にはめずらしかったが、慣れない袙姿に身をやつしたためか、緊張のあまり外の風景も目に入らない。
そんななか、
アヤメが牛飼童に指図する声がした。
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