12-4 闇からの誘惑
俺達は街へと急ぎ戻ってきていた。
戻り魔王軍が来るかもしれないと伝える為にバルトロさんを探している。
「オッス、お前等そんな急いで何してんだ~?」
何やら楽しそうな事をやっていそうだと、ラウロがこちらを見つけて話しかけてきた。
「ラウロさん、バルトロさんが何処に居るか知りませんか?」
聞かれて答えるレオにラウロが周りを見渡す。
「バルトロ?あー……多分向こうには居ると思うけどさ、何かあったのかよ?」
一番しっかりしてそうなバルトロさんを探していたが、別にラウロさんでも問題ないか。
しかし、事の発端がロンザリアってのはどうするか……
「えっと、俺達の知り合いが魔王軍のイヴァンに襲われたんです」
「イヴァン?あーあの脱走兵か、そいつは一人か?」
「今のところは多分」
「多分か……他に情報って言うか、その知り合いは何処に居るんだ?」
何処にいるかと言うと街の外なんだが、ロンザリアに会わせる訳にもいかないし、ここは適当に誤魔化そう。
「今は宿のベッドで寝てます、こっぴどくやられたみたいなんで今は安静に。そいつが持ってる情報はちゃんと伝えてくれたのでそこは大丈夫です」
「寝ちまってるのか、まぁ情報はお前等が持ってるなら良いか。よっしゃバルトロとも合流して作戦考えるか」
あるであろう魔王軍の攻撃に備える為に、ラウロさんと共にバルトロさんとアンナさんにも合流し話し合う。
その中でイヴァンが詳細は分らないが、何らかの新しい強さを手に入れていることを伝えた。
「イヴァンがこの街に……自分がもっと彼の事を気に掛けておければこんな事には」
「悔やんでもしかたねぇさ、んな事より今は魔王軍だ。呪具の対策ってのは大丈夫なんだよな?」
「それはアンナがリーナさんと協力し既に対抗装置は作っておりますので大丈夫かと」
ヴィットーリアでの滞在中に、リーナは呪具の場所を示す装置や今までの研究結果により、呪具が作動する前に発見できる装置を作り出している。
これさえあれば発動に時間が掛かる呪具は殆ど無効化出来たと言っても良いだろう。
「今の所これに反応はないから呪具は持ち込まれてないみたいね」
アンナが手の上で大き目の箱に付いたコンパスを弄りながら答える。
「前はリョウ殿が位置を特定し阻止しましたので、潜伏目的の為に持ち込まなかったのかもしれませんな」
「てー事は、今のところそいつは一人でここいらに隠れて何するつもりなんだ?」
「うーん」と考えるも答えは出ない。
「一先ず自分は各国の方々に魔王軍が来るかもしれないとの連絡をしてきます、アンナも呪具の説明の為に付いてきてください。ラウロは捜索の指揮をお願いいたします」
バルトロの指示に二人が了解と頷く。
「んじゃお前等もそいつの捜索の手伝いをして貰うか。何かそいつの特徴とか人相書きとかはあるか?」
「はい、ちょっと待ってください」
ラウロに言われてエイミーが部屋の机から紙とペンを取り出し、イヴァンの似顔絵を描いていく。
「へー、結構上手いもんだな」
そうラウロが言う絵は簡単に描いた割には特徴を捉えている分りやすい似顔絵だった。
「旅を出る前は絵の勉強もしてましたので」
少し照れくさそうにエイミーが答える。
「ようし、俺は他の兵の奴等と一緒に街の捜索に出るからお前等は宿で待機していてくれ」
「僕達も手伝います」
レオがそう申し出たがラウロは首を横に振る。
「いいや、お前等は宿で休んでろ。狙いがお前等って可能性が高いなら、下手に動くより宿に居てもらった方がこっちも楽なんだよ」
「そうですね……分りました。では、僕達は宿で休んでいます」
「おう、こっちは俺たちに任せとけ」
ラウロさんの言うとおりに俺たちは宿へと戻って行った。
バルトロさん達により各国の代表へと魔王軍が接近している恐れがある事の知らせが行き、街の警備の警戒が強まり捜索が行われたが、その日はイヴァンの足取りを掴むことが出来なかった。
日が変わり連合会議の日となる。
