第123話 母の死

僕はこの幸せの時間が永遠に続くと思っていた。時にはエミリや母さんとも喧嘩したりもした。けど‥そんな時間も幸せだった‥‥‥

三年後、僕の母さんの病が悪化、そして‥‥‥


「母さん!」


急いでドアを開け、中に入ると医者が申し訳なさそうに立ちすくんでいた。

僕はそんな医者には目もくれず、母さんの元に。


「母さん! 僕だよ! クラウドだよ! エミリもすぐ側にいるよ!」


そう言うと僕は母さんの手を取る。


「‥‥‥クラウド‥‥なの?」


僕は母さんのその言葉を聞いて、はあっ!と気づく。目が見えてないのだと。そして医者を見ると、医者は横に首を振るのみ。


「そうだよ、母さん。僕だよ、クラウドだよ」


僕は母さんの右手を両手で握ると、母さんも握りかえすが、その力はほんの僅か。手で支えないと、直ぐにでも落ちてしまいそうな程の力。その時の僕は母さんと呼ぶことしか、言葉が浮かんでこなかった。


「クラウド‥‥‥お父さんは?‥‥‥」


「父さんは今‥‥‥こちらに向かっているから、直ぐにくるよ」


僕の父、クラウディ=デ=アウターは貴族だが、カルバディ帝国の軍の指揮官も務める優れた人材。そのクラウディは、ホクトリアとベルガーの境界の境目の内乱を収める指揮に当たっていた。その場所から今、早馬でこの屋敷に来るには半日はかかる。そう、僕は嘘を言ったのだ。母を安心させるために。


「そう‥‥‥クラウド‥‥‥お父さんを‥‥‥責めないでね」


「そんな事はどうでもいいよ。今は喋らないで」


涙ぐむ僕にエミリアは首を横に振ります。そして、


「エミリ‥そこに‥いる?」


『エミリア! いるわよ!』


光の玉は、エミリアの顔の近くまで行くと、そこで静止した。そして‥‥‥そのエミリの言葉は、強くハッキリとした言葉。けど‥微かに泣いているのがわかる言葉。


「三年前の約束‥‥‥覚えて‥‥‥る」


『三年前の約束‥‥‥』


「クラウドのお姉さん」


『はあっ!‥‥‥覚えているわよ! エミリア! クラウドの事‥』


「よかった‥‥‥お願い‥‥‥ね」


『まかせて! だからエミリア、元気出して!』


エミリアはニコリと笑顔を見せます。けど、その笑顔はまるで‥‥‥まるで‥‥‥最後の笑顔の様に‥‥‥。


「クラウド‥お姉さんの‥‥事を聞いて‥‥」


「わかったよ! 母さん! だから、だから元気出して!」


僕は叫ぶが、既に母、エミリアの耳には届いてなかった。


「あの人の声、笑顔、抱きしめて‥‥‥ほしかっ‥た‥‥‥クラウド‥‥‥お母さん‥‥少し‥‥ね‥む‥る‥ね‥‥‥」


「うん‥‥‥」


エミリアはまるで、誰かに会っていた様な笑顔を見せて‥‥‥


「‥‥‥母さん‥‥母さん‥‥ねぇ‥嘘だろ‥‥ねぇ、起きてよ!起きてよ!」


僕は叫ぶ。そして僕は母さんを両手で揺さぶる。が、母、エミリアは目を覚まさない。

僕は医者を見ると、医者はエミリアの左手首に手を添えると、首を横に振る。


「申し訳ありません‥‥‥」


沈んだ様な声で下を向く医者。それを見た僕は、母の右手を持ち、


「嘘だ! 母さんが!‥‥‥母さんが!‥だってまだ、こんなに温かいんだよ!こんなに手に温もりが伝わってくるんだよ!」


僕は母をまた揺さぶります。だが、幾ら揺さぶっても、起きません。周りにいたメイド達も下を向いて泣いています。


「母さん‥‥‥嘘だ‥‥嘘だあ!」


僕は叫ぶと、部屋を飛び出した。


『クラウド!』


それを見ていたエミリは、クラウドを直ぐに追いかけた。

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