15-1 覚醒の時
イサベラの港町ヴィエステ近くの海の上に、イヴァンの体が浮いている。
「フラウ様とテュポーンの方は上手く行っているようですね」
ストレッジと、それに繋がっているイヴァンはテュポーンの目を通して、凄惨なる戦場を見ていた。
一歩を踏み出す毎に大地が爆ぜ飛び、テュポーンの指や肩から放たれる光に逃げ惑う人々も立ち向かう人々も全て区別無く消えていく。
「あの巨人は一体何なんだ?」
「あれは我々が作り出したゴーレムです。魔力消費の関係上3日程しか持たず、その時間が過ぎると自重で崩れてしまう代物ですが、あのレオ・ロベルトでも止める事は出来ないでしょうし、視覚的にも恐怖を煽れるテュポーンは今回の様な目眩ましにはうってつけの代物ですね」
何のことは無いと言わんばかりにストレッジがテュポーンの解説を行っていく。
「あれが目眩ましか……あんな物まで作って、本当に世界を滅ぼすつもりなのか?」
「当然です、我等は全てその為にあるのですから」
この世の終焉とも思える破壊の様を見て、ようやく自分が何に加担しているのかをイヴァンは理解した。
しかし、もうそんな事はどうでも良い。
端正とも言えた顔もは醜く変異し、とっくに人としての生き方を捨てさせられたイヴァンは、もう世界がどうなろうと知ったことではなかった。
ただ、自分をこんな目に合わせた奴等を全員殺せれば何でも良かった。
「さて、私達も私達の仕事をするとしましょう」
「分ってるよ」
ストレッジと同化して大幅に強化されたイヴァンの魔力が闇となり、両手に宿る。
その手を空間に突き刺し無理やり押し広げた。
ビキビキと音を立てて何も無いはずの場所にひびが入っていく。
「神が封印した空間、それはどれだけ隠そうと本当に消える訳ではありません。長い間に人が記した海や航路の記録を細かく見れば空間に歪が見えてきます。それを今の貴方の力を持ってすれば」
イヴァンの力によって神の封印が砕け散り、島が世界に出現した。
「では行きましょうか、神がここまでして隠していた神器の元に」
船に乗って神の塔に来たヨハネス大司教は緊急事態だと言った表情でこちらに走ってきた。
流石に年なのもあって息を切らしているが、その緊迫した表情を見れば何かがあった事ぐらい予想が付く。
「大司教様、何かあったのですか?」
レオが大司教の体を支えて尋ねる。
「はぁ、はぁ、ありがとうございます。先程フレージュから連絡がありました、皆様はもうヘレディア様とは?」
「はい、お会いして色々な話を聞かせて貰いました」
「それは良かった……」
大司教が息を整える為に一呼吸を置く。
「フレージュから魔王軍の襲撃を受けているとの連絡がありました。詳細は不明ですが途轍もなく巨大なゴーレムが港町に出現し、その街を滅ぼして尚も移動中とのことです。幸いとも言うべきか各国からの戦力は集まっておりましたので防衛を開始しているとの事でしたが、正直戦況は芳しくないと」
現在のフレージュの状況に大司教の顔が暗く沈む。
「途轍もなく巨大なゴーレムって、どれ位の大きさなんですか?」
「正確な大きさは不明ですが、目測で400m近い巨大さとの事でした……」
400m!?過去の世界で魔王が作った巨人は暴れていたが、あれですら2、30mと言った大きさだったのに、その数十倍はデカイのか。
「また凄まじいのが出てきたわね。何にせよ助けに行かないと、でも飛空艇で行っても距離が遠いし……」
口に手を当ててリーナが方法を模索しているが、先程リーナが参加してなかったヘレディア様との会話の中に丁度良い移動方法があった。
それを言おうとした時、愛莉がピクリと反応して、愛莉の口からヘレディア様の声が発せられた。
「皆さん大変です、島の封印が破られました。急ぎ塔まで戻ってきてください」
「なに!?」
「このタイミングで?いや、このタイミングだから?」
どうやって封印を破ったかは知らないが、恐らく島を襲ってるのも魔王軍に違いない。
態々同じタイミングで二箇所を襲って、しかも片方は派手にやってるって事は目眩まし目的なんだろう。
確かに数日前までなら、その巨人との戦いで神器を奪われた事も気が付かなかったかもしれないが、今の俺達には解決手段が揃ってる!
