17-4 白銀の巨人

 グライズを倒した涼が地上に下り、大きく息を吐いて砕け捲れあがっている地面に座った。


「何とか勝った……」


 失った右腕も他の傷も、炎に包まれて元に戻っていく。


 強かった、本当にギリギリだった。


 もしもグライズに両手があれば負けていたかもと思ってしまうが、あいつは「全力で戦う為に」と言っていた。


 なら、あれが本当にグライズにとって最高の状態だったのだろう。


 だからこそ出た最後の「悔しい」との言葉。


 本気で戦い、敗れたからこそ出たその言葉。


 初めてな気がする、ああやって相手から自分に対する敵対心を、自分を越えようとする意思を向けられたのは。


 途方も無い強さを持った相手に好敵手だと思われた事が、自分の力を認められたようで嬉しく思い、左手を握り締める。


 ズンッと音を立てて、リベールが眼前の焼け焦げた瓦礫の上に降り立った。


「貴様はここで足止めさせてもらう。レオ・ロベルトの元に行きたければ俺を倒していくが良い」


 リベールが足を踏みしめて、大剣を構えそう宣言する。


 そのリベールの姿を見て、頭をかいて立ち上がった。


「なあ、お前はどうして魔王軍の味方をしているんだ?」


 そう言ってリベールを睨みつける。


 月夜の湖畔で話して何となくだがリベールの気持ちは理解しているつもりだ。


 今のあいつはレオと戦う事が目的、それに元からだって戦いたいだけで世界を滅ぼしたいって訳じゃ無い。


 なのに、何故俺達の前に立ちふさがる。


「無論、レオ・ロベルトと戦う為に」


 仮面を着けているせいでリベールの表情は読み取れない。


「そんな物、魔王を倒してからでも良いだろ。魔王は本当に世界を滅ぼすつもりなんだ、決着なんて後で気が済むまでやれば良い!」


 至極真っ当な事を言ったつもりだが、リベールは首を縦に振らなかった。


「勝手な我侭だが、その道を今の俺は選ぶ気は無い。ストレッジ様から受けた強化の恩、俺はその恩を貴様をここで止めることで返す」


 ストレッジからの強化……まぁ、これだけ行き成り強くなっているんだ、何かあったに決まってるか。


「だからと言って、魔王軍に義理立てする必要が何処にある!?魔王は世界を滅ぼす為だけに居るんだぞ!」


 俺の言葉にリベールがゆっくりと大剣を下ろした。


「……確かに、魔王は強大な力があっても何処か空虚に思える、貴様やレオ・ロベルトとは違ってな」


 しかし、胸を張り俺に向かって宣言する。


「だが四天は違う、奴等は己の誇りを持って戦っている、グライズと戦った貴様なら分る筈だ。そのグライズから俺は貴様の足止めを頼まれた、自分が負けた時は頼むとな!」


 再び大剣を持ち上げ俺に向かって構えた。


「グライズの誇りに懸けて貴様を魔王の元には行かせん!」


 表情はやはり仮面に隠れて見えない。


 しかし、確固たる決意をその構えから感じ取れた。


「……わかった、なら力尽くで押し通る!」


 全身から炎を滾らせて構える。


 レオ達が向かった城の近くでは戦いの音が鳴り始めていた。


 その戦いの魔力の流れを感じるに、二人は魔王の下へ辿り着いて戦っている。


 あいつらは良くて、俺が向かってはいけない理由は何かあるに違いない。


 それが何の理由でどんな目的かは知らないが、何にせよ敵の思惑はぶっ潰す!


