17-5 光の翼
グライズは己の信念に従って、勇者となった少年と戦い敗れた。
ストレッジもまた、己の信念を懸けた策を魔王の為に講じる。
なら私もそれに続こう、この戦いに全てを投じよう。
白銀の胸の装甲が展開し、魔力が集中していく。
「これが私の、四天の最後の戦い。我等の力をとくとその目に焼き付けろ!」
甲高い音と共に集まった光が拡散するように放たれ、地上の戦地を貫いた。
幾多の光が降り注ぎ、連合軍の兵士も化け物も光に焼かれていく。
「こんな攻撃……こんな、こんな事で……!」
降り注ぐ光をロンザリアが二本の大剣で受け止め、砕ければ腕で受け止め、自身を懸命に守る。
光の掃射が収まった頃には凄惨な攻撃の結果が残っていた。
攻撃を受けた兵士の半数は加護によって生き残ってはいるが、その殆どは立つ事も出来ない状態となっており。
ロンザリアの鎧兵もまた、胴体部分は何とか護りきったものの、両腕を失い半壊していた。
ミシミシと音を立てて再生を始める鎧兵の中で、ロンザリアは半泣きになりながら震えている。
勝てない、あたしじゃ勝てない。
逃げたい、逃げたい、逃げてしまいたい。
逃げてしまっても多分大勢には影響しない、エイミーはこれを相手しても耐える事は多分出来る。
それに全体への加護なんて事を止めてしまえば戦う事だって出来るはず。
逃げても……逃げても……
「くそぉっ!」
再生させた腕で、作り出した大剣を上空に立つ白銀の巨人へと投げつけるが、腰から引き抜き構えた砲にいとも簡単に撃ち落された。
それでもロンザリアは黒の鎧兵を立ち上がらせる。
逃げてたまるもんか……
鼻息荒く涙を噛み締め、震える手を我慢して鎧兵を操る。
無理はしなくて良いとは言われたけど、この場はお兄ちゃんから任された。
ちゃんとエイミーを守って、結果的に他の多くの人も救ったと褒めてもらいたい。
あたしだって役に立てるんだって見てもらいたい。
「空を飛ばれても出来る事はあるんだからね!」
大剣を投擲用の手持ち斧へと変化させる。
「エイミーの下には行かせない!」
幾つも斧を作り出しながら、がむしゃらに空飛ぶ巨人へと投げつけた。
エイミーは後方の本陣にて祈りを続けている。
軍全体の加護を行っているエイミーには状況が把握出来ていた、誰がどう死んでしまったのかさえも。
戦いが始まる前は、また誰も死なずに済めば良いと思っていたが、もうそんな甘い考えは出来ない。
それでも残る多くの人々を護る為にエイミーは祈り続ける。
祈る中で、戦場に大きな力が放たれ、多くの命が散ったのを感じ取った。
その死の感覚に体が崩れ落ちそうになるが、額に汗を滲ませながら立ち上がり、天幕から外へと出る。
遠く戦場の空に光り輝く白銀の巨人が居た。
「天使……」
その神々しさに、涼から教えて貰った種族の名前を呟いた。
しかし、直ぐに頭を振ってその考えを振り払う。
いえ、私が教えて貰ったものは、こんな破壊を行うようなものではありません。
光り輝く巨人は地上へと破壊の光を放ち続けている。
その攻撃を受けている場所にはロンザリアが居た。
助けに行きたい。
そう思うが、自分の役目を考えれば知り合いを優先して助けに行っていいのだろうか?
仮に助けに行って四天との戦闘になれば、全体への加護はどうしても弱くなってしまう。
なら、自分はこの場で祈る事に集中したほうが良いのではないだろうか?
