第148話 飲み込まれた4WD車

僕の名を呼ぶ声。それは何処かで聞いた懐かしい声。


「おふ‥‥‥くろ?‥‥‥」


僕はそう思った。が、今はそんな考えも与えてくれる程、余裕がなかった。

右腕一つ、しかも4WD車はスピード限界の速度でこの舗装もされてない砂利道を突っ走っている。それに、噴石に、火砕流まで迫って来ているおまけ付きだ。


「光、よく聞きなさい! 貴方は今、窮地に立たされているはず」


「なぁ!」


何故わかる?何故わかるんだ、この状態が!


「急いでアイにこう言いなさい‥‥‥」


「な、なんだって?」


言葉の最後が噴石の落下の音で掻き消される。そして僕はもう一度聞き耳を立てる。ドライビングに支障がない程度に。ここから逃げるだけの余力を残して。


「アイに言いなさい‥‥‥」


「えっ⁈」


僕は最後の言葉を聞き、驚く。




◇◇◇◇




火山が爆発する五分前‥‥‥

火山からおよそ15キロ離れた開けた土地に、悪亜の黒の4WD車が停まっていた。

そして、悪亜達から火山の方角に500メートル先には、巨大なクレバスが、いや、もはや渓谷といってもおかしくはない程のクレバスが口を開けていた。


「アイ、本当にここでいいの?」


悪亜がアイに聞くと


「ハイ、ヒカリガシテイシタバショハココデス」


500年前の僕が、未来視で見た場所はここだと、アイが言います。


「けど、何故この様な場所で‥‥‥」


ミリアが不思議がる顔つきで話すと、メイルも、


「確かにそうですわね」


と、頷きます。


「けど‥‥私の光がここだとアイに残したのだから何かあるのでわ」


「私のおおお!光いいい!ですてえええ!!」


メイルとミリアが何か凄い目で悪亜を見ます。


「えっ! あっ! 500年前の光の事よ!(焦)」


悪亜は焦って、弁解します。まあ、確かに500年前の僕は(500年前の僕は今の僕ではないのですがね)悪亜の旦那で、しかも子供がいたんです。


「けど‥‥‥何故? この様な場所に‥‥」


イレイが火山の方を向きながら話すと

『あの山の何処かに光が‥‥』


するとその時地震が起きた。

そして少しして「ドカアーーーン」ともの凄い音と振動が伝わって来た。


「なあ、なに⁈」


「ちょっ、ちょっと! あれを見て!」


悪亜が驚くとメイルが火山の方に全員が目をやると火山が噴火をしていた。

この距離からでも分かる程の飛び交う噴石、立ち昇る灰色の煙、そして山を下り始めようとする灰色の煙も見えた。


「光はあそこに! 」


イレイが言うとその場に居た全員が「ハアッ!」と我に帰り、祈るポーズを取る。


「光様」手に力を入れて祈るメイル。


「光様」目を閉じて一心不乱に祈るミリア。


「光」イレイは火山の方を見て、手を組み祈り心の中で叫びます。『無事帰ってきて!』と。


悪亜は4WD車から双眼鏡を持ち出し、火山の方をくまなく見ると、しばらくして、


「見つけた! 光!」



◇◇◇◇



本当にその言葉通りなら‥‥


「たすかる!!」


僕は藁(わら)にもすがる思いで、その言葉をアイに言う。


‥‥‥‥‥‥


「光、アイに言いなさい」


「‥‥おふくろ」


「エマージェンシーモードと」


僕はアイに叫んだ。


「エマージェンシーモード!」


と。


「リョウカイ! エマージェンシーモードハツドウシマス!」


すると4WD車が急にスピードダウンし出した。僕はアクセルを思いっきり踏むがスピードは落ちていく。


「ど、どうしたんだ!」


徐々に後ろから火砕流の煙が迫る!

そして‥‥‥

ついに‥‥‥

4WD車は火砕流に飲み込まれた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る