第149話 パイクスピーク

火砕流に飲み込まれた4WD車。

それは悪亜が見ていた双眼鏡からでも確認できた。


「光!」叫ぶ悪亜に横にいたイレイが


「どうしたの?悪亜!」


「光の4WD車があの煙の中に消えた‥‥」


「嘘! ねえ、悪亜! 光は無事よね! 無事よね!」


イレイは悪亜の肩を掴むと悪亜を揺さぶりながら涙声で叫びます。悪亜は元悪魔。火砕流の怖さは知っている。が、ここでそれを言うと、この娘達は走ってでもあの火山に向かうだろうと思った悪亜は、


「大丈夫! 光は必ず帰ってくるから!」


その言葉に少し安心したのかイレイはまた火山の方を向くと、一心不乱に祈った。


「光! 無事で、無事に帰って来て!」


と。

その姿にやはり本当の事が言えない悪亜。

そのやるせない気持ちをグッと堪えると、


「本当に‥光‥無事に帰って来て」


祈る悪亜。

その時、後ろの4WD車からアイが悪亜を呼ぶ。


「アクア、コチラニキテクダサイ」


4WD車に来た悪亜。そして今から起こる事を、500年前の僕からのメッセージが伝えられ、


「それ本当なの!」


と。




◇◇◇◇




「進め! 進め! 頼むから進んでくれ!」


僕の叫びは虚しく、4WD車は徐々にスピードを落としていく。

アイは今だに「エマージェンシーモード」とコールするのみ。

僕はハンドルを強く握ると、


「壊れた? ダメだったのか!」


チーも結界はあと少しは持つと言っているが、どこまで持つか分からないと‥‥。

僕はこのまま死ぬのかと、心の中で恐怖を感じていた。そして僕はみんなに、


「みんな、ごめん。僕のせいで」


と。その声はまるで信じていた人に裏切られた様な、そんな感じの声。

するとチーが、目を閉じて祈るポーズをとりながら、


「光は以前、僕にこの4WD車は光の両親が作った物と言っていたよね」


僕は軽く頷くとチーが、


「だったら信じないと。この4WD車を信じないと。何より君が育てた‥‥‥うんうん、光の妹、アイを信じないと」


チーの言葉に、僕はなにを言っているんだと感じた。

そうだ!アイを信じないと! なによりこの4WD車を信じないと。


「ありがとう、チー」


僕は一言そう言うと、ハンドルを握りなおした。


そして4WD車が時速60キロを切った時、


「ガックン!」


「な、なんだ⁈」


いきなり前のめりする様な衝撃が4WD車に。

そして、


「モードチェンジ!」


「なあ? モードチェンジ?」


アイが言うと僕の周りがまるで地中に潜っていく様な感じがした。いや、これは4WD車の車高が低くなっていっている。

するとフロントモニターの画面が4WD車の図の画面に切り替わった。


「いったい何が起きているんだ!」


僕は周りを見渡すと運転席前のタイヤがまるで、飛び出てくる様にゆっくりと出てきた。

僕はモニターを見ると、4WD車の図のタイヤが4本とも外に出て行く。そう、それはまるでアニメのロボットが変形していく感じだ。モニターの図のタイヤが全て車体から出揃う図になると、今度は、


「なあ、シートが沈む」


シートがゆっくりと沈み出した。つまり普通のシートからレカロシートの様に深いシートになって行く。もちろん後部座席のシートも。


「光! これはいったい!」


クラウドがエミリを抱きしめながら驚く。


「僕にもわからない!」


するとモニターの4WD車の図の後ろ側の一部が点滅。そして、


「フロント、リヤウイング、オープン!」


アイが言うと4WD車の前後の一部が「ガコン」と音と共に飛びだした。フロントウイングは、目の前のボンネットの前方部分の一部がせりあがったのがわかった。それがまるで翼をひろげるかの様に大きく広がり出した。


そして‥‥‥


「エンジンノリミッターヲカイホウ!」


「ガルルルウウウ‥‥キイイイイイーーーーン!!!」


エンジンの音が太い感じの音から、まるでターボを付けた、いや、そう! 飛行機のジェットエンジンのカン高い音になって行く。

それと同時に運転席の前のフロントパネルが


「フロントパネルのメーターの数字が増えていく‥‥」


スピードメーターの表示は240までしかなかったのが360まで、タコメーターは7000からのレッドゾーンが10000からになっていた。


「なんなんだよ!この数字は!360キロ!」


そして4WD車が変形?した姿は、僕からは確認取れない。しかし、たぶんあれだ! 山道を駆け上がる昔のパイクスピーク『別名 雲へ向かうレース』のモンスターマシンの様な姿になっているはず。そして、


アイが言う‥‥


「エマージェンシーモードハジュップン!コレヨリ、カウントダウンヲカイシシマス!」


「10分しかもたない⁈」


僕はそれを聞き、躊躇する事なく、アクセルを目一杯踏んだ。



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