17-3 限界を越えて
疾風を纏ったグライズが強烈な蹴りを放つ。
涼が瞬時に作り出した炎の壁がそれを受け止めるも、突き抜ける衝撃によって辺りの建物に亀裂が走った。
グライズがその場で暴風を纏った回し蹴りを放ち、壁を粉々に打ち砕く。
「上に!」
壁の向こうに涼は居ない、上空へと飛び上がって魔方陣を構えていた。
「逃げ道は封じる!」
靡くマントを光らせて、辺りの建物を焼き払う炎の渦がグライズの周囲を囲う。
「パワー勝負で、正面からなら!」
渦の中央に立つグライズへと灼熱の大槍を放った。
迫り来る白熱に燃える槍へとグライズが拳を構え、溜めて、溜めて、飛びその手を振り上げる。
天を衝く力が地に迫る力とぶつかり合い、その衝撃に辺りを囲う渦が爆ぜ飛んだ。
炎が舞い散り街が燃え盛っていく中で、炎剣を構えた涼とグライズの拳が競り合い、莫大な魔力が干渉しあって激しい音が鳴り響く、
「一つ聞きたい!」
競り合うグライズへと向かって涼が叫び聞いた。
「何ですかな」
グライズがそれに聞き返す。
「何で右腕が無いままなんだ!?」
「その事ですか、ふんっ!」
競り合いを弾き、グライズが後ろへと間合いを開けた。
「これは貴方と全力で戦う為に!」
魔方陣を作り出し、荒れ狂う暴風が竜巻となって何もかもを巻き込み涼の方へと迫り来る。
「そうかい!」
巨大な燃え滾る炎の塊を作り出し、竜巻へと投げ放った。
衝突する強大な二つの力が巻き起こす破壊によって、更に街中に炎が燃え広がっていく。
焼かれ、砕かれ、豪勢だった街並みは一瞬にして廃墟同然と化していた。
なおも続く魔法の撃ち合いによって起きる破壊に、ちょっと顔を顰めてしまう。
これだけ綺麗だった街を巻き込むのは悪い気がして来る……が!そんな事を気にしてる暇もないか!
グライズが振るう左手に合わせ通りの建物が一気に両断され浮かび上がり、空を埋めるような質量がこちらに向かって落ちてきた。
「また凄い事を、だけどこれ位なら!」
両手を正面に構え、景色が歪むほどの熱量が集まっていく。
「全部ぶっ飛べ!!」
街が煌々と輝く程の光が走り、大爆発と共に飛来する建物を全て薙ぎ払った。
爆発によって轟音と瓦礫が広がる中をグライズ風の刃を放ちながらが突っ切って来る。
「前より更に速い……!」
風の刃は大丈夫、こちらの防御の方が上だ。
問題はその後に来る攻撃!
風を打ち落としたこちらに向かって、こちらの全力を上回る速度でグライズが迫る。
目では追えない、ユニゾン状態で劇的に身体能力が上がっている今の状態でも目では捉えきれない。
だが対策は考えてきた。
例えどれ程の加速だとしても、それは魔法によって起こしている現象。
愛莉を通して星と繋がっている今なら、この星にある魔力の動きを感覚で理解できる。
相手が加速する方向を完璧ではないが、感覚で捉えられる。
これはレオとの修行の中で身に付けた技。
目では追えなくても、体は敵が向かう方へと追いつける!
背後から空を裂いて走る右足の飛び蹴りを、炎剣で受け止めた。
体の芯まで響く威力に歯を食いしばり、気合と共に「でりゃ!」っと押し返す。
押されて空中で半回転するグライズへと向かって速度重視の炎槍を放つ。しかし、直撃寸前の所で身を捻って避けられた。
これでも避けられるか……!?
