第16話 蛇の正体
楓さんとそのお母さんも見たらしくお母さんの方は手を口に当てて泣きながら地面にしゃがみこんだ。
楓さんはその光景を飲み込めていないらしくただただ呆然と突っ立っていた。
しばらくして刑事さんがやって来て西園寺さんが亡くなったことを伝えた。
ただ戸崎はまだ見つかっていないという。
それからまた新たに車がやって来て海沿いの方に向かっていった。
そのさらにまた1時間後にはテレビのスーパーで西園寺さんの死去が報じられ、その後の昼のワイドショーではどこも西園寺さんの話で持ちきりだった。
そして昼食を軽く済ませようとした時、竜千秋から電話が掛かってきた。
僕は人気のないところに場所を移動して電話を取った。
「もしもし、どうした?」
「お前、早く逃げた方がいい。」
感情的になっている竜千秋を珍しく思っているとワイドショーの司会者が速報ですと言って一瞬カメラから視線を外して
「…行方不明の戸崎さんが乗っていたとされる白い車の後方部分が見つからなかったのですが先ほど後方部分がひどく損傷してバラバラになって発見されました。」
と言った。
「バラバラになって損壊…。」
僕はその時初めてこれが蛇模様のある犯行を疑った。
戸崎が乗っている車のトランクに爆弾を入れて事故に見せかけて爆発を行ったのではないかと。
「もしかして…例の蛇模様のやつか?」
「そんなのどうでもいい。ネットで事件を見てみろ。」
言われるがままに検索すると僕の今までの闇と竜千秋との関わりが白日の下に晒されていた。
「何だこれ…。」
「とにかく早く逃げた方がいい。このままだとお前危ない。」
確かにあの刑事の取り調べの僕に対する威圧的な態度といい僕に置かれている不利な立場というものは相当なものだと自覚した。
そして蛇模様の犯行か分からないがその犯人が僕に仕組んだ罠かもしれないというのが分かった。
確かに今は逃げた方がいいかもしれない。
逃げたら重要参考人として世間に晒されるのも時間の問題だがそれより僕が逮捕されるタイムリミットの方が迫っていた。
僕は千秋との電話を切り、警察が戸崎の捜索で周囲に居なくなった隙に父にコンビニで何か買ってくると口実をつけて車を借りその場から逃げ出した。
僕はとにかく西に西に車を走らせた。
その間ラジオを着けて事件の進展を漏れがないように常に耳を立てていた。
車を走らせて30分ぐらいした時、相澤さんから電話が掛かってきた。
僕は適当な場所に車を一旦駐車させ電話を取った。
「もしもし、朝日君。」
「相澤さん。どうしたんですか?」
「蛇の正体が分かった。」
「本当ですか?誰なんですか?」
「神楽 慶介。」
僕はその名前を聞いてもピンとこなかった。
「誰なんですか?それ。」
「西園寺の敵対関係にあった神楽 七春の一人息子よ。」
僕はその時仁志さんの話が脳に蘇ってきた。
「それって僕の父が事故としてもみ消した…。」
「そうよ。仁志さんから聞いたの。今から18年前、その頃サミットの開催間近で日本で開かれることになっていた。そのサミットで茶の作法を伝えるために1人の茶道家を連れて行きたいということで西園寺と神楽が有力候補に挙がっていた。でそのサミットの2週間前には連絡がつくことになっていたの。」
「どうなったんですか?」
「五十嵐が選ばれた。それでイケメンということで女性ファンが急増したの。だけど五十嵐は既婚者で5歳になる1人息子もいた。そんな時、その週末に五十嵐一家がドライブに行った時交通事故を起こしてしまった。運転していた五十嵐さんは亡くなり、またその交通事故で巻き込まれた親子は娘の方が亡くなってその母親にはお腹の中にもう1人子供もいたけどその子供も流産してしまった。五十嵐の奥さんはマスコミに大きく叩かれてね。ビラや嫌がらせ、迷惑電話もひどかったそうよ。それで結局その奥さん自殺して…。息子さんだけが残った。息子さんは結局親戚が引き取るのを断られて児童養護施設に預けられることになった。で今から引き取られた親元を探そうと思ってね。」