ですが、あの四天は倒さないと……
「どうかしたかね?」
どうすれば良いのか判断に困っていると、連合軍の士官となっているバルレッタ司令のフレッドが気付き声を掛けてきた。
「あ、はいっ、えっと……」
突然話しかけられて声が跳ねてしまう。
「その、四天を倒しに行っても良いでしょうか?」
エイミーの言葉にフレッドが驚いた。
「出来るのか?四天を倒す事が」
そう聞かれると自身は正直無かった。しかし頷く。
「分った、では足を直ぐに確保しよう。少し待ってくれたまえ」
「あ、待ってください」
頷きに答えてすぐさま踵を返そうとするフレッドをエイミーが呼び止めた。
「私が戦っている間、加護はどうしても弱くなってしまうと思います。それは大丈夫でしょうか?」
「加護が弱まる」その言葉にフレッドが口元に手をやり考える。
「四天の打倒は優先してもらいたいが、それはどの程度弱まる?」
「多分、半分程度には……出来る限り戦いながらも加護は保てるように頑張りますが、規模が規模ですので……」
自分の力不足だと肩を落としてしまうエイミーに、フレッドが肩へと手を置いた。
「いや、君の働きは十分すぎる物だ、気に病む事はない。全軍へその事を通達しよう、なあに我々とて簡単には殺されはせんよ、必ずや君が戦っている間も持ちこたえて見せよう」
そう言ってフレッドがビシッと敬礼を取る。
「あれを放置していては大きな被害を出し、どの道ここへ攻め来るだろう、そうなる前にに四天打倒を君に任せる」
「はい、頑張ります!」
フレッドの言葉に顔を上げ、決意と共に答えた。
その後、戦地に向かう一番早い方法として、ケンタウロスの背に乗って行く事となった。
「では、お手を」
ケンタウロスに手を取ってもらい、背中へと乗せてもらう。
「あの、お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」
「はい、私はアントーンと言います。飛ばしますのでしっかりと掴まって下さい」
その言葉にエイミーがアントーンの人の背にしがみ付いた。
「ではアントーンさん、よろしくお願いします!」
エイミーの言葉に応え、馬より早くケンタウロスが駆け出した、
ロンザリアが空を行くフラウに必死に噛み付いている。
巨人が手に持つ砲から放たれる光を走り避けながら、斧を投げて投げて投げまくっていた。
空に弧を描き飛んでいく斧は避けられ、撃ち落され、切り払われ、巨人に当たる事はなかったが、注意を引くことには成功している。
撃たれ砕かれて転げ回りながらも、ロンザリアは死ぬ物狂いで食らい付いていた。
再生を続けて立ちはだかり続けるロンザリアを、フラウは無視をしても良かったのだが、勝てぬと分っていても立ち向かうロンザリアへと敬意を表して襲い掛かる。
投げられた斧を右手の剣で切り払い、左手の砲を撃ちながら黒の鎧兵へと急降下した。
速度を乗せた直剣の振り下ろしを、鎧兵が作り出した大剣を横に構え受け止める。
「良く止めた、だが!」
羽が光り、鎧兵では対応できぬ速さで回転して下に潜り込み、鎧兵の左腕を切り飛ばした。
「ぐっ……!」
腕を切られた鎧兵が左足を振り上げて巨人を蹴ろうとするも、華麗に避けられて逆にその足を両断される。
「まだっ!」
切られて後ろへと倒れこもうとする鎧兵が右腕に掴む大剣を振るうが、それも容易く切られ更に残る右足も打ち抜かれた。
「くそおおおおっ!!」
ロンザリアの悲鳴と共に鎧兵が崩れ落ち、それを白銀の巨人が見下ろし剣を構える。
最早逃げる手段すら無いロンザリアへと剣が振り下ろされようとした瞬間、光の大槍が巨人へと向かって放たれた。
「なに!?」
フラウが咄嗟に羽を光らせて上空へと避ける。
誰が放ったと目を向けたその先には、ケンタウロスから飛び降りて光の鎖を鎧兵へと伸ばし、そこへと自分の身を引き寄せるエイミーが居た。
「神器使い、態々来てくれるとは!」
白銀の巨人の胸部装甲が再び展開し光が集まっていく。
「この場で仕留めさせてもらう!」
フラウの叫びと共に、今度は収束した強力な光が巨人から放たれた。
