15-8 夕焼けに照らされて
皆で朝食を終えた後、軍の人たちには許可を取り、俺達は街の外に出て俺の新しい力の検証を行おうとしていた。
レオ達が見守る中、俺と愛莉が前に出る。
「よし、じゃあいくぞ」
「はいっ、何時でもどうぞ」
「ユニゾン!」
俺の体が光り輝き、髪が赤く染まって眼が金色に変化した。
「その掛け声っているの?」
変化が俺を見てリーナが聞いてきた。
「いやー要るだろ、心を一つにって感じで。それにこういうのはちゃんと叫ばないといけない決まりみたいなのがあるんだ。出来れば技名も言いたいんだけど、流石に掛け声以上は舌を噛みそうだしなぁ」
語る俺をリーナが「まぁ、アンタがそうしたいならそれで良いけど」と組み立てておいた机に肘を付く。
「こうして見ると何となく僕の変化と似てるね」
輝く髪や眼を見てレオがそう言った。
「俺の今の強さのイメージってレオだしな、そりゃ似ちまうさ。青と赤で丁度良いしポーズとかとってみるか?」
「ポーズってどんなの?」
「こう、拳を構えて二人並んで立ったりしてさ……」
「はいはい、遊んでないでさっさとアンタの力の検証するわよ」
ポーズを取り始める俺達を手を叩いてリーナが止める。
「はーい」と返事をしてレオが力を解放し、俺の新しい力の検証が始まった。
休憩みを挟みながら検証は進み、昼が過ぎていく。
流石に俺もレオも本気を出すと辺りが大惨事になりかねないので、共に大きく力を抑えた模擬戦だが、それでも強大な力の応酬に何時の間にかギャラリーが大量に出来上がっていた。
兵士の人達が警備する中、二人の少年の戦いは街や観光の人たちを大きく盛り上げている。
上空で炎と雷がぶつかり合う中で、俺は手を上げて戦いを止めた。
「すまん、ちょっとまた休憩」
「大丈夫?少し前にも休憩挟んだけど」
待ったを見て、一緒に地上に降りながらレオが尋ねてきた。
地上に降りたところでユニゾン状態を解き、光の中から愛莉が出てくる。
「いやー、結構キツイなこれ」
ユニゾン状態を解除すると、それまでは無くなっていた疲れがどっと押し寄せてくる。
「マスターの体はあくまで普通の人間ですから、この力を使っている間は大きな負担が掛かってしまいます。短い時間なら問題ないですけど、やっぱりこれだけ連続して行うのは……」
心配する顔で愛莉がこちらを見上げる。
「ふぅ……」と一息つき、その頭を撫でた。
「もう少し出来ると思ったんだけどな、今日はこれで終わりにするか」
「そうだね、無理する事じゃないし。でも、本当に強い力だった」
涼との戦いの感触をレオが思い出していく。
それまでの戦いで大きな力を得ていたのは分っていたが、実際に戦ってみてその強さを実感した。
「これは僕もうかうかしてたら負けるかもね」
「まだ勝たせる気はないのかよ」
そのレオの言い方に思わず苦笑してしまう。
「勿論、僕だって負けたくないし、勇者の先輩として良い所みせないとね」
「そうかい、じゃあ俺も頑張ってお前に勝たないとな」
そんな会話をしながら周りをくるくる回る愛莉に構いながら帰っていく。
「なに、また休憩?」
「いや、今日はもうこれでお終い」
レオが今日はもう終わる事を兵士の人に言いに行ってくれたので、俺はそのままリーナ達がいる机へと戻ってきた。
リーナは俺が出しておいた炎を調べているが、俺がユニゾン状態を解いた事もあって炎は消えかかっていた。
「お疲れ様です、一応回復はしておきますね」
そう言ってエイミーが俺の疲れを癒してくれる。
「はぁ~……神器もあって3倍癒されるー」
「なんかお兄ちゃんおじさんみたいな声出てるよ」
光に包まれて癒される俺を見て、ロンザリアがケラケラと笑った。
「にしても、本当に変なというか不思議な力を貰ったものね。これが神の力ってやつなのかしら」
炎が消え、リーナが「んー」っと伸びをする。
リーナが言うように俺の力なんとも不思議な力だった。
固い炎を出したり、何となくで空が飛べるようになったり、自分の体を炎にしたり、人を回復させる炎を出せていた時点で何でも出来るなと思っていたが、本当に何でも出来てしまう。
俺が出しているのは炎の見た目をしているだけの万能魔法の様な物で、手癖で出してしまっている魔法陣も別に必要の無いものだった。
というかこんな魔法は常識的に考えて存在しないので、それに対応する魔法陣なんて物も存在しない。
一応魔力は使っている為に魔法とは言えるのだが、やろうと思えば灼熱の炎で相手を凍りつかせる事だって出来る不思議攻撃なんて、どんな原理なのか使っている俺にもさっぱりだ。
