5-4 魔と人と
俺達はマニンガーとゴブリン二人を連れて村へと向かっていた。
魔物達の話を聞き、村の人との交渉の場を設けてもらうためだ。
「アンタ達、魔物引き連れてなにしてんの?」
村の前にリーナが立ちふさがっている。
「キーッアノトキノ、マホウツカイッ!」
「あぁん!?」
睨みを利かせるリーナにゴブリン達がマニンガーの後ろへと隠れていく。
「はいはい、この人たちは村と交渉をしに来たんだ。危害を加えるつもりも無いから安心してくれ」
「交渉ねぇ……ま、アンタがどんな判断をしたのか知らないけど、レオ達も賛同してるなら今回はアンタに任せるわ」
そう言ってリーナは道を開け、レオに事の顛末を聞きに行った。
開けられた道を通り村へと入っていく。村は魔物たちを見てどよめいていた。
向こうから慌てた様子の村長が走ってくる。
「リョウさん、これは何事ですか!?」
「突然すみません村長、この人たちが件の人質を取っていた人です。この村と話がしたいって事で連れてきました」
紹介を受けてマニンガーとゴブリン達が頭を下げる。それにつられて村長も頭を下げてしまう。
「いや、しかし魔物と話と言うのは」
「大丈夫ですよ俺が通訳できますし、それに話してみた感じ悪い人たちじゃありません」
「ですが……」
困惑している村長に対してマニンガーが一歩前に出て、深々と頭を下げる。
「ヒトジチ、モウシワケナイ。デモハナシキイテホシイ」
それに倣ってゴブリン達も頭を下げた。
「……解りました。何にせよ早く建物の中に行きましょう」
村長に連れられて俺と魔物達は村の建物の中に入っていく。
「ふー、何と言うかアイツって変な所でズレていると言うか、度胸があると言うか、魔物を人と呼んで村に連れてきて話をしろなんてね」
建物の中に入っていく涼達をリーナ達は見送っている。
「あの方の怪我を治して欲しいと頼まれた時は、私も少しドキッとしました。でも話を聞いてみると本当に悪い方ではなさそうですし、私はリョウさんを信じます」
「そうね……まぁどうなるかはアイツ次第として、アタシ達は宿で待ってましょ」
「それで話と言うのは?」
「俺達の住むための場所の確保を許してもらいたい」
村長とマニンガーの話し合いが始まった。俺はその間の通訳の役目だが、これは中々に大変な仕事になりそうだ。
「俺達は今は森の奥で暮らしているが、人々の活動域が広がり俺達の住処の近くまで迫っている。その結果、目撃したと言うだけで討伐される仲間も増えていくだろう。そうならないように俺達の住む場所を認めて欲しい」
「そうは言われましても、やはり村としてはあなた達を受け入れるのには抵抗がございます」
その事は村に来る前に話していた。こちらをタダで受け入れてくれなんて余りにも都合が良過ぎるってものだ、だから何を代わりに行うのかを。
「それに関してなんですが、住む場所を確保してくれるのなら、他の人を襲う魔物等を退治する傭兵として勤めるとの事です」
「魔物を魔物が倒すと?」
「はい。人を襲う魔物を倒し、人の味方をする魔物の傭兵達です」
「うーん」と頭を捻り村長が考えている。
「正直な所、信じがたい話ですね」
その反応が返って来るだろう事も解っている、だけどまだ。
「人質を取っていた事は、そうまでしてでも村に話を伝えようとしたからです。それに人質の方々は一切の怪我も無く、苦しめる意図はありませんでした。それは捕らえられた人に聞いても解るはずです」
「確かに帰った者達の話を聞くに、彼等の人質達に対する態度は出来る限り紳士的なものだったと聞いております」
「でしたら」
「しかし、この件とは別の問題です」
俺の言葉を村長がピシャリと遮る。
「この方達は恐らくリョウさんの言うように良い方達なのかもしれません。貴方達の活躍はリーナさんから聞いています、その実績から貴方の言う事に信憑性があるとも思います」
厳しい目をこちらに向けて村長は話を続けていく。
「ですが、魔物を村に迎え入れると言う事は、他の村にもその不安や恐怖を共有して貰わなければいけず、簡単に結論を出すわけにはいきません。この件の彼等が人を傷つけないその一点に関しましては信用し、出来る限りこちらからも関わる事はせず、他の村にもその事を伝えましょう。しかし、その後に起こりえる可能性に関しましては保障しかねます」
村長の目には強い意志を感じられる。この村の長として、この村の人たちを守るための意思を。
俺がまだ引き下がろうとしないで居ると、マニンガーがその目に気が付き俺の肩に手を置いた。
置かれた手の意味に気が付き、マニンガーにこの村の決定事項を伝える。
「そうか……スマナイ、ジカントラセタ」
そう言ってマニンガーは村長に頭を下げると、俺に村長へと伝えて欲しい言葉を言った。
「これから良き隣人としての間柄が生まれる事を勝手ながら信じている。との事です」
「そうなれば、こちらとしても嬉しい事だと思います」
話も終わり、最後に礼を言って建物を出て行く。
断られるとは正直な話俺は思ってはいなかった。
マニンガー達の態度や行動を見れば、話せば解ってもらえるものだと勝手に思っていた。
「ごめん。力になれなくて」
村の外まで行き、マニンガー達に頭を下げる。
「謝る事は無い、寧ろ俺達は感謝している。確かに俺達が望んだ最良では無かったかもしれないが、それでもこの村の人達に俺達の存在を許すとの言葉を得た」
「でもそれは口約束じゃないか、直ぐにでもあんた達の所に兵が来るかもしれない」
