第一章 眠りが覚めたら

第1話『招待』

「え、これ本当に貰っていいの?」


「うん。私には必要ない。ある人から、貴方宛に、と授かったものだから。さぁ、受け取って、睦月ひかる」


ひかるはうーん、と首を傾げ、

「でも…それって本当に私なの?同性同名だっているだろうし…」


と問うた。だが、目の前で、ベンチに腰掛ける少女はゆっくりと首を振る。


「ううん。確実にあなた。じゃあ、証拠言う。母はあかり、父親はみのる、妹は月光つきひの四人家族。白い壁に茶色の屋根の一軒家を住居としている。あと、友達にバレないように、クローゼットに仕舞ってある服用の引き出しを二重構造に改造して、ラノベと漫画を大量に収──」


「あああああああああああああああああっ!?」


あまりにも正確かつプライベートな情報爆弾を放ち続ける少女の声を打ち消すように大きな叫び声をあげた。誰も知らないはずのラノベと漫画の隠し場所を知ってるなんておかしい、と、一体この子は何者なのか、と多くの疑問が浮かぶも、どうすればいいか分からない。


「ね、私、言った。情報は図星のよう。さ、受け取って。早く」


と、少女が手を差し出す。


「う、うん…」


よく分からないが、ひかるは少女の小さな手に乗ったペンダントに手を伸ばし、受け取る。


「私の任務は終了。じゃあ撤収」


と言って、少女は勢いよくベンチから立ち上がって、歩きだした。だが、あ、と言って振り返って、

「──私を、見つけて」


そう言って立ち去って言った。


ひかるは、まだ頭が混乱していて、しばらくの間、呆然と立ち尽くしていた。




今日は祝日なので、と、朝からひたすらラノベや漫画を読みあさり、ゴロゴロしていた。肩や目の疲れをとるべく、近所の公園に来たのだった。そしてさっきのことに至った。


ひかるは、先の出来事を頭の中で繰り返し再生する。

このペンダントは何なのか。

あの子は誰で何者なのか。

何故私の事を知ってるのか。

最後の言葉は一体何なのか。

いくつもの疑問が浮かぶも、知るよしも無いし、と、とりあえず家に帰ることにした。気がつくと辺りはすっかり暗くなっていた。


▲△▲△


「ただいま~」


「あらお帰り」


と母の声がかかる。


「遅かったわねぇ。何かあったの?」


教えるべきかどうか少し悩んだが、一応報告しておこう、と口をひらいた。


「うん。何かね、暇つぶしに公園に行ったら、このペンダントを貰ったの」


ひかるは、さっき貰った月型のペンダントを

ポケットから出して差し出す。

すると、ひかるの母、灯は少し驚いた顔をした後、どこか寂しげな顔をみせた。そっか、と呟いて。


「ねぇ、ひかる」


「?何?」


「母さん、ひかるの役に立てたかな。後悔はいっぱいできちゃったわ。もう、やっぱ駄目だなー。忘れてくれたのかと思ったのに。きっちりしてるわ…。招待状ってことなのかもね…。ごめんね、ひかる」


灯の頬を輝くものがつたった。


「どういうこと…?」


「これだけは忘れないで。──母さんはひかるを愛してるから。大好きだから。ひかるにたくさんのものを貰えてすっごく幸せだった。ありがとう」


「何で過去形なの…?」


「──さぁ、行って。本当にごめんね突然で意味分かんないよねでもいずれ分かるときがくるわ。あなたならきっと乗り越えられるから」


「え、何、やめてよー。まるでお別れもう会えないみたいじゃん──ッ!?」


灯はひかるを抱きしめた。やわらかい抱擁がひかるを包む。ふわっとした暖かい母の匂い。伝わってくる温度。何故このような状況になっているのかひかるには理解出来なかったが、そのすべてが心地よかった。

少しして、灯がひかるを放すと、

突然ごめんね…、と言って、キッチンへ立ち去って行った。


「意味分かんない…」


ひかるは自室への階段を昇りながら呟いた。


そして、ドアを開く──と、同時にあり得ないくらいの眠気がひかるを襲った。頭がクラクラする。瞼をなかなか開けれない。手足の力が抜けて、立っていられなくなり、その場に倒れこむ。睡魔に、負ける。

──ひかるが眠ったとき、その手には月型のペンダントがしっかりと握られていた。


月下、窓から差し込む光がひかるを照らした。















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