第162話 身分

アマリリス村に到着した僕ら。

村は古ぼけた小さな教会を中心に十五件程の家が集まった小さな村。その家々も古く壁なんかもボロボロになっています。

確かにアルベルが言っていた通り、然程大きくない木々が所々に立っているていどの自然。そんな中に畑も耕されてはいるが‥‥‥


「‥‥‥アルベルが言っていたより酷いかも」


僕は辺りを見て、そう思いましたよ。

この辺りが昔は緑溢れる場所だったとは、到底信じられません。

それはエレムやミレンも、この景色を見てそう思ったことでしょう。

ただ言える事は、カイトとアメリア王妃が此処に半年以上は滞在していたと言う事実。

なんでもアメリア王妃は元は貴族の出だったみたいなんですけど、然程裕福でない貴族だったみたいで、よく、下々の人達と畑仕事なんかも手伝っていたとか。だからこの村に半年以上も滞在できたのではと、僕は思います。

で、何故にこの地に王妃とカイトが身を隠さないといけなくなったかは、それは、あの『自由の翼』の連中から身を守る為だとか。

あと、これだけ小さな村だから、他からのよそ者が来ても直ぐにわかるとの事。

その辺りもアルベルが下調べして、この村を選んだとか。


で、何故にカイトはこの村に来たかったかは、たぶんあれでしょう‥‥‥


「友達が居たから」


ではないでしょうか。

多分、身分の事は話してないと思います。話せば子供達はカイトの身分の違いから敬遠しかねないですから。だいたい、身分を隠して潜伏しないといけない状態でしたからね。

だから、カイトにとってこの村で初めて友達が出来たんだと。心を許せる友達が。


けど‥‥‥身分を話さずに城に戻ってしまいましたからね。カイトは。

それに、カイトが居なくなった後、カイトがガルバディ帝国の王子だった事は、知っている人から教えられている可能性も。

だから今、カイトの友達の前にカイトが出ても、素直に話してくれるかどうか‥‥‥。


村はずれの朽ち果てた農具小屋?のような建物の横に4WD車を止めると、そこから歩いて村まで行きます。

ただ、やはり、カイトは此処に来た嬉しさの反面、少し不安がっています。


「みんな僕の事をどう思うんだろう‥‥‥」


カイトは小さく呟くと、村の方を見ます。

そんなカイトを見てると、心が何か痛みます。何せ美少女が悩んでいるんですから、て、カイトは男の子なんですよね。本当にしつこいようですが、男の子です。


「大丈夫だと思うよ。だってカイトの友達なんだからね」


僕はカイトの頭を優しくポンと叩くと、笑顔を見せます。


「ええ、大丈夫ですわよ」


「そうですわよ、カイトさん」


エレムとミレンもカイトを励まします。

まあ、とりあえずは村の長、長老なる人の所に行かないとね。

て、事で、カイトに村の長老の所まで案内してもらった。


長老の家は古びた教会の横にあった。

長老の家のドアをノックする僕。で、その横に居るカイトが、


「長老! 長老いますか? 僕です!カイトです!」


暫くするとドアがゆっくりと開き家の中から老婆?らしき人物が現れた。背はカイトと同じぐらいか。けど、体つきはさわれば骨が折れそうなぐらい痩せている。


「どなたかなぁ?‥‥‥うん?」


長老は目が悪いのか、カイトの顔に自分の顔を近づけると、相手がカイトだと分かったらしく、


「あっ! こ、これはカイト王子! 」


ヨボヨボした体を無理やり立たせる感じで起立状態になる長老にカイトは、


「あっ、長老無理はしないで下さい」


「何をおっしゃいます。して、今回はなにようで‥あっ、こ、腰が‥‥」


「無理しないで、長老」


カイトは長老の前に行き長老をなだめます。で、僕は直ぐに長老の体を持ち支えます。


「あっ、すまないね。して、あなた方は?」


「長老、この方は僕のお兄様で、乙川 光様です。で、こちらの女性はエレム様とミレン様で、お兄様の婚約者です」


エレムとミレンは挨拶をしてお辞儀をします。が、長老が何か「?」な顔をしてますよ。だってですね、カイトの兄弟は姉のミリアだけと聞いていたらしいので。


「カイト王子にお兄様がいらっしゃいましたのですか⁈」


それはびっくりしますよね。普通は。

で、仕方なく僕が長老に説明をします。


「‥‥‥そうですか、ミリア姫の婚約者‥‥‥ですか。それでカイト王子のお兄様‥‥‥と」


「ええ、そう言う事です」


「では、そちらのあなた様の婚約者様も‥‥‥」


「あっ! え〜っと、ですねぇ〜」


僕は、又々説明しますと、長老は一歩後ずさりをして驚きますよ。


「あ、あなた様はいったい何者なのですか!?他国の姫様や貴族のお嬢様と御婚約されているとは!」


「あっ! いえまだ正式に婚約している訳では。それに僕は普通の男ですよ」


で、僕は本当の事を言ったんですけどね、やはり身分てのがあるせいですかね、


「そんな普通の男性が姫様と婚約なんてできる訳ありません! まさかあなた様は凄い人では!」


なんて、長老が言って来ますから、もうですねー、また又々説明をしましたよ。今度はゆっくりと丁寧に。


「はあー、そうですかー」


て、漸く納得してくれましたよ。

で、僕達が今回、この村に来た件を話そうとした時、僕らの背後から、


「カイト!」


と、子供の叫ぶ声が聞こえました。



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