14-7 託された奇跡
目の前に差し出されたのは神の力。
眩い光がその途方も無い強さを示しているようだ。
これは確かに自分が欲していた物ではあるのだが、いざこうして差し出されると自分が受け取って良いのかと躊躇ってしまい仲間の方に振り向く。
するとリーナから「早く行け」と言わんばかりに顎で促し、エイミーは期待し祝福するような目でこちらを見ている。
そしてレオは強くハッキリとした瞳と笑みで頷き、こちらを後押しした。
女神の方に振り返り、その光の珠を見て、一つ深呼吸を挟む。
「では、頂戴致します」
やけにかしこまった言葉と共に手を差し出した。
その手に女神が光を送る。
光が手に触れた瞬間、全身の毛の先まで迸るような衝撃が走った。
「うおっ!?」
「貴方は別の世界から来た為に、この世界に生きる者の為に作られた星の力を持つ神器を使う事は出来ません。しかし、他の世界から来たが為に、この星そのものと繋がり力を得ることが出来ます。今、貴方から生まれる命はその橋渡し、この世界との絆をどうか大切になさって下さい」
一歩、二歩と女神が後ろに下がり新たな命の為のスペースを開ける。
俺の頭の中には莫大な情報が駆け巡っていた。
正直処理が追いついてないが重要な事はちゃんと理解できる。
今、俺の命と世界が混ざり生まれる新しい命。
それと合体することで星から生まれた神器の力を超えた、星その物の力を俺が使えるようになるらしい。
その新しい命の見た目は俺のイメージに掛かっている。
何かと合体して強くなるか……何となくその相手は猫とかマスコット的な小さく可愛らしい物を想像するな。
こう、ご主人とかマスターとか言うような感じの……
その他幾つかの少年が思い浮かべる要素が混ざり合い、光が広がって新しい命が生まれた。
生まれた子は最初の想像と大分違う見た目をしていた。
生まれたのは黒く長い髪の10歳そこらな小さな女の子だった。
その子が目を開き俺を認識して、明るい笑顔を咲かせて言った。
「始めまして。これからよろしくお願いします、マスターっ!」
不味い、色々と不味い。
生まれたのが小さな女の子なのはこの際いい。いやロリっ子だし、猫耳に尻尾まで生えていて色々アウトだがこの際置いておこう
不味いのはその服装だ。
光から出てきた彼女は裸である、全裸である。
その全裸のロリから「マスター」なんて言われてしまったのである。
急ぎマントを羽織らせ振り向くと。
「マスターって……アンタ、そんな趣味だったの?」
ジトーっとした目でリーナがこちらを見ていた。
「いや、違うぞ!俺は猫とかマスコットとか、何かそんな風なのを想像してだな」
「猫にしたってマスター呼びはどうなのよ?」
「俺の元の世界だと割りとそんなのだったんだって!」
そんなやり取りをしていると、エイミーが何処かギクシャクとした言い方で女神に尋ねる。
「この子はリョウさんの、どのような思いで生まれた子なのでしょうか?」
その問が何故こうもギクシャクしているのか女神には分らず、そのまま普通に答えてしまう。
「あの子は涼さんのパートナーとして、彼の一番の理想を体現した子です」
その答えにエイミーが膝から崩れ落ちた。
「やっぱり、リョウさんは子供体型の方が好みなんですね……」
「え~、それ本当~?なら何時でもロンザリアに言ってくれて良いのに~」
項垂れるエイミーの横で、ロンザリアが分っていながらからかって来る。
「待て待て、それは流石に誤解だ!この子の事を考える時に、何となく小さくて可愛いほうがそれっぽいと思っただけだ!と言うか元に考えてたのは猫だからな!」
弁明する俺の姿を見て、少女も協力する為に前に出た。
「そうです、マスターは私をエッチな考えで作ったりしてません。それにマスターの大好きな人はエイ」
「わっ!!」
まさかのぶっちゃけを開始しようとした少女の口を押さえて遮る。
が、そんな物で誤魔化せる事ではない。
「リョウさん、さっきのは?」
項垂れていたエイミーが顔を上げ、何か期待する目でこちらを見ている。
「あ、いや、その、あれだ」
「モガモガ」言う少女の口を押さえながら、必死に何か誤魔化す答えを考えるが、何も浮かんでこない。
そんな俺に向かって、ぐっとレオが拳を握った。
「リョウ、ちゃんと思いを伝えれば大丈夫だよ」
野郎、いつかの返しのつもりか。
でもレオの言う通りと言えばそうなのかも知れない。エイミーはこうして待っている。
なら、言わなく……いや待て!