しかし、応用性が高いからとあれもこれもと手を出すよりも、グライズ戦で噛み合ってきた自分の戦い方を磨いて、その上で能力を応用していくのがいいだろう。
戦っている最中に何度か試しても魔法陣も出した方が攻撃の速度も精度も上だったし、教わり鍛えた使い方が一番の俺の力の使い方だ。
この力の唯一の欠点と言えばこの解除した後の疲労感だが、愛莉曰く全力の戦闘を繰り返しても一時間近く大丈夫だそうなので、別に気にするような欠点でもないだろう。
ギャラリーが兵士の人に言われて解散していく中、俺達も街に戻って行く。
夕飯も終わり夜も更けてきたところでラウロさんが宿にやって来た。
「うぃ~っす、まだ起きてるな」
「こんばんは、何かありましたか?」
それなりに遅い時間の訪問に何かあったのだろかと尋ねる。
「おう、あったぜ、色々あったぜ。んでリョウよ、お前の授与式の日程が決まったぜ」
「え、早くないですか?」
俺が勇者の称号を貰う授与式があるって話は、昨日所か今日聞いた話なのにもう決まったのか。
「まぁな、元々今回の会議自体が魔王軍に対して集まりだったのが、なんやらかんやらでイマイチぱっとしない状態が続いていたから、そこを勇者を増やす事で区切りビシッとやり直したいんだろう」
そういや今世界が集まってるのって勇者レオが現れた事で世界を纏めようって話だったな。
そのレオが居なくなったり何だったりで会議は大分停滞していた事だろう。
「んな訳でお前の式は明後日に決まったからよ、レオの時と比べたらちょっと地味になるかもしれねぇが、バッチリ決めてくれよ?」
「はい、任せてください」
答える俺を見てラウロさんが笑いながら「任せたぜ、俺達の勇者」と肩を強く叩いて帰っていった。
明後日か……
その日、正式にと言えば良いのだろうか?世界的にも認められた勇者になれる。
それは俺にとっても大きな一歩とも、区切りとも言える。
あの時に保留した答えを伝えるタイミングな気がした。
日が経ち俺の勇者の称号の授与式がちょっとしたパレードの後、会議場前の広場にて行われた。
俺は異世界出身だが、今はイサベラに所属しているという事でイサベラ主導での式だ。
そこまで大きくない広場には、あの山と見紛う巨人を打ち倒した二人の勇者を見ようと多くの人が詰め掛けている。
クラウディオ陛下が人々に演説を行い、先日の戦いへの哀悼と後の戦いへの決意を述べ、俺の名前が呼ばれた。
「あの四天フラウが駆るテュポーンと名付けられたの巨大な力に、異世界から来た彼は彼の世界の言葉である勇気を持って戦い、更に神から託された力は多くの兵の命を救う奇跡を起こした。彼の功績は私達の最大の敬意を持って応えなくてはならない。では、リョウ サナダ前へ」
「はい」
呼ばれて前に出て跪く。
「君に勇者の言葉を教えてもらった日、まさか君にその名を与える時が来るとは正直な話思ってもみなかった。だが今は、この名が君に相応しいと心から思えるよ……イサベラ国王クラウディオの名の下に、リョウ サナダに勇者の称号を授ける!」
王の宣言と鳴り響く拍手の中で、立ち上がった俺の胸へと勲章が贈られた。
勇者となった俺の横へと、レオがエイミー達3人を連れてやってくる。ロンザリアは何処か遠くで見ているのだろう。
「おめでとうございます、マスター」
「ありがとう。行くぞ、ユニゾン」
俺の体が光り輝くと同時にレオも力を解放する。
赤と青に光り輝き、迸る強大な力に観衆がどよめいた。
世界を代表してガジミール王が前に出る。
「この星は今、魔王という大きな脅威に瀕している。しかし、ここに奇跡と言うべき二人の勇者が並び立った!異世界からもたらされたその言葉は我々と共に戦い、悪を許さぬ力となる!最早人も魔も関係は無い、我々は同じ世界に生きる物としてここに宣言しよう!我等の星の未来を守る為、我々は彼等と共に勝利を掴んでみせる!!」
王の言葉に大歓声が巻き起こった。
勇者として見たその光景に、喜びよりも大きな責任を感じる。
勇者になった喜びはあの日の宿で仲間に祝われた時に感じたが、神に選ばれ力を得て、世界の命運を背負った重さをここで実感した。
その重さは本当に重い物だったが、それを受け止められるようになった自分を我ながら誇らしく思えた。
今の俺なら何でも出来そうな気がする。
式が終わりパーティが行われていく中で、折を見て俺は一人そこから抜け出していた。
これは式が始まる前から決めていた事で、レオにも何かあったら誤魔化してくれるよう頼んでいる。