「そこを退け!!」


 涼の手から火炎が走り、リベールが放つ氷結の風と激突した。




 黒と白の力が戦場でせめぎ合う。


 白銀の巨人が構えた砲台から光が放たれ、それを黒の鎧兵が手に持つ大剣で切り払った。


「こんのぉおお!」


 ロンザリアが叫び、鎧兵が走ってフラウが駆る巨人を猛追するも、唸りを上げる大剣を軽やかに巨人が避けていく。


「当たらない……っ!」


 ロンザリアはフラウに対して良く戦っている方ではあった。


 実際にこうして四天の足止めには成功している。


 しかし、勝っているという訳ではない。


 黒の鎧兵は今の間の戦いで何度と無く被弾し、砕かれている。


 エイミーの加護の力とロンザリアの力でその度に再生させ、まだ戦闘に問題は無いが、それでもこのままでは限界が来てしまう。


 地面を滑るように車輪を使ってロンザリアの攻撃を避けた巨人に向かって、周りの人魔連合の魔法が幾つも飛来し、爆発の中へと巨人が飲み込まれていく。


 煙に包まれる巨人へと、兵士達が「やったか」と言うと同時に煙の中から二筋の光が放たれ、魔法を撃った者達を薙ぎ払った。


 肩の装甲が展開して光を放ち、魔力による防壁を張った巨人が煙を割って出てくる。


 白銀の巨人は今の今まで全くの無傷。


 角ばった鋭利な鎧を身に付けた細身の人間の様な見た目をし、腰には2本の剣と砲を携え、背中には何か閉じた羽の様な物を背負っているそれは、全くの無傷である。


 その姿を見て、ロンザリアは歯軋りをした。


「くっそ、だからこっちには攻撃すんなって言ったじゃん……」


 援護してくれている味方にまで思わず愚痴が出てしまう。


 強い、一人では到底敵わないほどに強い。


 でも周りが手伝っても、あの大きさと固さでは焼け石に水。


 バルトロみたいな役に立ちそうな人達は、今は一体だけが残っている巨大な鉄の巨人と戦っている。


「どうした?最初の威勢が無くなっているぞ」


 巨人から発せられるフラウの煽りを聞き、ロンザリアの顔に怒りが露になった。


「うるさい!そんな事言っても、ロンザリアに足止めされてるくせに!」


 怒りに任せて両手の大剣を振り回していく。


 そうだ、別にフラウは倒さなくても良い。


 お兄ちゃん達が魔王を倒すまで、エイミーを守りきればロンザリアの勝ち。


 ここで抑えきれば!


 その時、ロンザリア達が戦う場所とは街の中心を挟み逆側の方で大きな力の衝突が起った。


 衝突による衝撃はロンザリア達が居る戦場まで響き、ぶつかった力の強さを物語る。


 その衝突によって起きた勝負の決着に、フラウの動きが止まった。


「そうか、これで四天は私一人になってしまうのか……」


 寂しさを感じさせる声でフラウが呟いた。


「そんな心配をしなくても、直ぐに後を追わせて上げるよ!」


 動きを止めたフラウへとロンザリアが容赦なく大剣を振り下ろす。


 が、その両の大剣を白銀の二本の剣が軽々と受け止めた。


「いや、その必要は無いさ。私にはまだ役目が残っているからな」


 白銀の巨人が大剣を弾き返し、黒の鎧兵を後ろに下がらせる。


「このっ、その細い体の何処にこんな力があるのさ!」


 よろめく巨体をロンザリアがなんとか立て直した。


 立て直し向かい直る目の前で、白銀の巨人の背中にあるものが展開する。


 羽のようだと思ったそれは、正しく羽そのものだった。


「戯れはこれまでにしよう」


 羽の間に光が放出され、白銀の巨体が空へと飛んだ。


 その姿にロンザリアが口を開けて絶句する。


 周りの兵士たちも、輝きを放ち空へと浮かび上がる偉容さに思わず目を奪われた。


「飛んで逃げたってお兄ちゃんには聞いたけど、あんな羽でこんな巨大な物を飛ばすって……意味、わかんないんだけど……」


 ロンザリアが震える声を出しながら、二歩、三歩と後ずさってしまう。


 空に浮かぶ巨人の胸部の装甲が展開し、光が集まり放たれた。

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