大晦日

「年末年始なんか大嫌いですよ。人に死ねと言っているようなものです」

 ぼくが一足遅いサンタクロースとばかりに三宅さん宅に来たのは、蕎麦の配達だ。と言っても乾麺だ。源造さんは〝源蕎麦〟に来てくれと言っていたが、「そんな蕎麦屋が年に一番忙しい日に、行けませんよ」とオメガが妙な遠慮をした。ふるさと納税でもらった合鴨で鴨南蛮に仕立てるらしい。

「これから一月四日まで主治医が正月休みを取る。何かあったら行ったこともない救急外来に駆け込む羽目になるからです! この季節の救急外来は急性アルコール中毒と酒気帯び運転の犠牲者、連休しか車を運転しないヘタクソ選手権、餅をのどに詰まらす年寄りのせいで地獄です。これに寒波でも来たらもう! 正月休み中にうっかり知らない病院に入院しちゃったら三が日明けても簡単に転院はできないんですよ! 命懸けの盆と正月!」

「あ、そ、そう……」

「これでゴールデンウィークが十日間になるとかわたしは耐えられない。政治に殺される!」

 ……なかなかシビアだった。

「おっさん、雑煮食って平気なん?」

「そのうち平気じゃなくなるから平気なうちに食べる! 関東風の角餅!」

 何を頑張っているのだろう、彼は。雑煮のない正月とかぼくにも想像がつかないのだが。

「初詣とか全然行かないのか?」

「あれって鉄道会社の陰謀でデッチ上げられただけで別に伝統でも何でもないらしいですよ。どうしても行かなければならない用事があるならラッシュアワーの山手線でも乗りますけどね、鉄道会社の陰謀で群衆密度ギッチギチの元旦の神社で命の危険に晒されるとか。八百万の神は一月四日でも気を悪くしたりしないと思います!」

「まあそりゃそうだけど……」

「先生も元気だからって富士山にご来光拝みに行ったりするもんじゃないですよ! はしゃいで普段しないことをするとろくなことがない!」

「それでずっと三が日、引きこもってるの?」

「季節の行事はちゃんとしますよ?」

 眼鏡が不穏にきらりと光った。

「〝冬厨〟の観測を」

 ――〝さらまんどら〟の年末年始は基本、寝正月らしい。

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