9-1 悩む二人

「よし、何とか直った」


 元通りの姿に戻った俺のマントをリーナが掲げた。


「まじか、いや本当に、ありがとうございました!」


 直されたマントを見て姿勢を正して頭を下げる。


「本当に感謝しなさいよね。次ぎ壊したら直してあげないんだから、ちゃんと大事に使いなさいよ」


「その言葉、胸に刻み込みました!」


「本当なんだか……」と信用してないような目を向けながら、リーナがマントを俺に投げ寄越す。


 四天の襲撃から丁度一週間が経っていた。


 その間にイサベラ国の軍に俺とレオは正式に入隊していが、


「何かこれからイベント目白押しって感じね」


「まぁ全部レオのだけどな」


「僕は別にここまでして貰わなくても良いんだけど……」


 レオの戦果を考えた結果、やはり軍としては軍の最高戦力である五本目の槍として任命する事が決まり、それの任命式やら、それをお偉い人への紹介やら、その他諸々とイサベラの首都であるヴィットーリアにて行う事が決定していた。


「でもレオさんの戦いを皆さんが褒めたいって事ですし、凄く良いことだと思いますよ」


「あったり前よ、レオの強さはもっと色々な人が知るべきなのよ」


 手を合わせてニコニコとしているエイミーの横で、何故だかリーナがドヤ顔をしている。


 それでもレオの顔はまだ晴れては居なかった。


 まぁ、最初の完全に思いつめていた顔から、考えている顔に変わっているだけ進歩か。


 バルトロさんに相談に乗ってもらえないかと頼んだ後に、レオから一度「ありがとう」と礼を言われたが、「でも自分で考えたい」と言われてしまい、以降は特にその事に対して話せていない。


 レオが懸命に考えているのに、俺までうじうじ悩んでも仕方ないか。


「出発は明日だけど、服とかは向こうで貸してくれんのかな?」


「この服のまま王様達に会うってのは流石にないだろうから、多分軍の礼服とか支給されるでしょ。アタシ達は外から見ることになるでしょうけど今から正直楽しみね」


「ヴィットーリアは花の都として世界的にも有名だそうなので、お城も多分凄い豪華だと思います」


 前に城に入ったのは過去の世界での潜入目的であんまり内装とかを気にしてる暇はなかったが、今回のはゆっくり見れるだろうし、どんな城なのかと考えると俺も楽しみになってきた。


 日が替わり昼食も食べ終わった所でヴィットーリアへと出発する。


 軍の人達12人の護衛付きの馬車での移動で、一度の野営と中継の砦を挟んで3日の行程になるらしい。


 軍の人達は全員レオへと握手を求めに行き、それが終わってからの出発となった。


 話では中継の砦でバルトロさんも後から合流するそうだ。


 馬車に揺られて街道を行く。


 陽気に当てられて何だか眠くなってきた。


「到着したら起こしてやるから、眠っていても良いぞ」


 同乗している軍の人から声をかけられた。


「いや、新人なのに勝手に寝るのは」


「はっはっはっ、もう軍人気取りか」


 バシバシと背中を叩かれる。


「気にしなくても良い、寝たいときには寝てろ」


 そう言われタオルを投げ渡された。


「後他のにもな」


 追加のタオルを投げられて周りを見ると、リーナとエイミーが船を漕いでいる。


 お言葉に甘えさせて貰うか。


 二人にタオルをかけて、俺も昼寝しようかと準備をする。


「レオは休まないのか?」


 ぼーっと外を眺めているレオに聞いた。


 呼ばれてレオがこちらに向く。


「うーん、僕は良いかな。でもタオルは貰っておくよ」


「そうか、じゃあ俺は休むけどレオも眠くなったら遠慮せずに寝とけよ」


「うん」


 タオルをレオに渡して自分はタオルに包まる。


 今日の野営ってどこでやるんだろうか……久々の野宿だな……


 他愛の無い事を考えながら、ゆっくりと眠りの中へと入って行った。




 バルレッタから遠くにある朽ちた砦の中で、リベールは魔法による通信機へと話していた。


「ケーニヒ様、お願いします。是非自分をレオ・ロベルトとの戦いに参加させてください!」


「えー、でも君って2回とも負けたんだろ?それに今回は俺が戦うのが目的だから君は来なくて良いよ」


「そこをお願いします!」


「……どうせ俺が行くまでもう少し時間あるから、その間に自分でやれば」


 その言葉を最後に通信が途切れた。


 出撃の許可は一応は貰えた、しかし自分と部下だけで挑まなくてはならない。


 前回の大敗の後に部隊はグライズの命により解散しており、残っているのは自分の傘下に入っていた28名の部下のみ。


「これでレオ・ロベルトに挑むだと……」


 レオの強さはリベール自身が重々承知していた。


 はっきり言って勝機が全く見えない。


 恐らくケーニヒが来ればレオの命は無いだろう。ならばその前に戦いを挑み過去の敗戦を払拭したい。


 だがしかし、レオに単身挑む事の決意が出来ない。


 リベールはレオの事が怖かった。最初に出会ったときのプレッシャーを忘れることが出来なかった。


 四天と共に戦えるのなら、その影に隠れることで戦うことも出来ただろうが、今はレオと対峙することすら恐れた。


「くそうっ何なのだ!!」


 こうまで追い詰められてしまう自分を腹立たしく思い、石壁を思い切り殴りつけた。


「何だ、何なのだ、あの強さは!」


 何度となく思った言葉を叫びながら壁に拳を押し付ける。


 あの時に感じたレオのプレッシャーは、あの魔王から感じる力に何処か似ていた。


 あんな物を人間が発することが出来るのか?いや、あいつはそもそも人間なのか?


 あんな物を発する奴に勝てないのは仕方ないのではないのか?


「ええい、言い訳ばかりか!!」


 怒りの拳が壁を突き抜けた。


「なんか荒れてるみたいだね~」


 気が付けば「クスクス」と笑う桃色の髪のサキュバスが後ろに立っていた。


「誰だお前は」


 何時の間にか居たサキュバスにリベールが聞くと、少女が笑みを浮かべながら答える。


「あたしはフラウ様の部下のロンザリア。あなたはリベールだっけ、レオ・ロベルトに苦戦してるらしいじゃな~い?」


 ニヤニヤと笑うロンザリアにリベールは訝しく思ったが、困っている事は確かなので話を聞くことにする。


「何か考えでもあるのか」


「ロンザリアもね、あの人達に借りがあるんだ。だからちょっとお手伝いしてあげる。だけど~一つだけお願いがあるの」


 猫なで声のおねだりをされても余り嬉しくはないのだが、恐らく向こうは言うだけの何かがあるのだろう。いや、そうであって欲しい。


「策も言わずに交換条件からとは、余程自信があるんだろうな?」


「うん、それは大丈夫だと思うよ。だからねリョウってお兄ちゃんと、リーナって言う魔法使いはロンザリアに頂戴」


 リョウとリーナ……確かに仲間で居た気がするな。


「いいだろう、元からレオ以外に興味はない。好きにしろ」


「んふふ、ありがと。じゃあ作戦を話していくね」


 話された内容はリベール的には不満のあるものであったが、他に頼る術も考えも無い。


 レオと戦うのなら、ここはロンザリアの口車に乗るしかないか。

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