#7
「よう」
聞いた声が登校中の立夢を呼び止める。
声の主を探して視線をさまよわせると、猿渡が公園の入り口に立っているのを見つけた。
「おはようございます」
「おう、おはようさん。で、どうだった? 何か変化はあったか?」
「はい、おかげさまで」
立夢は鞄から御札を取り出して猿渡に渡す。
「うおっ、真っ黒じゃねえか……こいつぁもう護符としては使えねえな」
猿渡は墨に浸したように真っ黒になった御札を背広の内ポケットにしまう。
「朝起きたらびっくりしましたよ。貰った御札は真っ黒になってるわ、首にうっすらと手の跡付いてるわで」
特に、汗でぐっしょりとした体をシャワーで洗い流していると、背中に皮がめくれたような大きな傷跡ができていることに気が付いたときは一番驚いた。幸い、薄皮一枚めくれた程度で大した傷ではなかったので安心した。まだ少しヒリヒリするが。
「でも御札のおかげか、体の調子はすこぶる良くなりました。まさに憑き物が落ちたと言いますか。本当にありがとうございます」
深々とお辞儀をする立夢。しかし、対する猿渡の表情は晴れやかとは言いづらい。
「待った。もう全く不調はねえのか?」
「? はい、あくまで自分の体感ですけど」
「そうか……いや、何ともねえなら良いんだ。悪いな、不安になるようなこと言って」
「あ、いえ、全然大丈夫ですけど」
と反射的に言ったが、そんなこと言われるとやはり気になってしまう。
「ところで、そろそろ行かねえと不味いんじゃねえか?」
「え?」
立夢は猿渡の視線の先を見る。公園に設置してある時計の針が、始業時間にかなり近づいていた。
「あ、本当だ。すみません、これで失礼します」
もう一度頭を下げて、学校の方へ歩き出す立夢。一瞬よぎった不安はすでに鳴りを潜めていた。
「ああ。また何かあったら声かけてくれ、力になれるかもしんねえからな」
歩き出す立夢に猿渡はそう告げる。何もないのが一番良いのだが、もしその時がまた来たのなら再び頼りにさせてもらおうと立夢は思った。
「はい、今回は本当に、ありがとうございました」
去り際に立夢は猿渡に向かって大きく手を振る。それを見た猿渡は小さく手を上げ返して、あのぎこちない笑顔で立夢を見送った。
了
有楽島立夢の未体験 ジェネライト @Genelight
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