「魔王軍が来る可能性を考えて会議は延期にした方が良いのでは?」と言う意見も出たが、魔王軍の圧力に屈するわけにもいかないとして、厳重な警戒の中で会議を行うことを決定した。
そう、決定し行おうとしていた。しかし、会議は始まることはなかった。
「やあ、リーナ。久しぶりだね」
会議の場へと向かう俺達に男が話しかけてきた。
「イヴァン!?アンタ、どうして」
黒髪のその男は正面から堂々とやってきた。
「今の上司の命令でね、レオに会いに来たんだ」
そう言いながら手で髪を掬い、同時に髪の色が金色へと戻っていく。
「魔王がお前を仲間にしたいと言ってる。お前にとっても悪い話じゃないさ、お前の力を全て好きに使える場所が用意される、欲しいものは全部貰える、お前の命の保障だってされる、お前は俺と同じ選ばれた人間になるんだ。さあ、俺と一緒に行こう」
イヴァンは笑顔のまま何も悪びれる様子も無く、さも当然に良い事を言っている様にレオへと話しかける。
「断る!」
レオがそれを跳ね除けた。
「選ばれた人?そんな物になって何になるんですか!誰かを裏切って、誰かを傷つけて、そんな事をして貴方は何を目指してるんですか!?」
レオの言葉を聞いてイヴァンが大きく笑い始める。
「アッハハハハ!良いよなぁレオはそうやって格好良く言えてさ、そうだよなぁ、お前は最初から選ばれた側だもんな!」
そう歪んだ笑顔を浮かべながら大声で笑っていく。
その異様な雰囲気に周りの人たちも何事かとどよめき始めた。
その中からラウロが大斧を振りかざし飛び出してくる。
「おおっと」
イヴァンが剣を抜き、それを逸らし避けた。
大斧が地面に叩きつけられ土煙が舞う、ラウロがそれを持ち上げる斧で払いイヴァンを睨みつける。
「てめぇがイヴァン・サレスだな、ケッ、話で聞いたよりも腐った顔してやがるぜ」
「あぁん?」
ラウロの挑発にイヴァンが怒りに顔を歪めた。
「てめぇの事を他の国の奴等に話したら、てめぇが目撃された悪事が幾つか出てきたぜ。全部が全部、魔王軍でもやってねぇようなクソみてぇな話だったけれどよ!」
ラウロが大斧を構え、祈りでの強化の光がその身と武器を包み込む。
「強姦、殺人、誘拐、他にも色々あるんだ、てめぇはここでぶった切って捕まえてやらぁ!」
イヴァンに向かってラウロが猛進していく。
「俺を捕まえる?四本槍風情が、偉そうなんだよ!」
イヴァンの魔力が膨れ上がり魔法陣が展開され、手から黒い光が撃ち放たれた。
「な、ん、だ!?」
その黒い光にラウロが斧を叩き付ける。
その叩き付けた斧が黒く変質し、その場から消滅して行った。
それに気が付いたラウロが身を翻し、光から逃れる。
「知らないよな、知る訳がないさ、これはお前達の様な凡庸な人間では辿り着けない境地!闇属性の魔法!」
そうイヴァンが叫ぶ力は俺達は見たことがあった。
過去の世界で謎の怪物が放った魔法、それを受けたレオ曰く、何もかもを拒絶するような力。
「はっ!大層なご自慢力のようだけどよぉう、結局俺には当たってないぜ!それに、てめぇは一人でこの状況に勝てるとでも思ってるのかよ!」
ラウロが言うように騒ぎを聞きつけ、周りの人は兵士の人へと入れ替わっている。
バルトロさん達も駆けつけ、イヴァンは完全に包囲されていた。
レオも剣を抜き前に出る。
「イヴァン!貴方に勝ち目はありません、大人しく降伏してください」
レオが放つ魔力はイヴァンを上回っている。
イヴァンのここからの勝ちの目は万に一つもないだろう。
それでもイヴァンは降伏する気など微塵もないように見える。
何か策が……でも、何を?
イヴァンが辺りを見渡す。
「まぁこんなものか」
懐から透明の液体の入った瓶を取り出した。
その瓶を取り出した手をラウロが光の鎖で掴む。
「怪しい動きをしてんじゃねぇよ、何だそいつは?」
そう問うラウロにイヴァンが薄ら笑いを浮かべて答えた。
「お前達への絶望のプレゼントさ」
そう答えて瓶から指を離した。
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