「そうならない為の一歩だ。これが出来たのはお前のおかげだ」
「そうだ、俺達はお前に感謝してるぞ」「変な格好をしてた割には助かったぞ」
キーキーとゴブリン達もこちらに感謝を述べる。変な格好ってだけのは余計だ。
「お前とレオには何処か不思議な物を感じる、俺が人と喋っているせいだろうか。何にせよこの出会いに感謝しよう」
「不思議な感じか、実は俺は異世界から来たんだ。だからあんたの言葉を聞いて話せるみたいだ」
俺の言葉を聞いてマニンガーが大きく笑った。
「はっはっはっ異世界から来たときたか、これは大層な巡りあわせだったようだな。それではレオもそうなのか?」
「いや、レオはこの世界の出身のはずだけど」
「そうか、お前と同じく何処か不思議な雰囲気を感じたのだが」
もしかして女装してたからとかじゃないだろうな……
「なんにせよお前達には感謝している。それとリョウ、お前には大きな決意の様な物を感じる。その決意は魔王軍と関係はしているか?」
突然の思いも寄らない質問に言葉は出なかったが頷いて答える。
「そうか……魔王は強い、それも途方も無く。このままでは俺達の様な魔王軍に加担しない魔物も含め、暗黒の時代が来るかも知れぬ。だが、お前達なら何かを果たしてくれそうな、そんな期待が出来る」
レオ達の旅の先を俺は決める事は出来ないし、決めるつもりも無い。だからその期待の言葉には答えられなかった。
俺の顔を察してかマニンガーがこちらに手を差し伸べた。
「また何時の日か会おう、異世界からの旅人よ」
「ああ……また何時か、達者でな」
その手を握り返す。すると、ゴブリン達も手を乗せて笑顔を見せた。
マニンガー達と分かれて、レオ達が待っている宿へと向かった。
「はい、お疲れ様。それでどうだった?話の程は」
宿に着くとリーナが出迎えてくれた。
「この村の傭兵になるのはダメだった。一応はあいつ等とは極力関わりを持たないって所で話はついたけど……」
「だったらそれで良いんじゃない?」
「そうか?」
「当初の目標は達成できたじゃない。あの魔物達の安全は一応は確保出来てる、これからはあの魔物と、この村次第よ」
それは確かにそうなんだろうが……
「にしても魔物を引き連れて交渉にいこうなんて、良くもまぁやってのけたわね」
「別に悪い人達じゃなかったしさ、話し合いが出来るならやった方が良いさ」
俺の言葉に「ふふっ」とリーナが笑った。
「不思議なもんね、魔物を人と言って助けるなんて」
言われて気が付いた。別に意識して言っていた訳でなく、何となく話が通じる時点で自然とその呼び方になっていた。
「人呼びはマニンガー達に失礼だったかな」
「それはあっちがどう思ってるかは知らないけど、少なくとも何の隔ても無く接するアンタの存在は有り難かったんじゃない」
「話してくれる存在だけでも有り難いか……」
人と魔との隔たり、考えてみれば当たり前の事だ、この世界は魔物と戦っている世界なのだから。
何となく魔物と話が出来るという事は、勝手に分かり合う事も出来る世界なのだと思っていた。
「俺の知ってる話の中では魔物とも仲間になる話も多かったから、勝手にそうだと思ってたな」
俺が考え呟いた言葉を聞いて、エイミーがこちらに質問する。
「リョウさんの世界での話には人と魔物が手を取り合う話もあったのでしょうか?」
「そうだな、結構な数であった。戦いの中で分かり合えたり、最初から仲間だったりと色々と」
俺のその答えにエイミーが笑顔を見せた。
「魔物であろうと関係なく助ける。そんなリョウさんの思いは、その物語に触れることが出来た異世界の人だからこそ、生まれた思いなのかもしれませんね」
「異世界から来たからこそ……か」
「はい、何時の日か魔王との戦いも終われば、私たちも本当の意味で魔物の方々と向き合う日が来るかもしれません。その時にリョウさんみたいな考えを皆が持つことが出来たのなら、それは素晴らしい事だと私は思います」
そう言って優しい笑顔をこちらに向けてくれる。
そうだな。異世界から来た、ただそれだけの俺の思いが誰かを助ける事になったのなら、それは俺にとっても救いなのかもしれない。
「……そうだ、レオはどこ行ったんだ?」
気が付けばレオが先程から何処にも居ない。
「あー、あそこで撃沈してる」
リーナに言われて見ると、部屋の片隅でレオが倒れていた。
「よっぽど女装が嫌だったみたいね。さっきからずっとあの調子で」
そう言えば着替え直した頃から口数が少なくなっていた気がする。
「おいおい、元気出せよ。俺だって一緒に女装してたんだからさ」
「ああ……リョウ、おかえり」
やけに元気の無い声が返って来る。
「どうしたんだよ行き成り、最初はそこまでじゃなかったろ?」
俺がそう聞くと、消沈しきった顔でこちらを見てレオが答えた。
「リョウさ……カツラを取ったら男だって解って貰えたよね」
「ん?ああ、そうだったな」
「僕はね、リョウから着替えを渡されたときに、相手から「何を受け取っているんだ?」って顔をされたよ」
げ、言葉は解らなくても表情で察してしまってたか
「あれだけ普通に戦っていて、名前も名乗って、なのに女の子だと思われてたんだ……なぁ、あの時マニンガーは何て言ったんだい?」
死んでしまいそうな顔でこちらに問いかけてくる。
やばい、どうやってここを切り抜けよう。
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