16-4 語る事もない大切な日
改めてエイミーと二人で街を歩いていく。
幾つか小物店や本屋に立ち寄ったり、休憩という事でここらでオススメの甘い食べ物を食べたりと、幸せで緩やかな時間を過ごした。
二人して自然な笑顔で喋り歩いていく中で、一つの店にエイミーの目が止まる。
「リョウさん、どうせですから一度記念に行ってみませんか?」
「うーん、あれはなぁ……」
そこは、凱旋記念なる垂れ幕や旗が立っているそこは、……まぁ要するに勇者の記念グッズショップだった。
俺とレオの似顔絵が描かれたボードが置かれており、結構な数の人や魔物で賑わっている。
勇者という共通の話題のお陰で、人と魔物が仲良くなっているのは本当に嬉しい事なのだが、俺のグッズを持って何かを語っている様子を見るのは正直かなり恥ずかしい。
「……止めときましょうか」
俺の反応を見て少し残念そうにエイミーがそう言った。
「いや、ちょっと中を覗いてみようぜ。どうせだしな」
そうさ、どうせだし行ってみよう。
その言葉に笑顔を浮かべるエイミーの手を握って店へと向かった。
中は外から見たように人と魔物が仲良く買い物をしているという、今までの事を考えると不思議な光景が広がっている。
この街へとやって来た人や魔物の中には俺達の戦いを見ていた者もおり、その語りもまた人を集める要因となっていた。
「何だか思った以上に色々売ってますね」
俺の顔が描かれたカップをエイミーが取って、他の同じように描かれているカップと見比べている。
「あの会議から一ヶ月半ぐらいだろ?有り難い事だけど、誰がどんだけマジでやってんだってなるな」
俺も俺とレオの小さな人形を持って見てみる。
この世界の魔法による作成技術を考えると小物系の生産は結構やり易いのだが、それにしてもこの数は本当に凄い。
「しっかし、結構出来が良いな」
「ですね、お二人とも顔も似てますし。あ、このぬいぐるみ可愛い」
デフォルメされたぬいぐるみを持って幸せそうな顔をしているエイミーが同意するように、グッズのモチーフになっている俺とレオの姿は結構似ている。
これの元をデザンンした人は俺達の知り合いだったりするのだろうか?
だが店内に書いてあるローレン商会なる名前には聞き覚えがなかった。
「リョウさん、これ買ってもよろしいでしょうか?」
とてもキラキラとした目で、エイミーがやけに可愛らしくアレンジされている俺のぬいぐるみを持って聞いてくる。
「エイミーが買いたいなら良いんじゃないかな」
「では大切にしますね」
笑顔のまま他の物も色々と掴んでカウンターへと持っていった。
俺が「持とうか?」と聞いても手放さない紙袋を抱え、幸せ一杯の顔をしたエイミーと一緒に店を後にする。
空も紅くなり始め帰るのも頃合ではあるが、最後に買い物の間に話しに聞いた場所へと向かいたい。
「何処か行きたい所がありますか?」
「ん、まぁな。何か話には結構良い場所らしいよ」
向かい階段を登った先に、街を一望出来る広場があった。
冷たく透明な空気に包まれ、夕日に照らされた街が紅く輝いている。
人の暮らしている明かりがパラパラと映るその景色は、先程まで歩いていた街とは思えない雰囲気だった。
その光景に二人して感嘆の息を付く。
「綺麗ですね……」
「ああ……」
風が吹いてエイミーの美しい銀髪が靡き、それを彼女が手で押さえる。
何時もならそれに見とれてしまう所だが、今は別の事を考えてしまっていた。
ここは世界の最前線。街の向こうに、地平の果てに魔王が居る。
街の美しさと共に、その街の向こうの景色に心が構えてしまった。
「リョウさん、今戦いの事を考えていましたよね?」
わざとらしくムスッとした顔でエイミーが聞いてきた。
「あ、ごめん。折角のデート中なのにな」
慌てて謝ると、エイミーがくすり笑う。
「いえ、良いです。カッコよかったですし、それにリョウさんらしいですから」
「らしい……らしいか?」
「そうです、誰かの為に戦う男の顔をしていました」
「そうかな……?」
面と向かって言われると恥ずかしくなって頭をかいた。
風が再び二人の間を駆け抜けていく。
「……勝ちましょうね。皆がまた一緒に居られるように」