「とにかく一度塔に戻るぞ」
「フレージュの方はどうすんのよ?」
「ヘレディア様に島に送ってもらって、そこで神器を手に入れたら俺達は空間の転移魔法が使えるようになるんだとよ。だからその時は頼んだぜ」
「え、転移って、え!?」
突然出てきた転移魔法の言葉にリーナがアンナさんと似たような感じで驚いているが、今は時間が少しでも惜しい。
「驚く前に急ぐぞ。そうだ、俺達が神器を持って向かうことをフレージュに伝えてもらうって事は出来ますか?」
俺の言葉に大司教が頷いた。
「わかりました、彼等にそう伝えましょう。それではご武運を」
「任せてください!」
来た道を走り戻っていく。
するとアンナさんがこちらにやって来ていた。
「どうしたの、戻ってきて?」
「フレージュと島が魔王軍に襲われてるんですよ、詳しくは塔の方で説明します」
俺が走りながら伝えると、アンナさんの顔が「やっぱり」と言った顔になって俺達と一緒に塔に走った。
塔に着いて女神が転移の準備をしている間に、聞いた話をアンナさんに伝えた。
「ラウロの奴、こんな時にカッコ付けてるんじゃないわよ」
「先程の通信はどんな内容だったんですか?」
爪を噛むアンナさんにエイミーが心配そうに尋ねる。
「私達の事だけ気にしたりとか、こっちは気にしなくて良いとか、そんな感じ。バレバレなのよ……」
少しして、塔の中に女神の声が響いた。
「お待たせしました。これより転移を行いますが、島の結界が破られている為に転移先が若干不安定なのと、敵との交戦を考えて上空に転移いたします。準備はよろしいでしょうか?」
「はい!」
「では、この世界を頼みます」
女神の言葉と共に足元に魔法陣が展開し、過去の世界に行った時と同じ様に島へと転移した。
島の上空、雲よりは下に転移が完了する。
そのまま降下して行こうとしたが、島の近くで魔法陣が展開され暴風の刃が放たれた。
「攻撃、させない!」
レオの髪が青白く輝いて眼が変異し、魔力が膨れ上がる。
暴風の刃に雷を叩き込み相殺させた。
ぶつかり合った魔法のエネルギーに空が振動する。
上空に出現した涼達を島の少し上に浮かんでいるグライズは見ていた。
「空から来たのは貴方達でしたか。しかし、ここは通すわけにはいきません」
グライズが舞い上がり、無数の魔方陣から疾風を放つ。
それをレオが迎撃していくが、絶え間なく仲間を狙って放たれる魔法の前に防御で手一杯になっていた。
反撃に出ることも出来ず、このままでは島から離されてしまう。
でも、今の俺なら!
「愛莉、行くぞ!」
「はいっ、マスター!」
手を前に出して吼える。
「ユニゾン!」
咆哮と共に愛莉の体が光の粒子となって涼の体に溶け込む。
星と繋がり魔力が膨れ上がると同時に、髪が赤く燃え盛り、瞳は金色に変色した。
「この力、これならやれる!」
愛莉に渡していたマントを纏って、突き出した手の前に巨大な魔方陣を展開する。
「くらいやがれ!!」
放たれた灼熱の大炎槍がグライズの風を飲み込み、意表を突かれたグライズすらもその炎の中に飲み込んだ。
「なんと、これは!?」
途方も無い熱量がグライズの身を焼いていく。
炎の中のグライズが歯を食いしばり魔方陣を展開し、炎を切り裂いた。
「油断……とは言いません。しかし、あの時の少年がこれ程までに」
見上げる上空に炎を纏い、赤い髪を輝かせる涼が立っている。
その涼自身も、自身の力に驚いていた。
最初に、愛莉を生み出す時に知識として力の強さを知っていたが、実際に魔法を放ってみて託された力の強さを理解した。
ずっと、ずっと遠くて、届く事はないと思っていた領域に足を踏み込んだ。
嘘でも見栄でもない、今の俺ならあいつと一緒に戦える。
「グライズは俺が引き受ける!」
涼の言葉にレオは悩まずに頷いた。
「わかった、ここは任せた!」
レオが風を生み出し、皆を島の方へと飛ばしていく。
飛んで行く中でエイミーが拳を前に出した。
「リョウさん、ファイトです!」
「おう!」
それに拳を上げて答える。
「さてと」
グライズはこちらを待っていた。
顔は何処か楽しそうにも見える。
余裕の表れ……って訳ではなさそうだな。
グライズと対峙しているだけなのに、相手の力で空間がビリビリと震えるようだ。
目の前に居るのは、嘗て手加減をされた状態ですら文字通り手も足も出なかった相手。
その相手が本気を出した状態で自分と戦おうとしている。
その事が嬉しくないと言ったら嘘になる、心の昂ぶりと同時に纏う炎が更に燃え盛った。
「バルレッタでの借りを返させて貰うぜ!」
手を振るって創り出した炎の剣を構え、四天へと突貫した。
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