第五章
16-1 三様の想い
敗北し城へと戻っていたグライズとストレッジの下に、同じく敗北したフラウが帰ってきた。
「お疲れ様でございます、フラウ様」
イヴァンの意識を乗っ取った状態を維持しているストレッジが出迎える。
「ただいま戻った。そちらも失敗したようだな、神器の力でテュポーンを見事に真っ二つにされたよ」
何処か楽しげにフラウはそう言った。
「テュポーンを破壊されたにしては楽しそうに見えますが?」
右腕を失ったままにしているグライズがそう尋ねる。
「そう尋ねる貴方も楽しそうに見えるが?」
フラウに聞き返されてグライズがうっすらと笑った。
「そうですね、確かに実に楽しい。まさかあの時の少年がこれ程までに強くなったとは」
右手を失って空っぽになっている袖を握り締める。
敵の力に笑顔を見せる二人にストレッジが溜息を付いた。
「まぁ、私は然程楽しいとは思えませんが」
「どうした?あれ程の力を見れば魔物として興奮するものだと思うが」
そう聞くフラウにストレッジが手を上げて否定のポーズを取る。
「確かに魔物としての高揚感の様な物はありますが、これも個性なのでしょう、私は今は厄介だと感じるだけです。あの神器二つの力を引き出せるレオ・ロベルトも、異次元の力を手に入れたサナダ リョウも」
強大な力の目覚めを促すのは、魔王の本当の目覚めを起こす為の鍵として必要な事ではあった。
しかし、彼等が目覚めた力は想定を超えるものだ。
「特にサナダ リョウの力は危険です、あのような力は想定しておりません。あの二人の力が合わされば、今の不完全な魔王様では敗れるでしょう。それは我々の存在意義の消滅にもなります、私は決してそのような結末は望みません」
そのストレッジの目は、今までの斜に構え相手を馬鹿にするようだったものと違い、執念の暗き光を宿していた。
「このイヴァンの体を使えば、例えレオ・ロベルトが神器を持っていようと当初の計画は完遂出来ます。後はあのリベールさえ完成すれば……」
ぶつぶつと呟きながらストレッジが部屋から出て行く。
「ストレッジのあんな顔は始めて見たよ。最初からああなら、もう少し彼の事も好きになっていたかもしれないな」
作られて数十年が経って始めてみた顔にフラウが素直に驚いていた。
「あれは魔王様によって最初に作られた四天だからでしょうか、私達よりも王への忠誠心が高いですからね。仰々しい態度の裏は何時もああでしたよ」
「そうだったのか、それに気が付かなかったのは私が私として作られたからだろうか……」
口元に手を当ててそう考えるフラウに、グライズが小さく笑った後に切り替える。
先程まで若者の成長を楽しむ老人の顔をしていたグライズの顔が、鋭く厳しいものと変わった。
「さて、私達とて魔王様の為に作られた存在、私もこのまま負けて終わるつもりはありません。必ずやあの神の力を超えて見せましょう、王が作り出した私の力に懸けて」
「何か策が?」
フラウの質問にグライズがフッと笑った。
「なあに、彼等が来るまで時間は掛かるでしょう。それまでに彼等と同じ様に己の限界を越えて見せます」
そう言ってグライズがベランダへと向かい、己の修行の為に風を纏って飛び立った。
「魔王が生み出した完全なる四天が己を越える、か……」
四天は完全な生物として魔王によって生み出された。
故に元から生物として最も強く、故に最初から限界点に到達している。
だが今は、作り与えられた最強の力を越えねば敵に勝てない。
「我等が死力を尽くしても勝てるか分らない戦い……ああ、やはり楽しい。ケーニヒ、君が今この場に居ないのは実に残念だ、この心躍る戦いを四天全てで迎えられなかったのは本当に残念だよ」
今は亡き小さな炎狼を悼みながらも歓喜に肩が震えていた。
「さあ、私も成すべき事を成そうか。人よ、世界が望み生んだ勇者達よ、我等は我等の全てを持って君達に立ちふさがろう、我等が王の為に」
俺とエイミーは手を繋ぎパーティ会場に戻ってきた。
日はとっくに沈んでおり、戻ろうと思っていた時間からは大きく遅刻している。
会場に入ると急ぎ足でレオがリーナと愛莉を引き連れてやってきた。
「リョウ、遅かったじゃないか、そろそろ呼びに行こうかと思ってたよ」
「ああ、悪い悪い。でも、なあ……?」
俺が隣に居るエイミーに聞くと、エイミーは握る指をもじもじさせた後、顔をほんのりと赤くして逸らした。
その反応にレオの頭に?が浮かび、リーナの眉間が少しだけ寄る。
「うん……?まぁちゃんと告白は出来たようで何よりだけど、今日のお祝いは君が主役なんだからちゃんと参加しないと。ほら、今からガジミール王の挨拶があるから僕達も前に行こう」
