第13話 黒幕の正体

その翌日高木の事件について調べていると高木の意識が回復したという一報が入った。


すぐさま病院に向かうと病室には高木の母と妹が高木が眠っているベッドを取り囲んでいた。


高木は全身が包帯をぐるぐる巻きにされていて目だけが辛うじて見える状態だった。


高木は僕のことを憎いのか相澤さんに目を向けず僕の方をずっと見つめている。


「ちょっと高木と話をしたいんですが宜しいですか?」


「それが…。」


妹さんは少し話すのに詰まった。


「意識はあるんですけど喉が炎症していてまだ話せる状態じゃ…。」


「そうですか。」


「じゃあこれだと話せそうにないわね。朝日君、帰りましょう。」


僕達は諦めかけて帰ろうとしかけたその時、高木は固定された右腕でベッドの鉄の部分を叩いて鈍い音を出した。


「こら、やめなさい。昂汰。」


「そうよ。お兄ちゃんやめて。」


お母さんと妹さんが必死に高木の体を押さえつけようとしたが、高木はなかなか言うことを聞かなかった。


僕たちも高木の体を押さえつけようとすると高木は身体を動かすのをやめた。


「私たちがいた方がいいのかしら。」


「ずっとお兄ちゃんが男の刑事さんの方を見てる。」


「もしかして高木刑事は何かあなたに伝えたいんじゃないかしら。」


伝えたいにしろ高木と話す方法なんて…。


いや一つだけある。


主にこれはアメリカで意識の確認とかで判別するための方法なんだが今の高木にとっては最適な方法だった。


「高木、伝えたいことがあるんだよな。YESなら2回、NOなら1回瞬きしてくれ。」


高木は1回目と2回目を少し間を置いて2回しっかりと瞬きをした。


どうやら僕の声は聞こえてるらしかった。


「相澤さん、50音図を持ってきてくれませんか?」


「分かったわ。」


相澤さんは病室を出て行った。


しばらくして手に納まるぐらいの分厚い本を持って帰ってきた。


「はい、朝日君。」


相澤さんが手渡したのは音声付きのもので童謡を勉強するものだった。


「あの、相澤さん。」


「後ろのページをめくって。」


後ろのページの厚紙には50音表が書いてあった。


「ああ、すみません。ありましたね。じゃあ高木、今から順番に僕がひらがなを指していく。まずあ~わに横に指して行くからその時その行に伝えたい文字がある時は2回瞬きしてくれ。今度は下に指して行くから。例えば…『そら』を伝えたいときは『さ』で2回瞬きして次に下に行くから『そ』で2回瞬きしていく形で。『ら』も一緒。『ら』を押さえた時に2回瞬きしてまた2回瞬きする。間違いのないようスピードはかなりゆっくりにするから。分かったら2回瞬きしてくれ。」