エイミーがこちらを見つめてそう言った。
「ああ、勝つさ。それに誰も死なせない、俺は誰かが犠牲になったけどって話より、皆揃ってハッピーエンドの方が好きだしな」
少しカッコ付けた言い方にフフッとエイミーが笑い、二人して見つめ合う。
自然と顔が二人して近付き、キスを交わした。
暫くした後、名残惜しくも離れて「帰ろうか」と尋ねる。
「そうですね、リーナさん達は宿で待って居るでしょうし」
「レオもあの調子だと外に出たがらないだろうしな」
レオには悪いがちょっと笑ってしまった。
そんな俺を見てかエイミーが腕を組んで考え唸る。
「ん、どうした?」
「いえ、リーナさんとレオさんはあのままで良いのかなと」
「あのままで?」
首を傾げる俺に、エイミーが顔を上げた。
「だって、その、レオさんはまだ一度もリーナさんに手を出してないんですよ?」
「あー……」
まぁ、確かにレオの性格と言うか、もっと根本的な部分のせいでそうはなっているんだろうなとは思っていた。
「レオってその辺疎いっていうか、まじで何も知らなそうだしなぁ。でも水着の反応とか見れば別に興味が無いって訳じゃないだろうし、何時かは勝手に知って関係も進むんじゃないかな?」
「うーん、そうだと良いですけど……リーナさんも悩んでいるみたいで」
「そうか……」
恋人同士になって結構な時間何にも無いのは確かにあれっちゃ、あれなのかもしれないな……
「そうだな、切っ掛けの切っ掛け作り位なら手伝っても良いかもな。前のエイミーへの告白の時には手伝ってもらったんだし、それの恩を返すって事で」
「はい、是非そうしましょう。やっぱり好きな人同士はちゃんとその想いを確かめ合えるべきです」
エイミーがぐっと拳を握り決意を新にしたような目をする。
「それで男の人ってどうやってその事を知るのでしょうか?」
「へ!?ああ、まぁ本で読んだりとかかな、うん」
突然の事に変な声が出てしまった。
「そこは私達と変わらないんですね、でしたら私に良い考えがあります」
その後エイミーが話した作戦は果たして本当に良い作戦かは判断しかねるが、とにかくその作戦を果たす事にした。
急ぎ本屋に寄った後で宿へと戻る。
日はまだギリギリ沈んでない、俺は部屋へと魔法の勉強をしていたレオを呼び、エイミーはリーナの部屋へと向かった。
「どうしたの?何だか慌てて帰ってきたみたいだけど」
不思議そうな顔でレオが聞いてくる。
「いや別に何かあったって訳ではないんだけどさ」
困った、勢い任せに決まった役割をどう果たせばいいものか。
「えー……レオってさ、さっきまで何をしてたんだ?」
「ん?魔法の勉強だけど……」
「ああ、そうだよな、してたもんな」
分りきっているはずの事を聞かれてレオが困惑している。
俺がエイミーから任された役割は、先程買ってきた「愛し合う二人の為の満足いく性行為~幸せな子作りで幸せな家庭を~」なる本をさり気無くレオに渡して、さり気無くあいつが性知識を知る切っ掛けを……
って、出来るか!
本の内容としては、題材が題材だが真面目で健全なのをエイミーと二人で選んだ。ぶっちゃけ後で俺も読みたい。
しかしだ、この本をどんな流れでさり気無く渡せって言うんだよ!?
冷静に考えると中々な無茶振りに頭を抱えたくなる。
一先ずレオとは魔法の扱い方談義で場をもたせてるが、これだって何時までも続かない。
レオだってずっと何か疑っているようだし。
ええい、なるようになりやがれ!
「レオ、本題に入るぞ!」
突然会話を打ち切ったことにレオが驚くも、やっぱり何かあったのかと真剣な顔になる。
「やっぱりさっきのお出かけ中に何かあったの?」
「ああ、あった。いや寧ろナニもあってないのが問題なんだが。お前には足りないものがあるんだ」
そう言って袋から本を取り出し、レオの目の前に突きつける。
「これだ、今のお前はこれを読んで知識を付ける必要がある!」
レオは黙っている、突きつけられた本の表紙を見たまま黙っている、黙ったまま首を傾げた。
「これ何て書いてあるの?」
「なにってそりゃ見たまんまの……あっ!」
そうだ、こいつは外国語が読めないんだった!