一度落ち着く為に深呼吸を挟む。
「……俺の気持ちは伝える。でも、今じゃなくて良いと思うんだ。後で絶対に伝えるから、それまで待ってくれないか?」
その言葉にエイミーは少し考えて頷いた。
「はい、待ってます」
言ったからには後戻りは出来ない。でも、後悔はない。
寧ろすっきりしてる。引っ掛かってたものが取れたようだ。
ちょっとした余韻に浸っていると、少女がぺちぺちと俺の手を叩く。
「おっと、ごめん」
手を離すと「ぷはー」と少女が息を吐いた。
「ううん、私こそごめんなさい。これはちゃんとマスターが自分で言わないとね」
まぁ確かにそれはそうなんだが……
「なぁ、そのマスター呼びっての止めないか?」
そう言うと少女はむすっと頬を膨らませて嫌そうな顔をした。
「マスターはマスターです」
うーん、これって俺が言わせてるって部分があるんだろうが、本人がマスター呼びの方が良いならそうした方が良いのだろうか……
「あ、一つマスターにお願いがあるんですけど」
悩んでいると少女が目を輝かせて頼みごとをしてきた。
「ん、なんだ?」
「私に名前を下さい!」
「そうか、名前ないもんな……」
名前、名前か……何が良いかな?この世界に合った名前のほうが良いよな……
「何か良い名前とかあったりする?」
子供の名前なんて考えた事も無いので、思わず周りに聞いてしまう。
すると、この騒動で落ち着きを取り戻したアンナさんが腕を組んで優しい声で答えた。
「その子の名前はリョウ君がキチンと考えてあげた方が良いんじゃないかしら?もしも考えた名前が変な名前だった時は注意してあげるから」
そうか、そうだよな。
俺がある意味親みたいなものなんだし、俺がちゃんと付けてあげないとな。
少女に向き直る。
少女は期待を込めたキラキラとした目でこちらを見ていた。
そうだな、女の子だしな、愛は入れて良いんじゃないだろうか。
そして、この世界にも合うような、俺の故郷の名前と言うと……
「……決めた、君の名前はアイリだ。真田 愛莉ちゃん」
その名前にアイリの笑顔がパッと弾けた。
「はいっ!真田 愛莉、改めてよろしくお願いします。マスター!」
新しい名前にレオが拍手を送り、皆もそれに続いた。
「良い名前を貰いましたね」
「うんっ!」
新しい命が祝福の中に包まれ、愛莉が一人一人に自己紹介を行っていく。
「アイリちゃんの服を何処かで買わないとですね」
「まっさか裸で出てくるとは思わなかったわ」
「マスターは悪くないです。マスターは子猫ちゃんを考えてたから服まで考えてなかっただけなんです」
「子猫ねー……」
リーナがピョンッと跳ねた愛莉の耳をつんつんと触り、「キャー」と愛莉が照れている。
「さて、貴方達にはこれから神器を受け取りに行って貰おうと思うのですが」
「アイリちゃんの服を買ってからの方が良いでしょうね」
「そうですね、島へは塔からなら空間転移して移動することが出来ますから、準備が整ってからもう一度塔までいらして下さい」
「空間転移……え、別の場所へ移動できるという事ですか!?」
その言葉にアンナさんが食いついた。
「その方法を教えてもらえたりは出来ないでしょうか?」
「私のは異空間同士である塔と島を繋げているだけなので、転移魔法とは違います。しかし、転移魔法自体はは神器を使い、レオさんと涼さんのサポートがあれば使うことが出来るでしょう」
「本当ですか!?凄いわ、凄いわ、理屈では可能とは言われてたけど、レオ君リョウ君、私達空間を越える事が出来るようになれるそうよ!」
アンナさんがこちらに跳ね上がり歓声を上げている。
