6-1 旅路の先は

 俺達は旅を続け、山間の街に着いていた。


 近くに鉱山があるこの街は今まで訪れた中で一番の活気を見せている。


 あの山を越えていけば目的地の港町までもう直ぐだ。


 そこからは船に乗り、旅の終わりとなるバルレッタに到着する。旅の終わりを思うと少し寂しい気持ちがあった。


 旅は楽しかったな……


 幾つもの村々を渡り歩き、多くの人と出会い、レオ達と一緒に冒険をして行った。


 その中で自身の成長も感じている。


 一流とは口が裂けても言えないが、半端者からは脱出できているだろう。


 宿を取った後は買出しに出かける事にする。レオとリーナは何か依頼が出ていないか街の役場へと行き、エイミーは一緒に買い物に付いて来た。


「人で一杯ですね。こんなに市場が人で溢れているのは始めてみました」


 道は人でごった返している。元居た世界の日本では良くある光景ではあるが、この世界に来てからは初めてと言っても良いぐらいの人の数だ。


「これは買い物するのも一苦労かもな、はぐれないよう気を付けようぜ」


 そう言ってエイミーに手を差し出す。手を繋いでおけば一応の迷子対策にはなるだろう。


 何故か差し出して手を中々エイミーは握ってはくれなかった。


「あの、これは?」


「え?……いや、はぐれないよう手を繋いで行こうと思ってさ。嫌だった?」


「いえ、そんな事は決して……その、よろしくお願いします」


 俺の言葉を慌てて否定した後に、おずおずとこちらの手を握ってきた。


 どうしたのだろうか?まぁ良いさ、早く買い物を済ませてしまおう。


 食料品や消耗品を買って行き、武器屋へと向かう。


 ここに来る前の戦闘でまたレオが剣を一本灰にしてしまったし、新しい剣を見ておこう。


 実際はレオ自身が来たほうが良いんだけど、ぶっちゃけ俺が武器屋に行きたいのだ。


 小さな所なら何度か立ち寄りはしたが、今回の様な大きな武器屋は店の前に来るだけでワクワクしてくる。


 そう言えばここに来る前に魔法系の店もあったな。時間はあるし、あっちも寄って行こうかな。


 店に入ると多種多様な武器や防具が並んでいた。壁にも多くの武器が飾ってある。


「リョウさん楽しそうですね」


 店をきょろきょろと見渡しているとエイミーから少し不機嫌そうな声を掛けられた。


「あ、ごめんごめん。ちょっと夢中になっててさ」


 そうは言っても目は店の中をウロウロとしてしまっている。


「楽しいなら別に良いです」


 握っていた手が少しだけ強くなった後に、手を放してエイミーも店内を見ていく。


 俺の買い物に付き合わせてるような物だもんな、後で何かエイミーの行きたい所にも行くか。


 値段が高く書かれている剣を見る。


 うーん、レオなら見ただけで良い剣だと解るのだろうか・・・


「すみません。ちょっと聞きたい事があるんですけど」


 カウンターの奥で武器の手入れをしている店の人に聞いてみる。


「はい、いらっしゃい。この街一番の鉄と技術で作られたアルフレードの工房にようこそ。なにかお探しかな?」


 まさに職人ですと言った顔をした年配の男性がこちらを向いた。


「この店で一番良い剣ってどれになります?」


 俺がそう言うとアルフレードさんがこちらをジロジロと値踏みをするように見てきた。


「うーん、それなりに鍛えてはいる様だが、お前さんはまだ背伸びして高いのを買うよりも表に置いてあるような剣で十分だろう」


「あ、いや俺の分じゃなくて仲間の分なんだ」


「そうか、まぁお前の仲間がどれ程の物かは知らないが、・・・よいしょっと、これがうちの一番の自信作だ」


 店の奥から一振りの剣を持って来た。確かに素人目で見ても良い剣の様な気がする・・・多分。


「はっはっはっお前にはまだ解らないか」


 剣を見て「うーん」と唸っているとアルフレードさんから笑われた。


 仕方ない、実際に素人なんだ。ここは素直に笑われていよう。


「ま、この剣を良いと思ってくれたのなら仲間さんを連れてまた来てくれ」


「そうします。ありがとうございました」


 礼を言ってエイミーと一緒に店を出ようと振り返ると、エイミーが店の中に居ない。


 店の外に目をやるとエイミーが柄の悪い男三人に囲まれていた。


「お前ら何してやがる!」


 慌てて店を飛び出し、男達へと向かって叫ぶ。


「あぁん?何だよ連れが居たのかよ」


「良いだろ嬢ちゃん、こんなやつ置いておいて俺達と遊ぼうぜ」


 なんとも解りやすいチンピラだな。でも、今なら度胸も力も付いているんだ。


 魔方陣を瞬時に作り出し、チンピラの眼前に爆発を起こす。


 爆発の直撃を受けたチンピラが後ろに飛び、力なく倒れた。


 あれ?


