第153話 平手打ち

巨大な口を開けたクレパスの上を飛ぶ4WD車。僕はスキル【瞬間移動】を使った。

消える4WD車。そして、再び現れたのは上空500メートルの空の上。そこから下降する3トン越えの4WD車。


「見えた! 悪亜!」


上空に現れた4WD車を見つけ、叫ぶミリアに悪亜は慎重な面持ちで、


「まだよ! タイミングが悪ければ光達を助けられない!メイル、あなたもタイミングを間違わないで!」


悪亜がメイルに言うと、メイルは強張った表情をして、うんと頷きます。助手席に乗っているイレイがメイルに、


「あなたなら大丈夫!必ず出来るわ! 私より運動神経いいんですもの!」


「イレイ‥‥‥」


緊張し震えるメイルの手を、優しく重ねるイレイの手。


「大丈夫! メイルなら大丈夫!」


「う、うん! イレイ!」


‥‥‥今から悪亜達がすること、それは、

悪亜の4WD車のフロントウインチのフックを、僕の4WD車のフロントの牽引フックに引っ掛け、4WD車で引っ張り、こちら側に僕の4WD車を引き寄せる。ただし、引っ張る角度が浅かったり、深かったりすると、僕の4WD車は地面に激突か、クレパスの下に真っ逆さまに落ちてしまう。フックは悪亜の念力で飛ばす。双眼鏡の中のランプが点灯したら合図をだすミリア、そして引っ張るタイミングをだすイレイに車を操作するメイル。全員の息が合わないと失敗してしまう。


双眼鏡を持つ手に力が入るミリア。

そして‥‥‥双眼鏡の中のランプが点灯。


「悪亜!」ミリアが叫ぶ。


「任せて! 」まるで物を投げる様な動作をする悪亜。と、同時に悪亜の念力で、鉄のローブに取り付けられたフックが、僕の4WD車の牽引フック目掛け飛んで行く。予めロープはウインチから巻きほどかれていた。


「ヒュルヒュルヒュル!」


『お願い足りて!』


ロープと僕の4WD車を交互に見ながら、悪亜は祈る。


「カッーン!」


僕の4WD車の牽引フックに、悪亜が投げたフックが引っ掛かる。それを見て思わずガッツポーズを取る悪亜とミリア。


「メイル、今よ!」


「わかってるわよ!」


イレイの掛け声で、あらかじめバックギアに入っている4WD車のアクセルを踏むメイル。

4WD車は勢いバックする。と、フロントウインチのモーターが唸りを上げローブを巻く。


「ウイン! ウイン! ウイン!」


ウインチのモーターの巻き上げと、4WD車の引っ張る力で、僕らの4WD車は勢いよく引っ張られる。中にいる僕らはシートに叩き疲れる。しかし助かる安心感からか、その苦痛は然程感じられなかった。


ただ、今は僕は4WD車のアクセルを踏めない。踏めばタイヤの空転の勢いで、空中に浮いている4WD車のバランスが崩れてしまう。


「まだ! まだ! まだ!」


徐々にイレイ達が居る方のクレパスの境目に近づく、僕の4WD車。


「まだ!まだ!‥‥‥いまだ!」


フロントタイヤが地面に当たると同時に、僕はアクセルを踏んだ。そして、四つのタイヤが地面を蹴るのを感覚で感じた僕は、アクセルを離し、ブレーキを踏んだ。


「ザアザアザアザアーーッ!」


4WD車は止まった。


僕らの後方からせまって来た、火砕流はクレパスに吸い込まれるように下へと落ちていく。


「た、助かったーっ」


僕はシートにもたれ、安堵の溜息をつく。

後ろの二人はいったい何が起きたのか、いまだに理解が追いつかないらしく、お互いを抱きしめ合いながら固まっていた。

まあ、いきなりの車で、しかもこんな曲芸まがいの事までさせられてわねぇ〜。

で、チーとマーは‥‥‥あっ!こちらもガクブルでふるえてますね。


無事にイレイ達の前に着いた、僕の4WD車。張り詰めた空気が一気に解放されたように、イレイ達は4WD車に駈寄る。


「光!」「「光様!」」


涙を流しながら駆け寄ってくる姿を見た僕も、自然と涙が流れた。そして、直ぐにドアを開け外に‥‥‥


が、僕の姿を見た彼女達は


「光様‥いったい何が‥‥」


歓喜に駆け寄る彼女達の顔は、一瞬にして心配な顔色へと変わった。


悪亜が


「光、その左腕は‥」


「えっ? ああ! 大丈夫だよ。今はスキルが使えないからこんな風にだけど‥」


僕は彼女達が心配そうな顔で言うので、笑顔を作り安心させる。

しかし、イレイだけが僕を見つめ、立ち止まっている。すると急に駆け寄ってくる。僕はイレイが抱きついてくるかと、右腕を広げ待つと、


「パァーン!」


僕の左頬に、イレイの右手の平手打ちが。

僕は唖然とした。いきなり平手打ちを食らったからではなく、イレイが涙を流しにらめつけ怒っていたから。


「光! あなたはどうして‥‥いつも、いつも、無茶をするの?」


「えっ?」


「あなたはいいかもしれない! ‥けど、あなたを待つ私‥私達の事を考えて!もう、あなただけの光なのではないのよ!」


イレイはそう言うと、僕の胸に顔を埋めて泣いた。


その泣く姿のイレイを見て僕は、

どれだけ彼女達に心配かけさせたんだ。

どれだけ彼女達に不安をかけさせたんだ。

どれだけ彼女達に涙を流せさせたんだ。

どれだけ‥どれだけ‥‥‥


「イレイ‥‥ごめん‥なさい」


僕はイレイに謝った。いや、みんなに謝った。


「光‥‥そう思うなら無茶はしないで‥」


イレイの言葉に僕は頷くことしか出来なかった。そして、イレイがそっと僕の頬に両手を添えると、僕の顔を優しく引き寄せる。


そして‥‥‥重なり合うイレイと僕の唇。


周りにいたみんなは、最初何が起きたかわからなかったが、


「「「「‥‥‥アーーーーーッ!!」」」」


「イレイ!」メイル。


「抜け駆けは!」ミリア


「今回は私なければ!」悪亜


「光!」マー


「「「「私もーー!!」」」」


皆さん(イレイ以外)は僕に飛び付いて来ましたよ。ヒキガエルの様に押しつぶされる僕。これって喜んでいい場面ですか?


これが本当の愛が重い、て、やつですか!



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