第121話 クラウドの妖精付きになった日

蔵の床に落ちた光る物体に、手を伸ばした次の瞬間、クラウドの頭の中に何かが走った。


「えっ⁈ 何?」


ピタッと止まるクラウドの手。光る物体に触ろうとする僅か1センチ手前で。

クラウドは空いていた左手を、自分の頭に乗せる。そして、頭の中を走ったのが、誰かの言葉だと理解するのに、僅かな時間しか掛からなかった‥‥‥。


「‥‥‥誰?」


『‥‥‥たす‥け‥て‥‥‥』


「助けて?‥‥‥誰だ!」


『お願‥‥い‥‥たすけ‥て‥‥』


クラウドの頭の中に語りかけた言葉、助けを求める言葉だった。そして、クラウドは光る物体に手を置き握った瞬間、


サアアアッーーー!


頭の中にまたも何かが走った。そして、今度はハッキリと聞こえた。


『お願い、助けて』


と。


その言葉は、藁にもすがる思いの様に感じた。クラウドはいったい誰が?と思い、顔を上げた。すると赤い小さな雪の様な物が、目の前をチラチラとゆっくり落ちてきた。

クラウドはそれに手を伸ばすと、


「アツっ!」


手に熱い物が走る。「はあっ!」と、我に帰るクラウドは、自分の周りに赤い火の粉が、降りかかっているのに気づくと、天井を見た。既に天井は火に包まれて、今にも崩れ落ちそうになっていた。


「ヤバイ!!!」


クラウドはそう叫ぶと、右手に光る物体を握り、急いで外に出てた瞬間、


「ガラガラガラ!」


蔵は火に包まれながら崩れ落ちた。

その崩れる音に気づき、屋敷のメイド達が慌てて蔵の方に走ってきた。


「蔵が‥‥‥あっ! クラウド様、お怪我はないですか?」


「う、うん、大丈夫。ありがとう。けど‥‥‥母にあげる花が‥‥‥」


メイド達はクラウドが、蔵の山の方に行く事を知っていたので、先程の落雷が凄く、外を見ると蔵が燃えていたので慌ててきたみたいだ。そして僕が無事で、メイド達は全員胸を撫で下ろしていた。


「クラウド様、屋敷に戻りましょう」


「うん」


そう頷くとクラウドは、メイド達に付き添われながら屋敷へと戻った。


屋敷に戻ったクラウドは、先程の話を母親に聞かせた。


「そう、それは大変だったわね」


そう答えるクラウドの母親、エミリア。肌は色白で、髪は白銀。ストレートの髪は腰まではあるか。スラリとした体系。顔はやはりクラウドの母親だけあり美人だ。だが‥‥‥顔色だけは良くは無かった。

ベッドから上半身を起こし、優しい笑顔をクラウドに向けて話します。


「そうなんだよ。でね、母さん、その蔵でこれを拾ったんだ」


クラウドは蔵で拾った石の様な物と、光る物体を見せた。


「この光る物は、もしかして、妖精なのではないかしら」


「えっ! 妖精なの?」


「ええ、私も話だけは聞いていたけど、実物を見るのは初めてね」


「へえ〜、これ、妖精なんだ」


「後のこの石は‥‥‥」


そう言うと、エミリアの顔色が変わった。容態が悪くなったのではなく、とても恐ろしいものを見る様な目で。


「クラウド! あなたこれをどこで!」


少し怒鳴る様に言って来たので、クラウドは一瞬、驚く。


「か、母さん? いったいどうしたの?」


「クラウド! この石を私に渡しなさい!」


「う、うん。それはいいけど、なんなのこれは?」


「今は知らない方がいいわ。お願い、クラウド」


エミリアはその後、この石について何も語らなかった。クラウドは自分の部屋に戻ると、先程の母親に渡した石について調べたが‥‥‥何も分からなかった。


「なんだったんだろう、あの綺麗な石は?、まあ、いいか。これが妖精だと分かっただけでも」


クラウドが光る物体に手をかざすと、また、頭の中に何かが‥‥‥


『ありがとう。助けてくれて』


「あっ! 気がついたんだね。にしても妖精だったなんてね」


クラウドは光る物体を見つめると、そう答えます。そして妖精はクラウドに言います。


『あなたは私の言葉がわかる様ですね。それに私を助けてもくれた』


「えっ? あっ、いいんだよ」


照れながら言うクラウドに、妖精は


「あなたは、私の主人になるに相応しい人です」


「えっ? 主人?」


「はい、ですので、私と契りを結んでください」


「はい? 契り? て、お前と結婚でもするのか?」


更に驚くクラウド。


「いえ、結婚ではありません。妖精付きになるのです」


「妖精付き‥‥‥」


「はい」


そして、火の妖精は、この日からクラウドの妖精付きになった。

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