回避と同時に放たれた捻りを加えた踵落としを避けきれず、体が炎と化してしまう。
普通の相手ならとても有効な筈の炎化による回避でも、速度を越えられているグライズの場合はそうはいかない。
距離を離しても、隙になる実体化の瞬間を暴風を纏った左拳が捉えた。
腕を交差させて顔への直撃は避けるも、地上にある建物へと衝突し、4階分を突き抜けて床に叩きつけられる。
「くっそ……普通だと死んでたな」
意識が飛びそうになるも、自身を覆う炎が体を治していく。
意識がハッキリとしていく中で、上空に居るグライズの魔力が集まる感覚が起こった。
「やべっ!」
慌てて目の前の壁を吹き飛ばし外へと脱出する。
同時に竜巻が荒れ狂い、今居た建物周辺が削られ砂状となって消えてなくなった。
「あっぶね……」
体の修復を続けながら、空に立つグライズの方へと向く。
単純な力勝負なら今の所互角か、ほんの少しだけこちらが上。
だが速度差がキツイ。
追えはしても、攻撃を当てられないんじゃ意味が無い。
けどまだ手はある。
(愛莉、あれやるぞ)
(あれって、剣の方ですよね?)
聞くと愛莉が聞き返してきた。
(剣の方だよ、だから愛莉にも頑張って貰わないとな)
(了解です!私も頑張りますっ!)
目では見えないが、頭の中で愛莉がぐっと両方の手を握って気合を入れる姿が見えた気がする。
「よし、行くぞ!」
特に意味は無いがポーズを構えた。
「展開、ソード・ウィング!」
ポーズに合わせて剣の形をした8枚の炎翼が展開される。
その翼を背負って、涼がグライズへと飛ぶ。
向かってくる涼を見てグライズは考えた。
あの背中の物は何の為に?
彼は今までそんな物が無くとも空を飛ぶ事が出来ていました。
それにこれで速度が上がると言う訳でもない様です。
ならば別の意味があるという事。
その意味は直ぐに分った。
「飛べ!」
涼が手を振るうと翼が広がり、一つ一つの剣として射出された。
「ほう?」
8本の炎剣がグライズに狙いを定めて空中を舞う。
涼自身も炎を射ちながら剣を構えてグライズへと迫ってきた。
多様な攻撃を混ぜこちらの回避を鈍らせるつもりですか。
グライズが手を振るって疾風の刃を放ち、飛び交う炎剣へとぶつけた。
剣は風に絶たれて崩れるも、即座に形を作り直し目標を定めて飛ぶ。
しかし、この程度ならば!
グライズが空を蹴り出し、飛び交う炎を掻い潜っていく。
例え幾重に攻撃を重ねようと、攻撃を行っているのは一人。
相手の呼吸を、動作を読んでかわすのは難しくない。
それにこれ程の数を同時に動かすのならば、集中にむらが起きるのが道理。
その隙、必ずや……むっ!?
空を飛ぶ炎剣が鋭くグライズの正面を掠めた。
読み違え?いや、違う。あの少年の動きとは全く違う動きをこの剣達が行っている。
先程まで涼の動きに合わせて舞っていた炎剣が、今は全く別の動きをもってグライズを攻めていた、
自動攻撃?いや、それにしては狙いが正確で、何か別の意思を感じられる。
多様に見えて一個の力であった筈の涼の放つ炎が、波状攻撃となってグライズを追い込んでいく。
何故だ、何が?……そうだ!
「そうでした、貴方にはもう一人居ましたね!」
「そうさ、卑怯とは言うまい!」
グライズは気づいた、彼は少女と合体する事でその力を発揮している。
ならば、その少女の意思が彼の中にあってもおかしくは無い。
この飛び交う剣は、その少女が操っている!
「言いませんとも、貴方達は二人で一つの力!しかし、その少女の名前だけは聞かせてもらいましょうか!」
グライズの言葉に涼が驚くも、笑い自分が送った名前を答えた、
「真田 愛莉って言うんだ、覚えておきやがれ!」
涼と合体している愛莉は、涼の力を自身の力として使う事が出来る。
身体能力や思考速度もユニゾン状態の涼基準。
ならば使わない手は無いと考えたのがこの攻撃方法。
愛莉の操る剣が縦横無尽にグライズを追う、追う、追う。
そこに涼が放つ魔法と剣が合わさり、グライズの反撃と交差した。
距離を開け、縮め、爆炎と疾風が、涼の剣とグライズの三肢がぶつかり合う。
攻防が繰り広げる中で遂に空を舞う炎剣がグライズを捉えた。
「ぐぅ……!」
炎剣が胴に突き刺さり、グライズが苦悶の表情を浮かべ動きが鈍る。
その瞬間を涼は逃さない。
「爆ぜろ!!」
魔方陣を瞬時に創り上げて放たれた爆炎が、それを左手で受けるグライズ毎地上を焼き焦がした。
焼ける体で何とか爆炎の中から抜け出し、グライズが息を荒くしながら涼を見上げる。
「いやはや、本当に強い……」
防御に使った為に左手すらも失い、全身の傷の再生はされていくも、これ程のダメージを回復するにはこの場から逃げるしかない。
逃げる?そんな選択肢は己に無い。
「この強さ、初めて心から勝ちたいと思えたこの戦い、ああ何と素晴らしい!」
グライズから魔力が噴出し、無くなっていた両腕が風の塊として蘇る。
「お見せしましょう、私の力を!四天を上回りしこの力を!」
風の腕が空を掴んだ。
「名付けるならば、空気投げ!」
掴み、空を投げた。
グライズが投げる動作に合わせ、周囲の全てが引っ張られて巻き込まれていく。
空気投げって、そんな技じゃないだろ!?
そう叫びたくなるが、辺り一面の空も街も丸ごと掴まれて投げられる状態では口を開けることすら出来ない。
炎化して逃げようにも空間ごと固定されて逃げられない。
空が文字通り引っ繰り返り、街の一角諸共大地に叩きつけられた。
全力で魔力による防護を作るもそれで防ぎきれる威力ではない。
手足は砕け、破裂した内臓から血が口から吐き出された。
体は炎によって再生していくが、再び何もかもを巻き込んで投げつけられては死が待っている。
冗談じゃない!
魔力を爆発させて掴まれている全てを焼き尽くし、吹き飛ばした。
力技によって渾身の技が敗れる。
だが、ここがグライズの狙い。
今、涼の体は炎に包まれて再生されている。
正に神が与えた死を拒絶出来るほどの巨大な力。
しかし、彼の力は万能であっても全能ではない。
先程踵落としで建物へと叩き付けた時、彼は傷を再生させながらこちらの攻撃を飛んで避けた。
炎化は十分出来るタイミングであったのに、普通に飛んで避けた。
考えられる理由は一つ、彼は傷を治しながら炎化は出来ない!
ここが狙い、最後の一撃!
「命を賭して私は貴方を越える!」
グライズの体から流れる血によって巨大な魔法陣が描かれ、両腕を模っていた風の塊を解放する力を推進力に、竜巻を纏いし音速を超える蹴りが放たれた。
有無を言わせぬ回避不能、絶対の一撃。
(イフリートの炎を腕に集中させる!)
(え、はいっ!)
涼の腕にテュポーンと渡り合えるほどの神炎が宿り、その拳をもってグライズの決死の一撃を迎え撃った。
両者の力によって空は震え、大地が割れる。
二つの力が弾け、涼の右腕が消し飛んだ。
グライズの足は竜巻が消えてもまだ残っている。
だがもう、力は何も残っていなかった。
その胴を涼の返す左腕が掴む。
ああ、故に……
努力をし、己を越え、命を賭して、全ての力を出し切った。
それでも尚、勝てない敵が目の前に居る。
ああ、それ故に……
複雑な思いが駆け巡るも、敵に対して笑みを浮かべて言い放つ。
「実に悔しい!」
左腕から放たれる炎にグライズが飲み込まれて消え去った。
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