第二章

4-1 かみのはなし

 両親との話を終え準備を整えたエイミーと合流し、村の人たちに別れを告げ出発した。


「エイミー・メラートです。傷の回復やお化け系の相手に役立てると思います。これからよろしくお願いします」


 旅の予定としては変わらず当初の目的地であるバルレッタを目指す事。


 呪いの発生源と思われる物はリーナやキーンさん達が調べても何の手がかりも掴めなかった。


 一応は欠片と呪いが発動していたと言う証言を応援に来ていた人たちに軍に伝えるよう頼んだものの、その情報に何処まで信頼してもらえるのかは解らない。


 欠片の幾つかはリーナが持ち道中でも色々と調べるとの事だったが、一先ずは俺達に出来ることは何も無い様なので変わらず旅を続ける事にした。


「そういえばさ、エイミーって料理できるの?」


 歩いていく中でリーナが質問した。


「はいっ。一通りは出来ますので、よろしければ皆さんの分を作ってみたいと思います」


 手を合わせ、にっこりとした笑顔をリーナに向ける。


 それに思わず仰け反るリーナにレオがぽんっと手を置いた。


「待って、待って!何で皆が皆して料理が出来る人ばかりなのよ!」


 そう言ってじたばたするリーナを見てふと思った。


 リーナとエイミーの髪型が被っている・・・


 いや、正確には被ってはいない。リーナが一つに結んでいる位置よりもエイミーは下のほうで結んではいる。髪の長さはリーナの方が長いが。


 しかし、やはり髪型が両方一つ結びと言うのが気になる。


 考えてみると二人は丁度属性が分かれているように見える。


 髪の色も金と銀で見栄えがよく、服も機能的かつ女性的なカッコいい雰囲気を出しているリーナに対し、エイミーのは外出用なのではあろうが、全体的にふんわりした可愛らしい服を着ている。


 その中で髪型の雰囲気が被っているのが妙に気になる。


「なぁリーナ髪型変えてみる気ってないか?」


「はぁ?なんでいきなり」


 さっきの事で少し機嫌が悪くなっている。これは続けるべきかと思ったが、何となく上手くいく予感はあるので切り出してみる。


「いやさリーナみたな子に絶対似合う髪形が俺の世界であったんだけど、それに変えてみないか?レオだってリーナが可愛くなったら嬉しいだろ?」


「え?・・・それは、まぁ、嬉しいけど」


 いきなり話を振られたのもあってかレオがしどろもどろに答える。


「ほら、レオもこう言ってるしさ」


「それじゃあ……でも、ちゃんと本当に似合う髪形なんでしょうね?」


 レオの言葉を聞いてリーナが少し顔を赤くしながら聞いてきた。


「それは保障するって、あっレオは少し後ろ向いててな、後エイミーはちょっと手伝ってくれ」


 エイミーに手伝って貰い髪型を整えていく。うむ、想像通り非常に似合う。


「ちょっと子供っぽくない?」


 エイミーに鏡を見せてもらい、リーナが少しぼやく。


「いやいや凄い似合ってるって、レオもこっち向いて良いぞ」


 呼ばれてこちらを向くレオの動きがリーナを視界に捕えた瞬間硬直した。


「なによ、なにか言いなさいよ」


 顔を恥ずかしそうに赤らめているリーナの髪型はツインテールになっていた。


 エイミーから借りた上にぴょんと跳ねる形のリボンも可愛らしい。


「……可愛い」


 ぼーっとリーナを見つめながらレオがようやく答えた。


「ま、まぁ気に入ってもらえたようで何よりね」


 照れくさそうに顔を背け、髪の毛を指で弄っているのが何とも可愛らしい。


「いやー、やっぱりリーナみたいな金髪にはツインテールだな。これは万国共通の、いや万界共通の男の魂に訴える要素に違いない」


 見惚れてしまっているレオと照れくさそうにしているリーナの姿を見て、思わずガッツポーズをとってしまう。


「私のような髪に似合う髪形はリョウさんの世界にあったりするのでしょうか?」


 ちょいちょいと服を引っ張りエイミーがこちらに聞いてきた。


 銀髪、銀髪か……考えるも特には浮かんでこない。


「うーん、エイミーは今のままで良いんじゃないかな。そのままでも十分可愛いし」


 その返答を聞いてエイミーは「そうですか」と少し嬉しそうで、少し残念そうな顔をした。


 うーん、何かエイミーに似合う髪形を考え付ければよかったんだが。


 道中は歩きながら魔法の説明を聞きつつ魔法陣の練習を続けていぅ。


 それ以外は特に何かある事も無く無事に次の村に着き、宿を取って荷物を置いた。


 到着が夕方という事もあり、少しレオと一緒にトレーニングをして今日は寝ることにする。


 その日の夕食はエイミーが担当して作っており、これが中々に美味しい。


 リーナは相変わらず「ぐぬぬ」と悔しそうな顔を浮かべてはいたものの、ここに来て「もうアタシは料理が出来なくてもいいでしょ」と逆に意固地になり、レオの頭を悩ませていた。


 日が替わり、資金稼ぎの為にレオはエイミーと一緒に魔物の討伐依頼に出かけた。


 情報を聞いて昼には戻ってこれると言い、リーナも見送ったので本当に戻って来れる相手なのだろう。


「エイミーって付いて行って大丈夫だったのか?」


 引き続き魔法の特訓をしながら、本を読んでいるリーナに尋ねる。


「大丈夫でしょう。あの子の実力は本物だと思うし、自分で一緒に行きたいって言い出したことだしね」


 うーん、大丈夫だと良いが。まぁレオが一緒だから何とかなるだろう。


「あっそうだ一つ聞いておきたい事があるんだけどさ」


「なあに?」


「この世界の神様とかについてなんだけど」


 そう聞かれてリーナが手を止めた。


「それってアタシよりもエイミーの方が良いんじゃない?」


「そうなんだろうけど、ちょっと現職の人には少し聞きにくいと言うか」


「……まぁ良いでしょう。で、何の話?」


 それはエイミーとの話の後、ずっと疑問に思っている事だった。


「この世界に神様って居るよな?」


「そうね。で?」


「どうしてこの世界には神様を称える話が一つもないんだ?」


 聞かれて「うーん?」とリーナが頭を捻っている。


「神様ってこの世界だと本当に居て、しかも色々と力を与えてくれてるだろ?ならその神様を称える話か、与えられた人が活躍する物語がある物じゃないか?」


「まぁ……そう言われてみるとそうかもね」


 そう言いつつも何ともピンと来ていない表情を浮かべている。


「アンタんところはそうだったの?そう言えば世界を救う勇者がどうのとか騒いでいた気もするわね」


「あれだ、俺が騒いでいたって事は置いておいて、俺の世界には色々と世界を救ったり、悪を倒す話は大量にあったんだ。それこそ神様が関係なくても、怖い物とか恐ろしい物に立ち向かう話が色々と」


「……そんな疑問は今まで考えた事も無かったわね」


 少し考えた後にリーナが顔を上げた。


「アンタの言う誰かが何かを倒した話はこのご時勢幾らでもあるはずよね。更に言えばもっと前の記録が残っていない時代からもずっと。なのにそれが言い伝えられたりしていないのはどうして?」


 手を口元にやり、真剣な表情でリーナが考え始める。


「そうよ、あの大災害だって乗り越えたと言うなら災害の恐ろしさや、それを乗り越えた指導者達の話もあって良い筈なのに……」


「大災害って?」


 出たワードに疑問を抱くと、リーナがそれに答えてくれた。


「昔にね、世界が滅びかけるような大災害があったらしいのよ。記録としては残ってなくて、神の知識で書かれた教典にだけそう記されてるんだけど」


 その言葉を聞いて、一つ思うことがあった。


「なぁもしかしてさ、この色々と話が消えているのって神様の仕業だったりするんじゃないか?」


 俺の言葉にリーナがニヤリと嫌らしい顔を浮かべた。


「な~る程ね。アンタは最初から神様を疑ってたわけね。だからエイミーにはこの話をしたくなかったんでしょ?」


 ぶっちゃけると図星だった。その発想に「やはりそうなんじゃないか」と思えたのは先程だったが、「もしかして」と言う思いは最初からあった。


「ふー、まぁアタシは別に気にしないし、寧ろアンタの言う疑問をアタシも思うようになったけど、こればっかりはあんまり他の人に言わない方が良いかもね」


「ああ……そうだな」


 実際に神様が居る世界で、その神様を疑問視するような事はしない方が懸命なのは当然の事だ。


「でも、何時かは神様に直接会いに行って問いただすのも、ありなのかもしれないわね」


「直接会えたり出来るのか?」


「その神様曰くね、何か試練を越えたら会えるそうよ」


 成る程、神の試練ってやつか。ありきたりと言えばありきたりな気もするな。


「ま、これはまた後で考えるとしてアンタは魔法の練習を頑張りなさい。そうだ、アンタって何か魔法の象徴と言うか、イメージって何かあったりする?」


「どうしてさ?」


「アンタ用のマントの柄をそろそろ決めようかなと思ってね。ちなみにアタシのは星柄ね」


 そう言って畳んで置いてあるマントを広げて見せてくれる。


 魔法の象徴か……うーん……


「……太陽とか?」


「太陽ね……うん、良いんじゃない。アンタの最初の魔法のイメージにも合うし。それじゃあ材料を買い揃えたら作ってあげるから完成を楽しみに待ってなさい」


 それは実に楽しみに待っていよう。そして、それまでには何とか魔法使いとしての形になれるよう頑張ろう。

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