「なんだてめぇ魔法使いか!」


 自分の攻撃の結果に驚いている暇もなくチンピラが殴りかかって来た。


 拳の軌道が手に取るように解る。相手の拳を避け、魔力を込めた蹴りで足を蹴り上げる。


 チンピラの体が一回転し、顔面から地面に叩きつけられた。


「くそー!調子に乗りやがって、痛い目あうぞごらぁ!」


 最後のチンピラがエイミーの腕を強く引っ張った。反対の手にはナイフを持ち、エイミーの顔へと向かっていく。


 魔力を脚に込め、地面を蹴り出す。一瞬で距離を詰め、ナイフを魔力の防護を張った手で掴み取った。


「エイミーに、なにしやがる!」


 渾身のストレートが顔を殴り飛ばし、殴り飛ばされたチンピラは地面に倒れ伏した。


 チンピラ達を倒すと同時に周りから歓声が上がった。


 口笛と一緒に「やるな兄ちゃん!」「いよっ男前!」「その子を離すなよ!」と俺に向けて周りの人たちが声を掛けていく。


 突然の周りの反応に恥ずかしさで顔が熱くなってくる。


「ごめん直ぐに気が付かなくて、大丈夫か?」


 チンピラに手を引っ張られていたせいで尻餅を付いてしまっていたエイミーに手を伸ばし起こす。


「いえ、ありがとうございます」


 笑顔で答えるエイミーにまた周りで歓声が上がった。


 くっそ何だってんだ。普通に仲間を助けただけなのに、何でこんなに目立ってんだ。


 置いていた荷物を取ろうと店に向かうと、店の前にアルフレードさんが荷物を持って「ニカッ」と笑っていた。


「坊主、カッコよかったぞ」


「恥ずかしいから止めてくれよ、普通に仲間を助けただけだって」


 俺の言葉を聞いて大笑いするアルフレードから荷物を受け取り、足早にその場から離れていく。


 逃げる俺の腕にぎゅっと満面の笑みのエイミーが抱きついてきた。


「お助け頂きありがとうございます」


 また後ろで歓声が上がっている。早く宿に帰ってしまおう。



 俺達が宿に戻って少しするとレオとリーナも宿に戻ってきた。


「なによ何だか妙に上機嫌ね」


 エイミーは未だにニコニコと笑顔を称えている。


「はいっ先程リョウさんに暴漢から助けて頂きました」


「あら、アンタもやるじゃない」


「相手が弱かったんだよ、て言うかマジで弱かったな」


 戦ってみて驚いていた。最初の爆発は気を逸らす為の牽制のつもりだったし、相手の動きがあそこまで簡単に対処できるとは。


「そりゃアンタが何時も戦ってるのってレオだし、それに魔力での身体強化も結構上手くなってるんでしょ?ならその辺の奴なんかには負けないわよ」


 旅の中で強くなったとは思っていたが、自分の想像以上に強くなっていたようだ。


 街のチンピラ相手ではあったが、自分の強さを実感できたのは素直に嬉しい。


「そうだ、そっちの方はどうだったんだ?」


「依頼と言う依頼は特には無かったかな。一応山奥に何かあるかもって話はあったけど、人も多いし特に対処しなくちゃいけない問題は残っていないみたい」


「そうか、それじゃあ明日にはここを出発する感じか」


「そうだね、僕達の旅もそろそろ終わりが見えてきたね」


 そうだよな……もう少しでこの旅も終わってしまうんだよな。


「レオさん達はリョウさんをバルレッタまで送ったらどうしますか?」


 エイミーの質問にリーナが片肘を付いて「うーん」と唸りながら答える。


「そうね……特に考えてないってのが現状なのよねー」


「特に行く当てもないし、村に戻る?」


「旅は続けたいけど、そうなるかしら……エイミーはどうするつもり?」


 聞かれたエイミーがチラリと一度こちらを見た。


「いえ、私もまだ何も」


「ま、無事にバルレッタに着いてからでも良いでしょうこの話は」


 そう言ってリーナがこの話題を切り上げた。


 俺もバルレッタに着いたらどうしようか……いや、魔法学校に入るとはしているのだが、その先をどうしようか……


 魔法や剣の鍛錬の後、夕食を食べて各々自室に戻っていく。


「そろそろアンタのマントも出来そうだから楽しみにしてなさい」


 寝る前にリーナがそう言ってきた。俺のマントか、どんな物になるのだろう。


 ベットに入り今後の事を考えながら眠りにつく。


 俺はこの世界で何をして生きていくんだろう・・・



 異変に気が付き、飛び起きると時間は朝になっていた。


 夜の明けない朝に。

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