9-2 夜襲
昼寝から覚めて、しばらく進んだ所でこの日はキャンプとなった。
軍の人たちがテキパキと野営の準備をしていくのを俺とレオは手伝っていく。
もっとも道具を運んだり、今後やる時の為に手順を見せてもらったり程度ではあるが。
「テントに家具に俺達が旅で使ってたのと比べると大分豪華だな。ていうか設営が超はえー」
「殆ど手伝えることが無かったね」
出来上がったテント達を見ていきながら俺が驚いていると、レオも笑顔を浮かべながらテントを見ていた。
「飯も向こうがやってくれるって言うし、本格的に俺達はやる事がないな」
「どうしようか、準備が終わるまで向こうで訓練でもする?」
「それも良いかもな」
軍の人にレオと訓練の模擬戦をしたいと許可を取りにいく。
「おっ模擬戦か、良いぞどんどんやってけ。おーい、これからレオとリョウが戦うんだとさ!手が開いた奴は見に来て良いぞ!」
「え、いや別にそんな見ていて楽しいものでは」
何やら周りが盛り上がって来ているのを感じてレオが言うも、周りの人は聞いてはいない。
「どうしよう?」
「なんか皆楽しみにしてるみたいだし、このままやろうぜ」
とても分りやすくレオのやる気が落ちてるが、ここで中断するのはな。
「それに今のレオのやる気だと俺が勝っちまうかもな」
「そうはならないとは思うけど」
乗り気じゃない顔をしたままなのに言いやがるなこいつ。
「絶対勝ってやる」
構えた俺を見てレオも渋々構える。
「先手必勝!」
マントを光らせ炎と共にレオへと突っ込んでいく。
突然の事で少し反応が遅れたが、難なくレオは炎を切り裂き、剣を受け止める。
「練習で奇襲はせこくない?」
「こっちは格下なんだしちょっとは良いだろ。それに簡単に受け止められたしな!」
剣から片手を離し、レオの正面へと左手の魔方陣を向ける。
しかし、魔法が放たれる前にレオが思い切りこちらを突き飛ばし、距離を離させた。
「こなくそ!」
突き飛ばされた体勢から苦し紛れに火球を放つも、それを突き抜けレオが迫る。
体勢を整える暇すら与えず、構えていた剣に向かって一閃を放ち、さらに遠くへと弾き飛ばされる。
「頑張れー」「根性見せろー」
がやがやとこちらへの激励が周りから飛んで来る。
「根性見せろと簡単に言うよ」
集中力が戻ってきたレオの圧力は毎度の事ながら逃げ出したくなる。
これでもちゃんと戦える程度には加減してくれてるんだろうけどな。
何にせよ待ってくれてるんだ、行くしかない!
「おおおお!」
雄たけびを上げて構えるレオへと突撃して行った……
キャンプの方から夕飯が出来たと呼び声が聞こえてくる。
「よし、今日はこの辺で」
レオが剣を収めて終了の合図を出す。
「勝てねー!」
疲れた体を大の字にして地面に倒れこむ。
「今日もお疲れ様」
レオがそう言ってこちらに手を伸ばしてきた。その手を掴んで立ち上がる。
「今日は行けそうだと思ったんだけどな」
「ふふ、まだまだ師匠として頑張らせてもらうよ」
一応強くはなっているんだが、まだまだ上は遠いな。
「二人ともお疲れさん、良いもの見せて貰った」
軍の人達がやってきて「いやー頑張ったな」と俺の肩や背を叩いていく。
「前の戦いでレオの強さは見せて貰ったが、俺達にも機会があればこうやって稽古をつけて貰いたいな」
「いえ、僕はそんな」
「こんな所で謙遜するもんじゃないぞ」
兵士が笑いながらバンバンとレオの背を叩く。
「どの道このまま首都で勲章を受け取ったら俺達の上官になるんだからな。そうだ今だけの上官命令として次の砦に着いたら俺達全員と一度戦って貰おうか」
兵士の提案に周りの人が歓声を上げた。
盛り上がっていく周りを見て、レオがどうしたものかと考えて答える。
「わかりました。でもやるからには本気でやらせて貰います」
「おう、お手柔らかに頼むよ。さーて、飯だ飯!」
兵士の人達がぞろぞろとキャンプへと帰って行く。
「うーん、そんなに僕と戦いたくなるものなのかな?」
レオが頭を捻り疑問に思っている。
「ま、レオみたいに強い人を見たら普通はちょっと戦いたくなるものなんだよ」
「そうかなぁ?」
「そうだって、俺もそうだしな。何にせよ俺にやってるみたいにあの人達もコテンパンにすれば良いのさ」
笑って答えると、レオは不思議には思っているものの「そんなものなのかな」と納得したようだ。
夕飯を食べている間は俺達の旅の話と、首都ヴィットーリアの景観の話に花を咲かせる。