「分かったんですか?親元。」
「ええ。分かってる。村里さんっていう人。」
「でもどうして仁志さんは分かったんですか?」
「仁志さんがその時息子さんを児童養護施設に連れて行ったらしいの。だから覚えてたって。」
「そうですか。でも今の話だと西園寺さんがもみ消したっていうのがよく分からないんですが…。」
「ブレーキのワイヤーが外されていたらしいの。」
「外されていた?」
「うん。新車で買ったばかりのものだったからワイヤーが外れるということは早々にない。で仁志さんは敵対関係の西園寺さんに問い詰めようとしたらあなたのお父さんにアリバイがあると言って止められて。それから後で捜査資料を見て仁志さんは不自然な点を見つけてあなたのお父さんに問い詰めたら土下座して頼むから黙っててくれだって。で結局言えなかったらしい。…ねえ、朝日君。」
「何ですか?」
「さっき千秋ちゃんから聞いたんだけど…ネット上であなたと千秋ちゃんのことが晒されてるって。」
「…じゃあ今逃げてることも…。」
「…うん、聞いてる。多分このままだとあなたは重要参考人として指名手配されると思う。」
「分かってます。でもこのまま逃げなかったら犯人として逮捕されると思います。」
「そうね。何としてもあなたが重要参考人として顔出しされたり捕まる前に私が絶対犯人を捕まえるから。」
そう言って相澤さんは電話を切った。
僕も覚悟を決めてスマホの電源を切り、それから2日間岐阜や長野県や中部地方の盆地らへんを転々と移動した。
その間身元がバレるのを恐れて車内泊を続けていた。
もう既に警察は僕を重要参考人として行方を追っていることが報道されていた。
2日目は朝から豪雨で戸崎の捜索を断念することも伝えられていた。
恐らく戸崎は死んだんだろうと思う。
もうとっくに太平洋に流されてその遺体はその辺をさまよっているんじゃないかって。
そんな時、後部座席から着信音が鳴った。
僕はその着信音で心臓が止まりそうになった。
恐る恐る後部座席に移動してスマホを確認すると父さんのものではなかった。
そして着信相手は誰か分からなかった。
僕は恐る恐るスマホを手に取り電話に出るか躊躇したが、蛇模様からの電話かもしれないと思い電話に出た。
「…もしもし。」
僕の声を聞く度、その電話口の相手は機械音じみた変な笑い声を立てた。
その声は恐らく変声機を使っているのだろう。
「もう分かってる。お前は神楽 慶介だよな?」
その電話口の相手は奇妙な笑い声を立てるのはやめた。
「確かに昔の名前はそうだったなあ。ねえ戸崎君生きてると思う?」
僕はその質問には答えなかった。
「戸崎君の声…聞きたい?」
そう男が言うと
「あ…さ…ひ…。」
と擦れるような声が聞こえてきた。
「もしかして…戸崎か?」
「あ…あ…。」
「はい、終了。戸崎君を助けたいのなら石廊崎に早く来てね。勿論警察にも連絡しないように。それじゃあ。」
そしてその男は電話を切った。
「戸崎は生きてるのか…。」
戸崎の無事を確認できたのは嬉しいと思った反面、戸崎を救わないといけないという使命感も生まれた。
僕はなるべく車を早く走らせ石廊崎に急いで向かった。
しかし6時間半ぐらいかかってしまった。
急いで石廊崎に着くと崖ぎりぎりの場所に戸崎らしい後ろ姿の男性が立っていた。
「もしかして…戸崎か?」
そう僕が問いかけるとゆっくり振り向いた。
やはり戸崎だった。
「よかった。無事だったんだな。」
次の瞬間、戸崎は僕に銃口を向けた。
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