「そうだな、遅刻ってのは結構不味いよな。じゃあ、俺ちょっと行って来る」
至極真っ当な内容で急かされたので、エイミーの手を名残惜しくも離し、レオと後を付いてい来る愛莉と一緒に会場の中心へと向かった。
走っていく彼の背中を見ながら、ぼーっと握られていた手をエイミーが指でなぞる。
「で、やけに時間が掛かったけどアンタ達は何をしてたの?」
リーナが詰め寄り問い詰める。
すると、エイミーの顔が恥ずかしがりながらも少々勝ち誇ったような顔になった。
「なによその顔?」
「いえいえ、今まで散々自慢された分お返ししようと思っただけですよ」
エイミーの言葉に「うぐっ」とリーナがたじろぐ。
「今日の、今日なのに?」
恐る恐る聞くリーナに、エイミーが頬に手をやりながらコクリと頷き、その瞬間謎の敗北感がリーナの身を貫いた。
別にこの事に対して勝ち負け等ある訳ではないが、どうも煮え切らない二人の関係を先に付き合っているからと時折からかっていたのはリーナである。
「でもまだ手を出されてないみたいですけど?」と言い返されても「もうアタシ達は時間の問題だし~」と無敵の返しを持っていた。
が、このたった数時間でそれは追い越されてしまっている。
「う~、何で?何でアタシ達はまだなのに~……」
「やっぱりレオさんはそう言う部分が疎いと言いますか、そんな気がしますからリーナさんから積極的に行きませんと」
「そんな、他人事だからって簡単に言われても出来るわけないじゃない」
「それ、そっくりそのままリーナさんにお返しします」
そんなこんなの女性二人の会話が行われているとは知らず、涼達はガジミール王の元へと急ぎ着いた。
「すみません、遅くなりました」
自分の身勝手で遅刻してしまったので、開口一番謝る。
「いや、間に合ったのだから今回は良いだろう。だが若いとは言え、これからはその様な理由で居なくなるのは止めてくれたまえ」
その様な理由?
俺が居なくなった理由をガジミール王が知っている事に隣のレオを見ると、レオが申し訳無さそうな顔をしていた。
「いえ、レオさんは悪くないです。確かに嘘を付くのは下手でバレバレでしたけど、ちゃんとマスター達の事は誤魔化していました」
そう言って愛莉がフォローするが、益々レオは申し訳無さそうな顔をする。
「フフフ、確かに彼の嘘は下手ではあったが、ここは友を責める場面ではないな」
「はい、俺のただの我侭ですから。本当にすみませんでした」
改めて二人に頭を下げた。
「先程も言ったが今回の事は気にしなくて良い、次回気を付けてくれればな。それに、男の顔になった」
「へっ?」
ガジミール王のその言葉に思わず変な声が出てしまった。
「マスターの事カッコいいですって」
愛莉が俺の服を掴みながら笑顔でそう言ったが、ガジミール王の言葉の意味は違う物、と言うより見透かされている気がする。
ガジミール王が「フッ」と笑い、グラスを持って前に出た。
俺達にも飲み物が入ったグラスが渡されていき、皆がグラスを持つのを確認した所でカジミール王が口を開く。
「では私はこの場にて、今一度宣言しよう、我々はここに居る勇者二人と共にある!我等の勇者と、我等の世界の未来に、乾杯!」
「我々の勇者と、我々の世界の未来に!」
ガジミール王の言葉に合わせて、会場に居る皆がグラスを掲げる。
その中で俺はレオの方を見た、レオもこちらを見ていた。
「俺達の勇者に」
グラスを向けると、レオもこちらにグラスを向ける。
「ああ、僕達の勇者に」
「そして」「そして」
「俺達の世界の未来に」「僕達の世界の未来に」
グラスを掲げて当てあい、チーンっと高い音が鳴った。
魔王は一人玉座にて座る。
ストレッジから敵の報告があったが、最早それは気にする事では無かった。
全ては我の為に、四天は我の為に、四天が生みし鍵は我の為に。
「全ては我が因果を越える為に」
玉座に座るそれは魔王として生まれ出でた。
神に、いや世界に、いやもっと高次元な何かによって創られた。
魔王の復活は因果によって確定している。
魔王によって世界が大きく破壊されるのもまた然り。
だが、魔王の因果はそれだけではない。
魔王として生まれたものは、同等の力によって必ず滅ぼされる。
その因果を今こそ越えて見せよう。
「我は魔王、我は世界を滅ぼす者。我が力を持って、神すら、因果でさえ、必ずや滅ぼしてみせよう。我はその為に在るのだから」
魔王は独り玉座にて誓った。
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