第24話 美袮の言葉


ようやく真雪を本気とみなしたのか、命婦は浅く吐息をついて言った。


「そこまで言われるなら、致し方ありません。でも思い改められるなら、身を引いて下さい。あの子を助けるとは、それこそ神に挑むようなもの。初めから、そなたに勝ち目はないのです」



諦めた風情に、真雪は反駁した。



「それはどういう意味です。姫君が人ではないと言うのですか」


「高麻呂殿に、少しは聞いたのでしょう。あの姫君には、月代の大蛇と呼ばれる龍神がいているのです。白珠の更衣も、最期はあの社にある龍穴に呑まれました。そうなる定めには逆らえないのです」



真雪は、息を呑む。

それでは、やはり更衣はただのやまいなどではなかったのだ。


高麻呂の話を思いだし、真雪は問いかけた。



「あなたが『月読』と、手引きをしたのですか」



半分出まかせのつもりで口にしたが、命婦は頷いた。



大炊君おおいぎみは、信頼するに足るお方です。せめて残された時間を宮中で過ごせれば、それがせめてもの救いになるのです」




——大炊君。




もう承知していることと思ったのか、

真雪は、命婦が口にした名を胸にとめた。



「姫君が更衣の二の舞になってもいいというのですか」



真雪がそう言うと、

命婦はむしろ憐れんだ目で、真雪を見返した。

恐れを知らない者に対して、まるで同情するような目線だった。



「あの子は昔から、母親のところへ行きたがっています。神に魅入られた者を、どう救うのですか。

誤ったおごりは、身の破滅を招くだけです。会ったこともない姫君に固執するのは、もうおやめなさい」





それ以上話が進みそうにないため、真雪はそこで辞退することにした。

日はとうに暮れ、夜の帳で覆われた芒の原に、鈴虫の鳴く声ばかりが聴こえてくる。

ここから自邸まで駆けると、真夜中になるだろう。


命婦に何を言われても、真雪は姫君を諦めるつもりはなかった。

しかし——問題があるとすれば、それを阻む相手が見えないことだった。


命婦は、いずれ姫君は社に続く龍穴に呑まれると言ったのだ。

亡くなった白珠の更衣と同じように。


確かに——『月読』はおろか、月代の大蛇と呼ばれる龍神が相手では、真雪に勝ち目は初めからないかもしれない。




——それでも。




真雪は手綱を握ったまま、終わりのない自問自答のなかで、闇のなかをひたすらに駆け続けた。

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