俺達が戦って来た敵の話は大きく兵士の人達を盛り上げさせ、何処か誇張が入ってるのではないかと思うような首都の建物の話は俺達の期待感を膨らませた。
楽しく騒ぎながら夕食を食べていく。
そんな中で最初に事態に気がついたのはエイミーだった。
「リョウさん、魔物がこちらを囲んでいます」
こちらの手を掴み、エイミーが慌てた様子で伝える。
「魔物!?何体居るとか分るか?」
「いえ、まだ距離が遠くて……でも5方向から囲むように来ています」
俺達の話を聞いて、先程まで騒いで居た兵士の人たちの顔が引き締まる。
「リョウとリーナさんは魔法で敵の様子を確認できますか?」
兵士の人に言われて二人で偵察の魔法を飛ばす。
ワーウルフやリザードマン等の、前回バルレッタで戦ったときの様な魔物の混成部隊が迫っていた。
「見た感じだと多分前回バルレッタで負けた魔王軍の残りって感じね、あとリベールって言う魔物付きで」
リーナが言うように、分かれた部隊の一つに一人大きな魔物が混ざっている。
「魔物の数はどれ位居る?」
魔法で見て言っている俺達に兵士の人が聞いてきたので答える。
「えーと、5部隊に分かれて、数は多分こっちの倍より多いぐらいです」
「なら囲まれるわけにはいかないな。包囲しようとしてる部隊の一つを潰し、包囲を脱出するぞ!」
兵士の号令で荷物は一先ず放置し、戦える準備だけを整え包囲の一角を崩す為に走り出す。
正面に6体の魔物が見えてきた。
「数減らすわよ!」
「わかってる!」
リーナと一緒に魔法を放つ。
炎と雷が魔物達を焼き、耐えた魔物はレオと兵士の人達が切り伏せて行った。
包囲の一角を崩す事は難なく成功し、今度はこちらが正面から来る敵を迎撃する形となる。
正面はレオと兵士の人達が立ち、エイミーがそれの防御と回復、俺とリーナは後方からの魔法による攻撃。
再び敵は包囲を試みようとするも、俺達の魔法と突撃したレオがそれを許さない。
相手は包囲する為に部隊を分けていた事が災いし、足並みが揃わぬまま数の差を活かせずにいた。
魔物達の奥から状況を打破しようとリベールが猛り猛進してくる。
「レオ・ロベルトォ!」
力強い大剣が振り下ろされ、衝撃に地面が爆発した。
「また、貴方か!」
「そうだ、お前に打克てなくては俺は!!」
魔法陣が光り、氷塊の暴風がレオを殴打する。
「ぐっ」
レオは魔力を放出し耐えるも、その場に釘付けにされる。
「レオ!」
リーナが叫びリベールへと雷を放つ。
雷に貫かれたリベールが呻き声を上げ魔法が中断された。
雷を放ったリーナへとリベールが振り向こうとするも、迫るレオに向き直る。
両者の剣がぶつかり合い、大きな音が鳴り響いた。
「何故だ、何故お前はここまで強い!?」
「僕が、知るものか!」
鍔迫り合いをしていたリベールを弾き返し、レオの一閃が胴を切り裂く。
切り裂き放たれた二撃目はリベールが何とか剣で受け止めるも、レオの猛攻にリベールが押し込まれていく。
他の魔物も粗方倒し勝利が間近に迫っていた時、俺の頭の中に少女の声が響いた。
「久しぶりだね、リョウお兄ちゃん」
甘い声に反射的に振り向き周りを見るも、声を掛けて来ている人物は何処にも見当たらなかった。
「んふふ、探しても無駄だよ。ちゃんと遠くで隠れてるから」
この声を誰かに伝えようと口を開こうとすると、止める様に声がする。
「だめだめ、だ~め。他の人に言われたらロンザリア困っちゃうな~、それに何処か遠い村の人達も」
声の感じから恐らくそうだと思っていたが、あいつ生きてたのか。
だけど、この遠い村の人って何の話だ?
恐らく人質を取られてしまっているのだと解釈し、開けようとした口を閉じる。
「だからそのまま聞いててね。もう直ぐリベールが逃げると思うの、そうしたらね、ここ」
頭の中に何か湖のイメージと、そこまでの道筋が浮かんでくる。
「ここまで一人で来て欲しいの。他の人に言ったら駄目だよ、ロンザリアとの約束ね」
頭の中の声がそう告げたと同時に、リベールが魔法で水蒸気の爆発を起こす。
辺り一面が白い蒸気の霧で覆われた。
「待て!」
レオが追おうとするも叶わず、俺とリーナが霧を晴らした時には既にリベールは居なくなっていた。
「逃げた?」
「そのようだな。だがまた来るかもしれない、警戒はしておこう」
皆が武器を仕舞い周りを確認していく中、俺の頭に声が響く。
「それじゃあ、待ってるから」
甘い吐息と共にロンザリアが夜の密会へと誘ってきた。
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