その光に向かって鎧兵の上へと辿り着いたエイミーが神器の印を掲げる。
「私達は、貴方には負けません!」
光の防壁が築き上げられ、巨人が撃ちだす光を真正面から受け止めた。
砲撃による轟音が鳴り響く中で、エイミーが鎧兵を拳で叩いてロンザリアを呼ぶ。
「ロンザリアさん、ロンザリアさん!」
その呼び声にロンザリアが慌てて顔を出した。
「エイミー何やってるのこんな所で!?」
「何って、助けに来ました」
ハッキリそう言うエイミーに「何でそんな事を」という表情をロンザリアが浮かべる。
「エイミーはこんな所に居たら駄目なんだよ!エイミーが死んだらお兄ちゃんが悲しむ、それにエイミーは後ろに居て皆を守らないと!」
ロンザリアの、エイミーが後ろに居るべきだと考える理由の本音と建前が両方出た。
「その皆さんから四天との戦いを託されました、それにリョウさんが悲しむのはロンザリアさんが死んでも同じです」
エイミーがロンザリアの手を取る。
「だから勝ちましょう、私達二人で」
握られた手からロンザリアへとエイミーの心が伝わって来た。
「……あーっもう、わかった!でもお兄ちゃんに怒られたら一人で怒られてよね!」
手を引いてゴーレムの中へとエイミーを連れて入る。
「大丈夫です、二人で一緒にリョウさんの下へ帰りましょう」
破壊の光を白銀の巨人は放っていたが、防壁を抜けないと判断し中断する。
流石に固いな。だが、引き篭もるままなら他にも攻め様があるが、果たしてどう来る?
砲撃をやめた事で光の防壁も消え去り、その中に居た復活している黒の鎧兵が立ち上がった。
「じゃあ~、行くよ!」
ロンザリアの声に合わせて無手の鎧兵が構える。
「はいっ、私の力を剣と翼に!」
エイミーの声と共に、構えた手に光の剣が創りだされ、背中から光の天使の四枚羽が展開した。
翼を羽ばたかせて黒の鎧兵が空へと飛ぶ。
「私達の力で、貴方に勝ちます!」
まだ涼とグライズが戦っている時、レオとリーナは魔王の城の中へと入っていた。
ここは敵の本拠地、何か仕掛けや待ち伏せがあるものだと慎重に進んでいく。
が、今のところ何もなく、とても静かな城の中であった。
「なんか不気味に静かなこっちと比べて、リョウは派手な戦いしてるわね」
大きな窓の向こうで炎と風がぶつかり合い、城の中まで振動が響いている。
「あんなに強くて頼れるようになるなんて、正直思って無かったわ」
「そう?」
今までも頼りにしていた涼に対してのリーナの言葉にレオが首を傾げた。
そんなレオに「そうでしょ」とリーナが答える。
「だって、あんなにも強くなるなんて予想できないじゃない」
その言葉に納得したようにレオが笑い、頷いた。
「そうだね、本当に強くなった……」
これまでに何度と無く涼と練習で戦って分っていたけれども、本当の戦いの場で見て、改めて友の強さが分る。
「グライズの方も何だか相当強くなってるけど、アイツ大丈夫だと思う?」
激しさを増していく戦闘にリーナが心配になっていたが、涼の強さを良く知るレオは大丈夫だと確信していた。
「大丈夫、今のリョウなら勝てるよ」
そうハッキリと言えた。
「まぁ、アンタが言うならそうかもね。何か罠系は無さそうだし、アタシ達はちょっと急ぎましょうか」
「うん」
二人は走り魔王の下へと向かっていく。
道中は本当に何も無く、ストレッジの気配すら全くしないまま、そこへと辿り着いた。
「ここ?」
リーナの問に無言で頷く。
豪華な彫が施されている扉の向こうに、自分と何か因果めいた物がある相手が居るのが魂で分る。
行かなくてはならないと言う感情と、行ってはいけないと言う警鐘が頭の中で響いた。
大きく一息を付き、運命の扉へと手を当てる。
すると、リーナが片方の扉に手を当てた。
「一緒に行くからね」
素っ気無くリーナはそう言ったが、その言葉は何よりも心強かった。
二人で扉を開けて魔王が待つ大広間の中へと入って行く。
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