5-3 魔物の用心棒
さて、人質として女性と子供は捕えられては居るものの、向こうの捕え方にやる気が無く逃げるのだけは容易い。それこそ立って走るだけでも良い。
追手の問題も近くにリーナとエイミーが俺達を追って待っていてくれているはずだ。
となると俺達がやるべき事は逃げ出す機会を作ることだな。
周りの捕まっている人たちに逃げる算段を伝えていく、俺達が女装している事に何も言わなかったのは向こうの気遣いだろう。
(じゃあ俺が魔法で気を引いて人質を逃がすから、あのデカイのとかは任せた)
レオが頷いたのを見て、立ち上がる。
「キーッヒトジチハスワッテロッキーッ」
「キーキーッうるさいんだよ、俺達は逃げさせてもらうぜ!」
そう言って被ってたカツラを投げつけた。
「キーッオトコダッタノカ!?」
「ほっとけ!!」
魔方陣を展開し、見張りでこちらを見ていたゴブリン達の目の前に炎を爆発させる。
直撃はさせなかったが、目の前で起きた爆発の光りと音にゴブリン達が悲鳴を上げて飛びのいた。
それに合わせてレオもスカートに隠しておいたナイフを持って敵に突っ込んでいく。
「それじゃあ逃げますよ」
周りの人たちに呼びかけて走り出す。
「お前達、人質を逃がすな!」
豚の様な顔をした大きな魔物が人質の逃走に気付き、周りのゴブリンに命令を飛ばす。
ゴブリン達が棍棒を持ち出し襲い掛かってきた。
「させるかよ!」
追ってくるゴブリンとの間に炎の壁を作り出した。
あまり大きな物ではないが、ゴブリン達の足を止める役目としては十分果たせる。
その間にレオが追いつきゴブリンを掴んでは後ろに投げ飛ばしていく。
振り回す棍棒を器用にナイフで受け流し、次々とゴブリンを追いやった。
表情にも余裕が見える。ここは任せてしまって大丈夫だろう。
そう思って逃げていった人質と合流しようと走りだした時、大きな魔物が立ち上がり叫んだ。
「お前達もう良い、下がれ!」
「先生、だけどよぉあいつ等逃げちまう」
ゴブリンが不満そうにしているのを手で制す。
「どのみち俺達ではあの二人を抜けて人質を取り返すことは出来ん。おい!そこの黒髪のお前!そうだ、お前だ。俺達の言葉が解るんだろう?こちらに来てくれ」
突然こちらを呼んだので、逃げるのを止めて向き直る。
「何の用だ?」
「俺はこの集落の用心棒として雇われているものだ。そこの青いのは強いんだろう?勝負がしたい、受けてもらえるか?」
「勝負?うーん、レオ何かこいつ勝負したいって言ってるけど、やる?」
俺の言葉にレオが頷いた。
「マニンガー、ダ」
頷きを見て、魔物が名乗りと共に剣を投げ渡す。
「レオ・ロベルト」
「フン、イクゾ!」
レオが名乗り構えたのを合図にマニンガーと名乗った魔物が踏み込む。
巨体に似合わぬ素早さで間合いを詰めた。力強く鋭い一撃がレオへと向かう。
レオはそれを剣でいなし、続く攻撃も次々と躱して行く。
振り下ろし、振り上げ、薙ぎ、突き、どれを繰り出されても当たりはしない。
マニンガーの攻撃の合間に突如、レオの一閃が割り込む。
何とかマニンガーは避けてのけ、一度間合いを開け息を整えようとする。
しかし、レオはそれを許さない。一気に距離を詰めて猛攻が始まった。
「リョーウさーん」
レオとマニンガーの戦いを見ていると後ろから声を掛けられた。
振り返ると手を振りながらエイミーが走ってきた。
「よっ人質の人たちはどうしたんだ?」
「リーナさんが一緒に付いて村に向かったので大丈夫だと思います。こちら着替えですけど・・・これは?」
着替えを渡し「なにをしてるんだろう?」と言った目をしているエイミーの前では勝負が繰り広げられている。
マニンガーは防戦一方となっており、ゴブリン達は囃し立てながら応援している。
「ああ、あの大きい魔物の方がレオと戦いたいって言うからさ」