くそっ、失念してた。というかエイミーは日本語にしか見えない俺と違って、外国語だと分るんだから指摘してくれ。
やばい、レオは答えを待っている。
だがこの本の内容を伝えるなんてとてもじゃないが出来ない、したくない。
これは万事休すか?作戦失敗か?いや、まだ何か方法はあるはずだ。
慌てる頭で考え、一つの案が浮かんだ。
「そうだ、じゃあリーナにこれを読んでもらえ」
そう言って本をレオに渡す。
これで良いのだろうか?いやこれで良い事にしておこう。
手渡された本の表紙を訝しげにレオが見た。
「これって変な本じゃないよね?」
勘の良い奴め。
「大丈夫だ、これは俺とエイミーが、お前とリーナの為に選んだ本だ。真面目な本だし、お前達に本当に役立つ知識が書いてある」
両肩を掴んで、真っ直ぐにレオを見て説得していく。
「俺達は本当に茶化すつもりはないし、仮にリーナが怒ったら全部俺のせいにしてくれて良い。それともお前は俺の事が信じられないか?」
「信じられないなんて事は絶対にないけど……」
本の表紙を見たまま「どうしたものか」とレオが悩み、顔を上げた。
「……分った、リーナと話してくるよ」
「ああ、吉報を待ってるぜ。あと俺達は暫くの間というか、結構な間というか、外に出てるからな。……あれだ、頑張れよ?」
「うん、うん?」
良く分かってないままレオが頷いた。
頷きを見て肩を叩き部屋を出て、既にリーナの部屋から出て待っていたエイミーと一緒に分かっていない愛莉と分っているロンザリアを連れて外に向かう。
後は二人に任せよう。
レオはどうしたものかと悩みながらリーナの部屋の扉を叩いていた。
少し間が開いてから、妙に上ずった「どうぞ」との返事が返って来る。
「な、何かようかしら?」
扉を開けると落ち着かない雰囲気のリーナがベッドに座り待っていた。
うーん、どうしようかな?調子が何かおかしそうだし、止めておこうかな。
でも、涼はこれが必要な事だって言ってたし……
「何か用があって来たんでしょ?」
少し早口でリーナが聞いてきた。
「えっと、リョウからこの本をリーナと一緒に読むようにって言われたんだけど、何て書いてあるのか僕には分らなくて」
本を渡し、リーナがそれを見る。
「本?えーっと、愛し合う二人の為……」
タイトルを読んでいる途中でリーナの言葉が止まり、見る見るうちに顔が赤くなっていく。
「やっぱり変な本だったの?」
「いや、変な本と言うか……」
聞かれてこちらに本の中身が見えないようにリーナが何度か本を開く。
どんな本なのか内容を理解したリーナが、それを伝えるのか、伝えないのか、伝えたいのか、伝えたくないのか、どうしようどうしようと表情がくるくる変わっていった。
「変な内容だったなら無理して言わなくていいよ、リョウには後で僕から言っておくから」
「いやだから変な内容って訳じゃ……ええい!」
リーナが遂に意を決した。
ベッドから立ち上がり、僕に向かって何かを言おうとする。
言おうとするも中々言い出せず、何度もこちら目線を合わせたり外したりして、ようやく小さな声で聞いてきた。
「アンタってさ、アタシの事をどう思ってるの?」
意外な質問だった。
「大切に思ってる。僕は君の事が大好きだし、絶対に手放したくないと思ってる」
その返答にリーナが恥ずかしそうに、ちょっと満足気に髪を指で弄る。
「そ、そうよね。いやでも、今回はそうじゃなくて、その……アタシを魅力的に思っているかと言うか」
「ん?そりゃ魅力的に思ってるよ、顔も凄く可愛いと思うし」
面と向かってすっぱりと言われ、リーナの顔が思わず緩み始める。
「そうよね、そうでしょうけど、また別の……そうだ、アタシの水着姿ってどう思ったの?」
聞かれてレオがどう答えたものか考えた。
「えっと、新鮮で良かったし似合ってたよ」
その当たり障りの無い答えにリーナがムスッとなる。
「それだけ?」
「……それだけ」
聞かれ詰め寄られて目を逸らしてしまった。