場所は何処か悩んだが、この街にあまり詳しくないので、結局俺達用に貸し切られている宿の部屋にした。
窓から夕焼けの光が差し込む部屋の中で、銀色の髪を美しく照らしたエイミーが一人待っていた。
「ごめん、待たせた」
「いえ、お待ちしておりました」
そう言うエイミーの頬はほんのりと紅く染まっている。
これは夕焼けに当たっているからだけではない。
彼女は待ってくれている、多分今日だけではなくもっと前から長い間待っていたのだろう。
なら、俺のやるべき事は決まっているし、その為にここに呼んだ。
しかし、中々言葉が出てこない。
勇者になったと言うのに、世界の命運を背負ったというのに、女の子一人の前に緊張してしまっている。
どうした、どうした、言わないと。
……あれだ、いきなり言おうとするから言えないんだ。
グライズ戦と一緒だ、大技を最初から狙うと通用しない、まずはジャブ、牽制、細かく自然に持っていくんだ。
「あー……あれだな、俺達結構長くて遠い旅をして来たよな」
俺の言葉が思っていたのと違った言葉だったので、エイミーが一瞬キョトンっとしたが、会話に乗ってくれる。
「そうですね、まさか外国どころかヘレディア様に会いに行ったりするとは思いませんでした」
「本当にな、最初は俺が魔法学校に入るまでの旅の予定だったのにな」
「その最初の予定も私にとっては大きな旅の筈でした、それだけでも私の世界が広がる大きな旅」
エイミーが手を胸の前に置き、旅を思い返していく。
「幾つもの発見と出会いと経験と一緒に、大きな困難も沢山ありました」
「毎回俺も皆もエイミーには助けられてばかりだったよ。俺の腕とか二回も元に戻してもらったしな」
過去の大怪我を笑う俺を見て、エイミーもつられて笑ってしまう。
「笑っていますけど、毎回本当に心配してたんですからね。最初の時も体に大穴開けて気絶してたりして」
「ああ、そういやそうだったな。何か思い返すと毎回俺は死にかけてる気がするな……」
戦いの記憶を思い出すと大体酷い目にあっている気がする。
「一度女装した事もありましたね」
「それは忘れてくれ」
それもある意味酷い目だ。
「ふふふっ……ふぅ。リョウさん、シエーナ村を救ってくれた夜の事は覚えていますか?」
笑うエイミーが一息ついて聞いてきた。
その日の夜と言うと……
「ああ、いや、覚えてはいると言えばいるけど、あんまり詳しく覚えていないというか……」
「あ、いえ、その事じゃなくてですね、ベットで話した内容の方を」
眠っているエイミーの胸を揉んだ事を思い出して、しどろもどろに答えていた俺にエイミーが訂正した。
「ああ、そっちか。そっちなら覚えてる。確か俺の世界の物語の話とかしたんだよな」
「はい、そこで初めて私は勇者という物を知りました。それは私が夢に描いていた人にとても近くて、ああ、こんな人が実際に居るんだと思いました」
とても幸せな顔で夜を思い出していく。
「あの夜、寝てしまう前の最後の会話は覚えていますか?」
最後?
「うーん……いや、何だったかな?」
思い出せない俺に、覚えているエイミーが教えてくれる。
「私はリョウさんは勇者になる為にこの世界に来たのですか?と聞きました」
「ああ……何か言われたような気がするな」
でも、眠りかけだったからハッキリとは覚えていない。
「それにリョウさんは途切れ途切れですが、今は違うと答えました、俺は勇者なんかじゃないと。それを聞き、私は言いました」
言葉を区切り、あの時聞けなかった言葉をもう一度告げる。
「いいえ、リョウさん、あなたは私の勇者です」
その言葉に驚く俺に、エイミーが想いを告白する。
「リョウさん、私はあなたの事が好きです。あの日から、ずっと好きでした。この想いを受けてくれませんか?」
少しだけ思考が止まっていた。
だが、直ぐにまた動き始めた。
「……先に、言われちまったな」
俺の言葉にエイミーがハッとなった。
「あっ、すみません。でも我慢が出来なくて……」
恥ずかしそうに顔を俯かせる。
「いや、俺が悪かった」
そのエイミーを抱き寄せた。
「俺もお前の事が好きだ。お前の想いは確かに受け取った」
「はい……大切にしてください」
「ああ……約束する」
答えてエイミーの青い瞳を見ると、その瞳が瞼で閉じられた。
自然と顔を近付け、唇を合わせる。
人生で始めての、大切な人へのキス。
また一歩、俺は前に進めた気がした。
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