高木は2回瞬きした。


「妹さんたち一回席を外してくれませんか?」


「分かりました。」


僕は母と妹が病室を出て行くのを見届けた後、咳払いして始める合図をした。


「じゃあ今から順番に押さえて行く。お前が伝えたい文字をちゃんと目で捉えてくれ。」


僕はかなりゆっくりと一定のテンポを刻んでこの厚紙に指をはじくようにした。


高木は『や』で2回瞬きした時に少しためらいとも取れる間はあったもののそれ以外は順調にちゃんと瞬きをした。


浮かび上がったのは「とうちようき」だった。


「とうちようき?」


「盗聴器じゃない?」


高木は2回瞬きをした。


「でもどこに?」


僕はもう一度高木に50音順を瞬きで会話するよう頼んだ。


高木は2回瞬きして50音順に目を向けた。


次に浮かび上がったのは「ねくたい」だった。


「ネクタイって…僕のか?」


高木は2回瞬きした。


「じゃあ朝日君のネクタイに盗聴器が仕掛けられてたってこと?」


高木は再び2回瞬きをした。


「でも一体誰が…朝日君のネクタイに盗聴器何か…。」


「月島さんだろ。」


高木は2回瞬きをした。


「知ってたの?朝日君。」


「何となく。昨日飲みに行ったんだ。その時に何か様子がおかしかったから。もしかしてとは思った。でもまあ信じたくはなかったけど。」


その時病室に着信音が鳴り響いた。


「あ、ごめん。僕の携帯が鳴ってる。」


病室を出てスマホの画面を見た時、一瞬時の流れが止まったかのような錯覚を覚えた。


そして一旦高鳴る胸の鼓動を落ち着かせてスマホに出た。


「…もしもし。」


「もしもし。朝日君。今どこにいる?」


「今…警視庁に居ます。」


僕は嘘をついた。


「そう。」


月島さんはなぜか一旦間を空けてこれ以上の反応を見せなかった。


「今から会えるかい?」


「どこですか?」


「白神病院で。」


「…どうして白神病院なんですか?」


その質問には月島さんは答えなかった。


「来てくれるよね?」


月島さんのこんな高圧的な言い方は初めてだった。


「…分かりました。行きます。」


僕は相澤さんに車の鍵を借りるためにもう一度病室に戻った。


「相澤さん、車の鍵を貸してくれませんか?」


「白神病院に行くの?」


「さっきの会話聞いてたんですか?」


「正確に言うと聞こえてたんだけどね。本当に行くの?」


「…はい。」


相澤は朝日を心配そうな目で見つめた。


「真実を知りたいんです。どうして月島さんがこんなことをしたのか。僕にはどうしても何か訳があるんじゃないかって。」


相澤さんはしばらく頭を抱えた。


「分かった。だけど私も一緒に行く。万が一朝日君に不幸があった時に証言台が居なかったら困るでしょ。」




そうして僕たちは急いで車に乗り込み白神病院へと向かった。


15分ぐらいして白神病院の跡地に着いた。


久しぶりに来たが柱の黒焦げた感じはやはり自分の中で鮮明に覚えていた。


柱を触ると炭が指先にへばりついた。


そっと息を吹きかけ指先についた炭を吹き飛ばし月島さんを探した。


「月島さん。」


呼んでも返事はなく僕の声は共鳴していた。


しばらくすると背を向けて顔は見えないが柱の近くでスーツを着た男性がしゃがみこんでいた。


「月島さん?」


その男性はゆっくり立ち上がり振り向いた。


やはり月島さんだった。


「やあ朝日君。待ってたよ。それに…女の人も一緒みたいで。」


「来ない方がよかったですか?」


「いや…どちらでも。」


月島さんのスーツの方を見るとやけに膨らんでいた。


「どうしたんですか?スーツ。」


月島さんはスーツのボタンを外した。


「何ですか?これ………。」


朝日は自分が今目にしているものに思わず絶句した。


「見て分かるだろ?爆弾だよ。」


月島さんは腰回りに爆弾を巻いていてその先端に繋がった手動型のスイッチを握っていた。


「朝日君、離れて。」


そう言われて朝日は数歩後退した。


「外してください。外してください!!月島さん。」


「朝日君。僕はもう永くないんだ。」


月島さんはそう言って咳き込んだ。


「僕はもう助からないんだ。そう医者に言われた。」


「でもこんな真似をする必要はないじゃないですか!!」


「やる遂げなきゃならないんだよ!!」


月島さんの声はしばらく共鳴していた。


「まさか…今回の爆発テロ全部警視総監がやったんですか?」


「ああ、動いてはないが人手を使って指示したのは私だ。高木巡査の時と同じように。ただ中国とロシアは失敗したけどな。」


「お前が彩花を殺したのか…。」


「彩花?」


「僕の彼女だ。アメリカの爆発テロで不運にも巻き込まれて亡くなった。すごく気の遣える優しい子で将来結婚も考えてた。それだけじゃない。お前はたくさんの家族を死なせたんだぞ。」


「すまない…。」


「すまない?すまないで済む問題じゃないんですよ。ちゃんと説明してくださいよ。どうして…どうして彩花を…。」


「…18年前のことをもう1度思い出してもらうためだよ。」


「18年前?」


「私が日向の隠れ信者だ。日向のことをもう一度思い出してもらうために今回の犯行を行った。ただ18年前の爆発テロには何も手を下していない。」


「本当ですか?」


「この期に及んで嘘はつかない。それと朝日君に謝らないといけないことがあるんだ。」


そう言うと月島さんは深々と頭を下げて


「僕が…君のお父さんを殺した。」


と声を震わせながら言った。


「道理で捜査資料の一部が破られていたのね。」


「…どういうことですか?」


「目撃証言の所が一部なくなっていたのよ。」


「ああ、正解だ。私に対する不利な証拠が詰まっていたからな。」


「じゃあ僕の…育ての父がやったんじゃないんですか?」


「…ああ。」


「…どうして父も殺したんですか?」


「…君のお父さんにバレたんだ。日向と通じていることがね。だから殺したんだ。」


「それだけで父を殺したんですか?」


「私にとってはそれだけじゃないんだ。」


お父さんと彩花を殺してるのに今までのうのうと生きてきた月島さんに殺意を感じたが、何とか自分の怒りを押し殺そうとした。


「じゃあ…どうして父は庇ったんですか?」


「庇ったんじゃない。諦めたんだ。誰も東宮さんのこと信用してくれなくてね。当時君の育てのお父さんと産みのお父さんはひどく敵対してて。だから私が上手い具合に着せてやったのさ。そしたら上手いことみんな勘違いしてくれて。君の育てのお父さんは本当に気の毒だったよ。」


朝日はその言葉を聞いて月島の顔面を殴りかかろうとした。


「うおおおおお。」


「やめなさい。朝日君。」


相澤は朝日の殴りかかろうとした方の腕をしっかりと捕まえた。


「今感情的になっている場合?まず目の前の問題から解決しないと。」


月島さんは腕時計の時刻を見てにやりとした。


「もう時間だ。朝日君。最後に私から朝日君に頼みたいことがあるんだ。」


月島はスマホを床に滑らせて朝日はゆっくりとそのスマホを拾った。


「千秋は今ホテルの一室にいる。後で向かいに行ってほしい。それと娘と妻に伝えてくれ、最期まで迷惑を懸けてすまないと。」


月島さんはそう言って涙を流し僕から離れてスイッチを押した。


朝日は咄嗟に風と共に目の前から吹き寄せられてくる炎を袖で遮り相澤に手を引っ張られてそこから意識を失った。

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