更にリーナが顔を寄せてくる。
「それじゃ駄目、正直にアタシの水着を見てどう思ったのか言いなさい」
目を逸らそうにも、どうしても目を向けてしまう綺麗な紅い瞳に観念するしかなかった。
「怒らない?」
「アンタなら怒らないわよ」
「……その、やっぱりリーナのああいう格好は凄く良かったし、お臍とか見れて良かったなと……」
正直に答えると、「え?」って顔をしてリーナが顔を離す。
「アンタって臍好きだったの?」
とても意外そうな顔でリーナが聞いてきた。
「ほら、だから嫌がらないかって聞いたじゃないか」
その問に恥ずかしくなって体ごと背を向ける。
「あ~、ごめんごめん、別に嫌がってる訳じゃないのよ。そ~う、アンタはお臍好きだったのね」
背中越しにニヤ付くリーナの顔が分るようだ。
「別に良いだろ、普段見れない場所だから何となく目が向いちゃったんだから」
「フフッ、そういう事にしときましょうか」
言い訳をしてみるが、軽く笑い流されてしまった。
そのまま少しの間後ろを向いたままで居ると、服をちょいちょいと引っ張られた。
「レオ、こっちを向いて」
言われるままに振り返る。
「な!?」
そこにはシャツを脱いで上は下着姿のリーナが立っていた。
慌てて再び後ろを向こうとする僕の腕をリーナが掴み止める。
「駄目、逃げないで」
「逃げるなんて僕は、でも早く服を」
「着なよ」と言おうとしたが、恥ずかしさや色々な感情が入り混じって、ちょっとだけ涙が滲んでいる彼女の顔を見ると言えなかった。
「アタシは、レオにアタシの体を見て欲しいの」
その告白に喉から変な音が出てしまう。
「恥ずかしがらなくて良いの、アタシに何かしたいなら全部してくれて良いの、見たいのも触りたいのも、全部アンタならアタシにして良いんだから、アタシはして欲しいんだから」
彼女はそうは言うが恥ずかしがっている。それに何をすれば良いかなんてサッパリ分らないし、何をしても大丈夫なのか分らない。
頭が熱で暴走してるかのようにぐるぐると回るが、目は彼女の体から離れてくれない。
「いいの?」
目が揺れたまま、考えも無しにぽつりと呟いた。
聞かれてリーナが腕から手を離し、胸を隠すように腕を組み顔を少し背けて「レオなら好きにしていいわ」と答えた。
その仕草にレオの中でスイッチが入り、本能のままにベッドへと彼女を押し倒す。
「ごめん、分らないけど、なにか我慢が出来ないんだ」
リーナの上にレオが覆いかぶさっている、しかしここから何をすれば良いのかレオには本当に分っていない。
何故自分がこんな事をしてしまったのかも理解できていない彼の顔を、リーナが優しく撫でる。
「アタシはアンタの物なんだから、アンタのやりたい事に付き合ってあげる。それに分らない事があるなら教えてあげる、アンタがこれだけ何にも分らないのはアタシのせいだし……」
顔を赤くしながらリーナがばつが悪そうな顔をした。
「リーナのせいって何が?」
質問に言いたくなさそうな顔をするも、リーナが告白する。
「その、アンタにこういうエッチな知識が入らないように色々隠してたの」
「え、そんな事してたの?」
言われて見れば昔に幾つかの本を「レオには必要ないの」と取り上げられたり、ページが破られていた記憶があった。
当時は然程気にしていなかったけど、そんな事をしていたんだ。
「仕方ないじゃない、当時はレオがエッチな人になるんじゃないかって嫌だったんだから。それに、ここまで知らなくなっちゃうなんて思ってなかったもん」
逆に今の現状に拗ねられてしまった。
あれ、でもそれなら。
「なら、今の僕って嫌い?」
心配になって聞いたその問にリーナが微笑み、僕の首に手を回した。
「そんな筈無いでしょ、今は恋人同士なんだから良いの」
そのまま顔を近づけて唇を重ねる。
「でも、優しくしてね?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます