16-3 準備期間
会議で役割が決まり、俺達はフレージュのアンドレアス皇太子と共に西へ東へ北に南に、山の上だろうと森の奥だろうと、目ぼしい魔物の集落へと飛びまわる。
その魔物の中には昔の知り合いも居た。
嘗て人と和解できなかったオークとゴブリン達が俺達を出迎える。
「まさかお前達と一緒に戦える日が本当に来るとはな」
「前は上手くいかなかったけどな、今回はよろしく頼むぜ」
「ああ、お前達二人の力なら魔王にも勝てると信じられる、俺達の力もそこに加えさせてくれ」
快く引き受けてくれたオークのマニンガーと握手を交わした。
「俺たちもやるぞ!」「戦えないけど物を運ぶのとかは任せろ!」「バシバシ働くぞ!」
小さなゴブリン達もキーキーと周りで決意表明をしている。
「では、私達はまた次の場所へと向かわなければなりませんので、後は彼等の指示に従ってください」
アンドレアス皇太子の言葉に近くから連れて来た兵士の人達が姿勢を正した。
彼等が近くの街へと魔物達を先導し、そこから更に全員が集まるフレージュへと目指していく事になる。
「ワカッタ、シタガオウ。俺達と共に戦う道を選んでくれた事を感謝する」
マニンガーが頭を下げて、ゴブリン達と一緒に兵士に付いて行った。
それを見送り俺たちもリーナの転移魔法で魔物達との交渉を続けていく。
交渉は事態が事態だからか、俺達の力の強さを信用してくれたからか、意外とスムーズに行く事が多かった。
元より魔王軍に与さず人里から離れた所に住む魔物達は、人に対して特に敵対心を持っていないというのも大きいのかもしれない。
幾つかはこちらを騙そうとする魔物も居たが、そこはロンザリアがこっそり教えてくれるのと、皇太子の交渉術で問題はなかった。
問題というより大変そうなのは、この後の魔物も混ざった軍の編成作業の方だ。
俺が全部通訳できれば良いのだが、それは流石に無理がある。
一応魔物同士なら言葉は通じなくても一定の意思疎通は出来るのと、魔物の中には人の言葉が分る者もそれなりに居るので、そこは軍の人達に頑張ってもらうしかないか。
日が沈み始めた頃、リーナが流石に根を上げたので今日の交渉は終わりとなった。
フレージュへと戻ってきたリーナが大きく息を吐いて、その場に座り込む。
「あー、疲れた……」
「リーナお姉ちゃん頑張った、えらいえらい」
リーナに魔力を渡すためにレオと同じく金色の瞳に変わっていたルルちゃんが、座り込むリーナの頭を撫でた。
「ほんと、ルルちゃんにも助けられたわ。3人居るおかげで大分負担は軽減されたしね」
そう言ってリーナがルルちゃんの頬を優しく撫で返す。
「皆、今日はご苦労だった、また明日も同じように交渉の続きがあるから夜はしっかりと休んでくれ。では、私は仕事の続きがあるから失礼させてもらうよ」
アンドレアス皇太子がキビキビとした急ぎ足で仕事場へと戻って行った。
あれだけ俺達と一緒に飛びまわって、魔物達相手に交渉していたのに元気な人だ。
でも、あれだけ出来る人でないと国を背負うなんて役割を持つ事は出来ないのだろう。
俺達は言われたとおり夜はぐっすりと休み、日が明けてからまた交渉の続きをしていく。
交渉は順調に進み、一緒に戦うと決めた魔物達の独自のネットワークで更に戦力はあつまっていき、人と魔の一大戦力が出来上がり始めていた。
数日かけて交渉は全て終わり、一先ず俺達の役割は終了となる。
軍の人たちも、国のトップの人たちも、皆が戦の準備の為に走り回り仕事をこなしているが、残念ながら俺達は役に立てそうに無い。
なので荷物運びや、大きな魔力が必要な場面を手伝いながら鍛錬を続けて日々を過ごす事に。
その中で一つ、自分の力に気が付いた物があるのだが、
「マスター、それは絶対使っちゃ駄目ですからね?ぜっっったいですからね?」
そう愛莉に釘を刺されてしまった。
「分ってるよ、普通のユニゾンと比べてもメリットよりもデメリットの方がデカ過ぎるし、俺だって無茶はするつもりはないしな」
俺自身も本当に使う気は無いのだが、愛莉は信用しない目でこちらを見ている。
まぁ信用されてないのは今までの俺の行いのせいだが、本当にこの力を使う事は無いだろう……多分。
それから更に一ヶ月ほど経った頃、俺達はフレージュの北東にある都市カンペールへと来た。
最後の軍の編成等が終わり次第魔王軍に対して殴り込みをかける事になるので、俺達はその準備が終わるまで一足先に街にて待機する事になっている。
流石に地理的に寒さを感じ始めるその街は、人魔連合軍が拠点予定としている街。
まだ本隊は会議を行っているアルビ近くに居るのでそこまでの数ではないが、魔物も街を歩いている。
当初は魔物に対する風当たりは強かったそうだが、魔王という共通した敵の存在と、何時の間にか出来上がっている人も魔も超えた勇者ブームによって今は普通に過ごせるようになったそうだ。
その勇者ブームなるものはこの連合軍の拠点予定となっている街では特に凄く、転移後に街へと歩きついた途端にレオは住人達に囲まれてしまうほどだった。
最近力を付けていたなんちゃら商会が勇者の宣伝やら本やらグッズやら色々と大きな資金を注ぎ込んでやりまくってるそうで、他もその流れに乗っかりお祭り騒ぎとなった結果がこれだ。
俺の方はと言うと、俺の勇者としてのビジュアルがユニゾン時の赤い髪に金色の瞳をした見た目として広まっており、写真が無いこの世界では描かれた赤い髪をした少年と俺が同一人物だと分る人はおらず、転移の際に瞳が金色になってしまっているレオと違って人は集まってこなかった。
しかし、この揉みくちゃにされてぐったりとしているレオの姿を見ると、これで良かったのかもしれない。
「リョウさん、ちょっとお買い物に行きませんか?」
宿に着いた所でエイミーが尋ねてきた。
「ああ良いよ、何か行きたい店とかあるのか?」
「はい、軍の方から服は貰いましたけど、やっぱり北国用の服は欲しいなと思いまして」
確かに軍から貰った北用の服で寒さ対策は出来ているが、女の子としてはお洒落な服に着替えたい所だろう。
「よし、じゃあ折角だし買い物しながら他にも色々見に行こうか」
思えば二人での買い物は何度もしていたが、最近はずっと忙しかった事もあって付き合い始めてからは初めてだ。
要するにこれは初デートと言える。
残念ながら来たばかりと言う事でデートスポットなんて知らないし、いきなりの事で決めた服も持ち合わせていないが、こうして気さくなデートが最初というのも悪くないだろう。
「そうだ、愛莉ちゃんも一緒に服を見に行きましょうか」
おや?
「え、良いんですか?なら私も一緒に行きたいです!」
いや、良くは無いと言えば無くもないんだが……
「じゃ~あ、ロンザリアも付いていこうかな~」
ロンザリアがそう言いながら俺の方を向いてニヤ付いている。
「リーナさん達はどうします?」
「ん?……アタシはいいや」
ちらりと俺を見てリーナは断った。
「僕は部屋で休んでるよ……」
レオは未だにぐったりとしている。
「では4人で行きましょうか」
にっこりと手を合わせるエイミーに二人が「はーい」と返事をした。
まぁ……エイミーが良いなら良いか……
4人で買い物に行き服を見に行く。
エイミーは愛莉の服を楽しそうに色々と選びながら、自分の服も「どうでしょうか?」とこちらに聞いてきた。
どの服を出されても「似合ってるよ」や「可愛いと思う」とばかり言う俺に対して少しエイミーは不満げだが、実際どれも可愛いのだから仕方が無い。
幾つか服を買った後、2人は白を基調としたモコモコのコートと冬用のズボンに着替えた。
愛莉の方は店員の人に頼んで尻尾を出せるように少し調整して貰っている。
「お前の方は服はそのままで良いのか?」
特に新しい服に買えることも無く、寒そうでもないロンザリアに聞いてみた。
「別に~、魔物って寒くても暑くても辛くないし。でも、雰囲気は変えておいた方がらしいかもね」
そう言ってロンザリアが今まで纏っていた服を変化させていく。
「こんなものかな。どう?可愛い?」
ロンザリアは黒を基調としたダッフルコートとマフラー姿へと変わった。
「いいな、すげー可愛い」
「んふふ~、でしょ~う?」
褒められて素直な笑顔をロンザリアが見せた。
こういう笑顔の時のこいつは本当に可愛いから困る。
服を買った後は時間も丁度いいしと昼食を食べて、また街歩きを再開した。
愛莉とロンザリアが仲良く歩く後ろで、俺とエイミーも手を繋ぎ歩いていく。
この4人での街歩きは楽しい。
愛莉とロンザリアが子供らしいはしゃぎ方をしている後ろで、こうしてエイミーと一緒に居る雰囲気も悪くない。
でも、デートって感じは微塵もないなぁ……
「どうかしましたか?」
きょとんとした顔を浮かべてエイミーがこちらを向いた
「ううん、何でもないよ」
明るい顔に直ぐに切り替えて答える。
不味いな、顔に出てしまってたか。
そんな二人のやり取りを見てロンザリアが考えた。
こうして涼と一緒に居るのは楽しい。でも、涼の事を考えるとそろそろ空気を読めば後で褒めて貰えるかもしれない。
愛莉をちょいちょいと引き寄せて耳打ちする。
その内容に愛莉も同意して頷いた。
「ちょっとロンザリア達は疲れちゃったから宿に戻るね」
「あら、そうですか?」
「うん、いっぱい服を選んでくれてありがとうございました。それじゃあ後はお二人でっ!」
愛莉がぺこりと頭を下げて、笑顔でロンザリアと一緒に宿へと帰っていく。
それを不思議そうな目でエイミーは見ていた。
「いきなりどうしたんでしょう?……うーん、私達も宿に帰りますか?」
俺も疲れているのだろうかと思い、エイミーが聞いてくる。
「俺はまだエイミーと一緒に街を歩きたいかな、折角これから初デートなんだし」
あんまりにも意識していないエイミーに、少し拗ねた声が出てしまった。
それを言われて気が付いたエイミーが、慌てて恥ずかしそうに申し訳無さそうに手をわたわたとさせて謝る。
「あっ、ご、ごめんさい!リョウさんと買い物に行くのは毎回楽しみなんですけど何時もしてる事ですから、何と言いますか日常の一つと言いますか、その、リョウさんの気持ちを考えずに皆さんを誘ってしまってすみませんでした」
謝らせるつもりはなかったなんて、それはとても卑怯な考えだろう。
折角向こうは俺と一緒に居る事を楽しんでいてくれていたというのに。
そう思い、彼女を抱き寄せて謝り返す。
「いや、俺も悪かった。そうしたいなら俺がちゃんと言うべきだったのに、言わずに文句だけ言ってごめん。それに、お前に俺と一緒に居るのが当たり前の事だって思って貰えてるのは嬉しい」
ちゃんと思いが伝わるようにと、彼女の体を抱き締めた。
ちょっとの間エイミーはそのまま体を寄せていたが、寒さでほんのり紅くなっていた頬を更に紅くさせて顔を上げる。
「あの、嬉しいですけど街中なので……」
エイミーに言われて周りを見ると、道行く通行人たちが若いカップルの抱擁に生暖かい視線を送っていた。
「おっと、ごめん」
俺も恥ずかしくなってきてぱっとエイミーから離れる。
妙な雰囲気になったまま、暫く二人の間に沈黙が流れていった。
いや、このままは不味い。なんかエイミーも「どうしよう」ともじもじしている。
遅くはなったがここは男としてキチンとせねば。
先程まで握っていた体温が残る手をもう一度とる。
「俺とデートをしてくれませんか?」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
その手を握り返してエイミーが答えた。
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