「はぁ……でもどうして?」
「戦士ってのは強い人を見たら一度戦いたくなるものなんだろうさ」
追い込まれているマニンガーの目を見れば、この勝負を楽しんでいるのが解る。
今の状況になっても、まだ勝ちを諦めていない。
この戦いは俺にとっても勉強となっている。
言い方は悪いが圧倒的に力量差がある中で、自らが出きる最大限の動きで相手の攻撃を必死に防いでいく。
相手の動き、攻撃が放たれる軌跡に集中し、直撃だけは避けた動き。
見よう見まねで出来る物ではないだろうが、今後の参考とさせてもらおう。
勝負はこのままマニンガーが押し切られると思っていると、マニンガーが反撃に出た。
迫る剣に向かって肩を突き出し、上腕部分で受け止める。
咄嗟のことでレオは剣を止める事が出来ずに、腕に剣が切り込まれる。
不味いと思い剣を止め、引き抜こうとするもガシッとした感触が手に伝わり引き抜けない。脂肪の下の筋肉により剣が掴まれている。
レオが驚き、一瞬出来た隙を狙いマニンガーの一撃が放たれた。
剣戟がレオに当たると思われた瞬間、レオは体から力を抜き、しゃがみ込むように剣を避ける。
そこから力を込め地面を踏み抜き、上げ放たれた拳はマニンガーの顔面を捉えた。
衝撃にマニンガーの巨体が後ろへと傾く。
レオが緩んだ腕から剣を引き抜き、体を押し込んでマニンガーを地面に倒し、剣を首元へと向けた。
「ツヨイナ」
マニンガーが持っていた剣を手放し負けを認めた。勝負ありだ。
「げーっ先生負けちまったよ!」「俺達これからどうするんだよ!」「俺達でこいつらやっちまおうぜ!」「でも俺達じゃこいつ等に勝てねぇよ!」
「お前達静かにしろ!」
慌てふためくゴブリン達に、上体を起こしたマニンガーから渇が入る。
「すまないな。そこの・・・そうだお前の名前はなんだ?」
「涼だよ、真田 涼」
「リョウか、強いなお前の連れは・・・負けた身で申し訳ないが、少し話を聞いてはくれないか?」
「良いけどその前に着替えさせてくれ」
「そうだな、先にそうしてくれ」
レオを呼んで着替えを渡し木陰に移動しようとした時、マニンガーがレオに向かって一言ぼそりと「男だったのか」と呟いた。
うーん、これはレオには伝えない方が良いだろうな。
「おっとそうだ、エイミーあいつの怪我って治せる?」
聞かれてエイミーがびくっとなる。
「多分治せるとは思いますけど・・・でも大丈夫ですか?」
恐る恐るエイミーが聞いてくる。確かに怖い見た目はしているが、人質に対する態度等を見ると別に悪い奴では無さそうだし大丈夫だろう。
「大丈夫さ、あいつそんなに悪い奴じゃなさそうだし。おい、この子がお前の怪我を治してくれるから怪我を見せやってくれ」
「良いのか?スマナイ、アリガトウ」
マニンガーは素直に礼を言って頭を下げてきた。それを見てエイミーが「リョウさんが言うなら」と怪我を治しに行く。
俺達も早く着替えを終わらせてしまうか。
「それで、話って何の事だ?」
着替えも終わった所で話を再開する。
「俺達が人質を取って、村の人と交渉をしようとして居たのは知っているな?」
「まぁ何となくな、もっともお前達の書いた手紙は読めなかったけどさ」
その言葉を聞いて「やはりか」とマニンガーが大きくため息を付いた。
「この集落で書いた手紙の中で一番の出来の物を出したのだが、そう上手くはいかないか・・・」
「先生は悪くないっす」「そうだ俺達が文字を書けないのが悪いっす」
キーキーとゴブリン達が項垂れているマニンガーを慰めようとしている。
「それで手紙の内容についてなのだが」
マニンガーがあの手紙に書いた内容を話していく。俺はそれを聞き、内容をレオとエイミーに伝えていった。
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