空間転移魔法か、最初の頃は絶対無理だとリーナが言ってた魔法も出来るようになってしまうのか。
でも、そうなると一つ気になることがあった。
「ヘレディア様、その転移魔法は俺の元の世界まで行ける様な物なのでしょうか?」
その問に女神は首を横に振った。
「いいえ、その魔法はあくまで長距離を移動できるだけで、世界を渡れる程の力は出せません。それに他のどんな力を使っても、世界を渡るのは不可能だと思った方が良いでしょう。貴方が世界を渡れたのは無限に等しい数の偶然が重なった結果ですから」
「そうですか……」
残念といえば残念だ。
里帰りとか、墓参りとか、色々としてみたいと思ったが、こればかりは仕方ないか。
「では、こちらに出口前までの通路を作りますので、帰りはそこをお通り下さい」
女神が手を振ると、空間にドアが一枚現れた。
試しに開けてみると、そこは塔の一階に繋がっていた。
「最初からこれで良かったんじゃない?」
皆が通り抜けて扉が消えたところで、便利な扉に思わずリーナが文句を言ってしまう。
「この長い塔はヘレディア様の異空間の安定の為と、皆さんがそこに入る為の慣らしの意味があるんです。直接一番上まで行ったら体がバーンって爆発しちゃうかもしれないんですよ」
その文句に愛莉がちょっと怒り気味に答えると、リーナは素直に謝った。
「あ、気にしたならごめんね。意味があるなら別に良いのよ」
「分ってくれたならよろしい」
何でか愛莉は胸を張っている。
「ここだと通信機が使えないみたいだし、出たらちょっとバルトロ達に連絡しておこうかしら」
そう言ってアンナさんが正面の扉を開いた。
開くと同時にアンナさんが持っていた通信機に反応が出る。
「あら、向こうから連絡があったみたいね。ちょっと私は連絡とっておくから、皆は先に行ってて」
「はーい」
と返事をして進むものの、船がないのでこれからどうしようかと言った状況に。
「これどうすんの?上に花火でも上げて連絡取る?」
「そんな事しなくてもヘレディア様が道を作ってくれますよ。あ、でもほら船も来ました」
アイリが指差す方に行きに乗った船がやって来ていた。
タイミング良くて助かると思ったが、その船に乗っている人たちの表情を見て、その気持ちは吹っ飛んだ。
アンナは通信機の水晶を片手に応答を待っていた。
「アンナか?」
通信機の向こうからラウロの声が聞こえてくる。
「そうよ、やっと繋がったわね。と言ってもこっちが繋がらない場所に居たんだけど。それで何かあったの?」
「……いや、単にあいつ等が何やってるのか気になってな。どうよ、旅の調子は?」
微妙に間が合った後にラウロがそう答えた。
「旅は順調よ。ちょっとトラブルもあったけど、あの子達は上手くやってるし、今日はヘレディア様にも会ってリョウ君なんて凄い力を貰ったのよ」
「そうか……」
何故だかやけにラウロの口調が優しい気がする。
「ねぇラウロ、何かあったんじゃないの?」
「そんな事はないって言ったろ、あいつ等すげぇなって思ってるだけさ。んで、これからの予定は?」
「これから神器を貰いに行く予定だけど、バルトロの方にも変わってくれない?」
「いいや、バルトロには俺から言っておく。じゃあ俺達も頑張るからよ、あいつ等に伝えておいてくれ。お前等なら出来る、俺が保障してやるってな」
その言葉を最後に一方的に通信が切られる。
「なんなの、向こうで何が起こってるの……」
アンナの心に疑問の渦巻きだけが残った。
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